ランキング八位
「……どういうことかしら」
「一度、この世に生を享けたからには天下を取るしかありません」
「……女の子らしさにステータスを振りすぎた反動かしら。やたらと武将っぽくなったわね」
「行きましょう。お姉さま。まずは東京を平定させます」
握りこぶしを作って空を見る。
そう、わたくしが目指すは高みだけだ。
「そのためにはわたくしよりもランキングが高いという方を落としましょう!」
「あなたよりもランキングが高いというと、荒川区かしら。そこにはランキング八位の小暮坂雷門がいるわね」
隣の区にわたくしよりも強い人がいる。
心が躍る。
「大園寺高校近くのゲームセンターを根城にしていると聞いたことがあるわ」
大園寺高校はここから電車で二駅だ。
「どのような方でしょうか?」
「そうね。一言で言えばバカね」
「常に裸とかでしょうか」
「それは露出狂ね。そういうのじゃなくて……」
お姉さまが小首を傾げた。
言葉を捜してるようだ。
こんなお姉さまは初めてだ。
「いずれ会えばわかるわ」
説明を諦めたようだ。
「では、参りましょう。正々堂々と打ち倒して首を校門前に晒しましょう」
「殺人はちょっとまずいかもね」
「首が駄目だなんて……」
さすがに落ち込んでしまう。
馬に乗って槍に刺した首を掲げるのが夢なのに。
「困ったわね。私はもっと恋の話とかしたかったのだけど」
どうやらお姉さまは乗り気ではないようだ。
「お姉さま。所詮、この世は焼肉定食です。弱ければ死に。強ければ生きる」
「弱肉強食ね」
「似たようなものです。さぁ、参りましょう」
わたくしはお姉さまの手を取り動き出そうとするが。
「待って」
お姉さまはその手を振りほどいた。
「私がしたいのは恋の話で東京の平定ではないわ」
かなり強い口調だ。
どうやら本気らしい。
「お姉さま。駄目でしょうか?」
涙目でお姉さまを見つめる。
「私の目的とは違うし、なによりもあいつとあなたが戦っても面白くないわ」
「お姉さまのいう面白いとはなんでしょうか?」
「……今のところは恋ね。姉妹の会話といえばそれが基本でしょ」
「そんな……」
恋などと軟弱な。
「今の状態はちょっとまずいわね。悪いけど、元に戻させてもらおうかしら」
お姉さまがわたくしに近づいてくる。
それは困る。
あんなつまらない自分に戻るのだけはいやだ。
ここは成果を見せるしかない。
「では、わたくし一人で行ってきます! いざ! 敵は本能寺にあり!」
わたくしは果敢に飛び出していこうとするが、
「待ちなさい」
お姉さまが目の前に立ちはだかった。
――速い。
さすがはお姉さま。
お姉さまのすごいところは得体の知れないところだ。
合気道を使うのかプロレスを使うのか。
さっぱりわからない。
だから、対策が取れない。
今は勝てそうにない。
かといって、逃がしてくれるはずもない。
戦うしか――。
「……と、思ったけど別に行ってもいいわ」
あっさり道をあけた。
「え、い、いいんですか?」
さすがに拍子抜けだ。
「ええ、ここまで調整したのに元に戻すのは手間がかかるわ。だから、自由にさせてあげる。面白くなかったら戻せばいいだけだから」
このわけのわからないところも怖い。
「それでは」
気が変わらないうちにさっさと行ってしまおう。
お姉さまのいう面白さはわからないけど、やるだけやってみよう。