好敵手、姉、恩人
「あはははは!」
お姉さまの笑い声が響いた。
勝ちが決まってからというものお姉さまは笑いっぱなしだ。
「す、全てを使ってと言ったけどあんな方法で勝つなんてね」
お姉さまがまだ笑いをこらえた顔でオレを見つめた。
「でも、面白かったわ」
「喜んでいただけて光栄です」
芝居がかった言い回しに再びお姉さまの頬が緩む。
初めて見た。
お姉さまはこんな風に笑うのか。
「そうだ。勝ったのだからこれをあげるわ」
お姉さまがポケットから写真を取り出した。
「これは?」
「秘蔵写真よ。雷門に勝った際、これをあげるってつばめと約束してたの」
「い、いや! こんなもの渡されても――」
困る。
そう言おうとしたが、あることに気づいてしまった。
「……これ赤ん坊のころのやつじゃん」
「ヌードはヌードよ」
「そういうことかよ」
これはさぞかしつばめも悔しがっているだろうな。
いつもの放課後。
いつもの日常。
「げ、翼だ」
「動画見た?」
「例のやつだろ。変な術使って狂犬倒してたよな」
「やべーよな」
そして、いつもよりも悪い評判。
その後、約束通り義則のランキング入りは取り消された。
しかし、なぜ義則がランキング入りしたのかわからないままだった。
サリユリに問いただしてみたが、
「頼まれただけ。一度ランキングに乗せたらあとはどうでもいいっていうから引き受けたの」
肝心の誰に頼まれたのかは教えてくれなかった。
だけど、なんとなく誰が頼んだのかわかる気がする。
義則がランキング入りしたことでオレを煽っていた人物。
オレと雷門を戦わせようとした人物。
お姉さましかいない。
証拠はないが。
「翼ー!」
振り向けば義則が複数の筋骨隆々な男たちに追われていた。
何もかもなかったことになったが、マラドンナを倒したという功績は消えなかった。
「今度はどこの女に手を出したんだよ」
「ち、違うって! なんか俺と勝負したいんだって! このフライドポテトと同じくらいの力を持つ俺と!」
「ハンバーガー一個分くらいは強いだろ。というか、なんでマック基準なんだよ」
「いいからか弱い俺を助けてくれ!」
「しょうがねぇ――」
助けてやろうとしたそのとき、
そこで助けたら今まで同じですよ。女性として見られたいなら引くことも重要です。
つばめの声が聞こえた。
うるせーよ。
悪態をつくが、もう返答はない。
あの戦いからたまにつばめの声が聞こえるようになった。
どうやら同化しすぎた影響らしい。
とはいえ、聞こえる時間も少なく、会話もろくにできない。
「あとは自分でやれ」
悔しいが、つばめの言う通りだ。
お姉さまにも言われていたのに、あやうく情に流されるところだった。
「そ、そんな!」
義則が情けない顔をする。
「さぁ! 俺と勝負だ!」
「いや、某と!」
「いやいや! 俺と!」
「ま、待ってくれ! う、うわあああああ!」
義則が男たちに担がれて連れていかれた。
さすがにちょっとかわいそうだったか。
わずかに心が動かされた。
「あれくらいでいいのよ」
「お、お姉さま!?」
いつの間に後ろにいたんだ。
「あなたは少し過保護だったもの」
「わ、わかったよ」
「そうそう、これで少しは仲が進展するといいわね」
お姉さまが天使みたいな優しい瞳でオレを見つめた。
「そうしたら、ちょっとは面白くなるかも」
違った。
天使の顔した悪魔だった。
「はぁ、結局、楽しみが優先ってことか」
「もちろんよ。だから、せいぜい私を楽しませてね」
しょうがない。
世話になったことだし。
付き合ってやるか。
……いずれは越えるべき相手だしな。
好敵手、姉、恩人。
いつかはこの関係が変わるときが来るのだろうか。
そのとき、オレは――。




