改造のすすめ
駅前にはファーストフード店やカジュアルな服屋、ゲームセンターなど娯楽に満ちていた。
夕方前の時間帯は同じような学生たちで賑わっていた。
そんな中、
「ずっと前から好きでした!」
「あんたとは初めて会ったでしょ!」
知らない女子に殴られている義則を見つけた。
いつもどおりだな。
「ち、あの野郎。また女にちょっかい出してやがる」
「え、あれが?」
マジかよみたいな顔のたんぽぽが義則を指さした。
「あれだよ」
なぜかたんぽぽが眉間に手を当てて考え込む。
「あのね。もしも、男を魚に例えるとしましょう」
「お、おう」
「あの看板の男がまぐろってところね」
ビルの上に立てられた看板を指差した。
見栄えの良いアイドルが親指を立ててポーズを取っている。
流行のやつだけど、オレはなぜかあまり好きにはなれなかった。
「あの辺りにいる男子はフナとか岩魚ってところね」
たんぽぽがコンビニの前でたむろしている男子たちを指差した。
「は? あんなのが?」
そこそこ顔は良いがなんだかひ弱そうだ。
「そして、あれが長靴よ」
義則を指差した。
「魚ですらねぇのかよ!」
「餌が無くても釣れる。釣れても嬉しくない。共通点はしっかりあるわね」
たんぽぽが真剣な目でオレを見る。
「あれは諦めなさい。もっと上を目覚せるわ。わざわざ底辺に行かなくてもいいわ」
くそ、好き勝手に言いやがって。
「うるせぇ。あいつは確かにアホでエッチだ。水着が下着に見える自己催眠セミナーに通うために親の金を使ったこともある」
「人間性も皆無ね」
「でも、いいところだってあるんだよ!」
「お金?」
「いや、金もねぇけど」
「目を覚ましなさい!」
「いてぇ!」
ぱぁんと頬をたたかれた。
「あなたは操れているの。おそらく毒ね。く、なんてことを!」
「んなことねぇよ! オレは本気であいつが好きなんだよ!」
病人を見るような目で見るなよ。
「本気なのね」
「ああ」
「だったら全裸でいけばとりあえずなんとかなるわ」
「いきなり適当になるなよ!」
「だって、あんなの誰でも落とせるわ」
「んなことねぇって! ……現にオレは無理なんだよ」
オレなりにアプローチはしてきた。
「さりげなくボディタッチしたり! チ、チラリズムしたりよ!」
恥ずかしかったが、それでも今の状況を変えると信じて決行してきた。
「具体的には?」
「ボディタッチは肩パンでチラリズムは腕立て伏せのときに上腕二頭筋とか見せた」
「全然駄目ね。ゴリラでももっとマシなアプローチするわ」
「マジかよ!」
漫画のとおりにしたはずなんだけど。
「なら、どうすりゃいいんだよ」
「そうね。まずはその口調ね」
「は? 口調? なんか関係あんのか? オイ」
「普通の女の子はそんな口調はしないものよ」
んな馬鹿な。
いや、よく思い返してみると普通の女の子はオイとかてめぇとか言わない。
ち、一理あるってことか。
「わかった。いや、わ、わかった、わ、よ?」
「なに、その口調は。もっと自然にできないの?」
「しょ、しょうがないだろ」
今まで口調なんて気にしたことなかったんだから。
「なるほど。これは矯正のしがいがあるわ」
たんぽぽが考え込む。
「今日から学校が終わったらここに来なさい」
「なにする気だよ」
「特訓よ。あなたを女の子に改造してあげる」
「改造ってオレは怪人かよ! お断りだ!」
「怪人より凶暴じゃない」
「そこまで無差別じゃねぇよ!」
「なら、やめる? このままでいいならそれでも構わないけど」
何時まで経っても進展しない関係。
そもそもあいつはオレを女だと思っていない。
「嫌だ」
オレの言葉にたんぽぽは満足そうだ。
「なら我慢しなさい」
「……わかったよ」
相談できるような相手が他にいない以上、仕方がない。
「良い子ね。大丈夫。私に任せなさい。三日で立派な女子にしてみせるわ」
「感謝するぜ! たんぽぽ!」
なぜか睨みつけてくる。
「な、なんだよ」
「そこはお姉さまでしょ?」
「あぁん?」
なぜか深いため息を吐いた。
「……そこまで上品にはできそうにないわね。お姉ちゃんでもいいわ」
「誰が――」
言い終わる前にたんぽぽの手刀が喉に当てられた。
「お姉ちゃん」
こいつ、やっぱ速ぇ。
今の動き、全く見えなかった。
「お、お姉ちゃん」
しぶしぶ言い捨てる。
途端に笑顔になって手を引っ込めた。
「よろしい!」
ち、協力してもらうからな。
今は甘んじて受けてやるよ。