初めての敗北
「うわ!」
何か冷たいものが顔にかけられて飛び起きた。
なぜか顔が濡れている。
「起きた?」
目の前にはたんぽぽがいた。
手にはミネラルウォーターと書かれたペットボトルが握られていた。
負けた……のか。
「敗因、教えてあげましょうか?」
返事の変わりに睨みつけた。
「私の体格だけを見て余裕だとわかって油断したでしょ」
「ああ」
くやしいがたんぽぽの言うとおりだ。
「もしも、警戒して動いてたらこんな結果にはならなかったわね」
「勝負は勝負だ」
オレは胡坐をかいて腕を組む。
「煮るなり焼くなり好きにしろ」
「あら、負けた時の条件を忘れたの?」
そういえば何か言ってたな。
「確か、芋で殴るとか」
芋を手にしたたんぽぽから殴られる自分を想像する。
何十発くらいは耐えられそうだ。
「言ってないわ」
なぜかたんぽぽがオレの顎を人差し指でくいと上げた。
「別にひどいことはしないわ。私の妹になってほしいの?」
「はぁ?」
妹?
「前々から可愛い妹が欲しかったの」
「ざけんなって言いたいところだけどよ。負けは負けだ。従ってやるよ。で、誰を殴りにいけばいいんだ?」
「あなた、思考回路がゴリラね」
「いや、妹っていわゆる舎弟みたいなもんだろ?」
「全然違うわ。私はもっと恋の悩みを解決してあげたりしたいの」
「こ、恋の悩みだぁ!? そ、そんなもんしたことねぇよ!」
「その反応……」
宝物でも見つけたようにたんぽぽの目が光った。
「あなた、恋してるわね」
「うぐ!」
な、なんでバレたんだ!?
やべぇ! なんとか誤魔化さねぇと!
「んなことは――」
「私がその恋を成就させてもいいわよ」
「ま、マジかよ!」
「やっぱりそうなのね」
って、しまった!
バレたじゃねぇか!
「いいわねいいわねいいわね」
たんぽぽが恍惚とした表情で身悶える。
「な、なんだよ」
ヒくわ。
「まさに姉妹って感じね」
変なやつ。
こんなのが姉になるのか。
でも、背に腹は変えられない。
あいつに恋していることを隠してきたせいでオレにはどうしようもなかった。
「好きな人ってどんな人? あなたのことだから自分とは正反対な知的な人かしら。それとも同じ不良みたいな人?」
目を輝かせて聞いてくる。
そこまで良いように捉えてくれるとこちらとしても気分が良い。
「見てみるか?」
「ええ、もちろん」
今の時間なら駅前にいるはずだ。
たんぽぽと連れ立って駅前に向かった。