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初めての敗北

 放課後のチャイムが教室に鳴った。


 すると、すぐさま同じ教室にいた義則がやってきた。


「翼、どっか寄っていこうぜ。北へ向かえってお告げが出たんだよ」


 他のクラスメイトはオレを避けるが、こいつだけは当たり前のような顔をしてやってくる。


「それ気のせいだろ」


「いいや、間違いないね。あっちのほうにでっけぇ気を感じんだ」


 義則が窓の外を指差した。


 そちらに目を向けると女子高が見えた。


「てめー、あっち行きたいだけだよな?」


 ガンをつけた。


 そもそも気ってなんだ。


「いや、そんなことないって! あっちにハンサムを求める気配を感じるんだって!」


「んなわけないだろ。というか、今日はオレ、用事があるんだよ」


「まさか、喧嘩か?」


 義則が真面目な顔で見つめてきた。


 こういうことに関して義則はふざけない。


「……違ぇよ」


 勝負とは聞いたが本人と会うまでは喧嘩とは限らない。


 嘘は言ってない。


「だったらいいか。じゃあ、また明日な」


 義則はあっさりと引き下がって去っていった。


 わりぃな。


 売られた喧嘩は買うのが礼儀ってもんだろ。


 さて、本当に来るのかね。


 もしも、いたずらだったらタダじゃおかねぇ。



 井上公園は公園とは名ばかりで土管がひとつあるだけで遊具も何もないただの空き地だ。


 そのため、いつも誰もいない。


 まさに喧嘩にはうってつけだ。


 指定された場所には既に女が来ていた。


 どうやら本気ってことか。


 女は土管に座って優雅に紅茶を飲んでいた。


 余裕だな、おい。


「あら、遅かったわね」


 あろうことかオレに笑顔まで向けてきた。


「これからすることわかってんのか?」


「ちゃんと負けたら100万円払うわ。鳳翼さん。ここニ年くらいで足立区の不良を潰して付いたあだ名は『暴風翼』や『アンタッチャブル翼』。すごいあだ名ね」


 まるでガキのように無邪気に手を合わせた。


「別に好きでついたわけじゃねぇよ」


 この赤髪を染めていると勘違いしたバカとやりあっているうちについたのだ。


「私は大炎寺たんぽぽ。前は大田区にいたの。あっちはももうつまらなくなっちゃった」


 大田区。


 ここ数年、不良たちのせいで荒れた土地だったらしい。


 しかし、ほんの数ヶ月前に現れた女により平定されたということは聞いたことがある。


「最近、SNSの流行のひとつに私たちみたいな不良を勝手にランキングしているのは知ってるかしら?」


「なんだそりゃ」


 携帯がガラケーのオレはSNSに興味なんてない。


「あなたはこの足立区を平定させたことでつい最近、ランキングは九位に上がったの」


「そりゃどうもって言えばいいのか?」


「これはすごいことよ。私でも一桁ナンバーに上がるまでに一年はかかったもの」


「あ? そっちのほうが早ぇじゃねぇか」


「いいえ、私は積極的に狩りにいってたもの。あなたは違う。だから、気になっちゃったの」


「随分と上から目線だなぁ?」


「だって、格上だもの。私の順位は四位よ」


 舐められたものだ。


 そんなわけわからねぇランキングの順位なんてどうでもいい。


 見たところ体つきは武道をやっているように見えない。


 悪いが圧勝だろう。


「容赦はしねぇぞ」


 喧嘩は好きではない。


 それは本当のことだ。


 しかし、勝負となれば別だ。


「怖い顔ね。あなた、駄目よ。女の子なんだからそんな顔しちゃ」


「知るかよ。それより、忘れるなよ。勝ったら100万円だ」


「いいわ。相手をしてあげる。でも、あなたが負けたら――」


 たんぽぽが前に出た。


 あまりにも隙だらけだ。


 こりゃ楽勝だな。


 オレは拳を顎の高さまで上げてファイティングポーズを取る。


 女であるオレは男と比べても非力だ。


 急所を素早く打ち抜くことが女のオレでも勝てる道だ。


 たんぽぽがオレの間合いに入った。


「私の妹になってもらうわ」


 言葉の意味を理解する余裕はなかった。


 今がチャンスだ!


 直線の軌跡を描いて放たれた拳。


 捉えたと思った瞬間――。


「あ――?」


 視界が反転した。


 なぜか空が一瞬見えた。


 次いで背中に強い衝撃が奔った。


「ぐえ!」


 目の奥がちかちかする。


 倒れてる?


 なんで?


 一瞬、何かが腕に絡みついたような気がしていた。


 まさか、投げられた?


 それよりこれはまずい。


 オレのスタイルは立ち技主体だ。


 寝技には対応していない。


 早く立ち上がらないと。


「遅いわよ」


 いつの間にか。


 たんぽぽの太ももに挟まれていた。


 そのまま片方の足を折り曲げると、4の字になり頚動脈を絞められる。


 よ、4の字固め。



 まさかのプロレス技。


 は、早く抜け出さなくては――。


 しかし、初動が遅かった。


 既に万力のように首が絞められていた。


 駄目だ。意識が……遠くなっていく。

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