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【男しか居ねぇ!】

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「マジで来るの? 来ても水しか出せねえぞ?」


「いや、あるだろ。ていうか呼んだのそっちじゃんかよ」



 ずるりと串刺し、いやさフォーク(三叉鉾)で穴だらけとなったティラノ何某を引き摺っ

て、詩奈(シイナ) (ウグイス)少女遊(タカナシ) 正義(セイギ)にジト目を向けた。


 罷り間違っても歓迎していない、とありありと言い切っている三白眼のその目つきに、セイギ少年は息絶えた爬虫類なのか鳥類の先祖なのか得体の知れないそいつを死屍(シカバネ)に換えた一連の行為を思いだす。

 鳴いて啼いて泣き叫んでも、槍のように尖った得物で穿(ほじく)ることを決して辞めない、まさに死体蹴りと言うべき殺戮行為。

 ああまでしないといけないことがあったのかと、むしろ性癖と言ってしまった方がしっくりくるほどの加虐っぷりである。

 鶯から向けられたジト目には、お前も似たモノに替えてやろうか、という意図がうっすらと込められているのでは、という錯覚にも陥りそうだ。


 ところで件のかつての白亜紀の覇者(現役引退(ロートル))は鳥類の先祖ではなく進化した先である、という説もある。

 進化したとしても環境に適応できなければ絶滅する。

 まるで人類の行く末を匂わせているようだ、とタカナシ少年は関係ないことへ思考を裂いて現状の寒気を回避した。現実逃避とも言う。



 東京都新宿区、通称『混沌都市(ケイオスシティ)・新宿』――というような通り名は無い。

 東京都を心臓の形に張り巡る山手線の、実質血の循環にも似た人の出入りの右心室大動脈の位置に値する東京最大手の都市。

 かつては『内藤新宿』という名もあったが、それを知るのは一部の知識層程度で、今の国民(若者)には『新宿』だけで事足りる。


 漫画やライトノベルのように、異界と幻想が隣り合わせになったなどと言う胡乱な設定が平然と蔓延っているわけでも無く、年間数百から千数人の行方不明者が出るという程度のことも別段ニュースに挙げられることも無い至って平和な都心付近だ。

 そして行方不明被害その実情は主に、主要駅である新宿駅構内が現場に値しているというのが8割を超える。ついたあだ名は『迷宮・(ダンジョン)新宿駅(ステーション)』。

 行方不明になってから最低3日から長くても3か月、迷子という怪奇事件に遭遇した者たちはそれでも生還しているのだから、平和と言えば平和なのだろう。

 ……残りの2割は未だ『不明』としか出ていないが。


 タカナシ少年はその不穏な2割に今回ぶち当たったのではないか、と考えている。

 そうでなければ、街中で大型肉食恐竜に強襲される、などという事件はもっと大々的に報じられているだろう。

 それが無いということは被害者は悉く却って来なかった、ということに他ならないのだから。


 走り回っていたので何処を目指していたのかはよくわからなかったが、向かう先に夜目ながら遠く真っ直ぐ、薄っすらと並び立つ2つの突起が目立つ。

 都心は高層ビルの森なのだから目印にするには言うほど目立っているわけでも無いが、目指しているのは東京都庁なのだろう。

 予想通りに、しばらく歩くと大きな道路を挟んで木々が見つかる。

 新宿中央公園に到着した。

 ……どうでもいいが、その死屍を未だ引き摺っていて良いのだろうか。



「あ。あの男の子、女の子の方に荷物持たせてる」


「ほんとだ。気の利かない奴だな」



 通行人にそんな会話をされて指を指される中学生がそこにいた。

 「やだー、なっさけなーい」「小学生でも空気読むわよねぇー」と男性らが身を寄せ合って囁き合う。

 ソドミーは二丁目へ還って、どうぞ。

 そんなことを思いつつも、タカナシ少年は『女の子』認定された見た目美少女に声をかける。



「なあ、今更だけどその恰好、辞めないか?」


「は? 俺の恰好をお前にどうこう言われたくないんだけど?」


「いや、俺がどうこうってわけじゃなくってさ……」



 先ほども触れたが、鶯はセーラー服を着ている。

 それもスカート丈が短めの、細い太ももが外気に触れる、脚線美がやたらと映える艶めかしい姿態だ。

 屈めば小ぶりな尻が覗けてしまえそうで、――そんな思考に至る自分の頭をタカナシ少年は全力で殴りぬいた。


 力を籠められる丁度いい高さは拳が頬の位置に当たるので、実際に殴りぬいたのは自分の右頬だ。

 自然と働く自制の所為で跡は残らないが、夜半に目を覚ますには逆説的に丁度いい。


 そんな一連の動作に、鶯『少年』はドン引きしていた。



「……何やってんのお前」


「そうなった原因お前だよ……! 性別の問題があるんだから、間違いが起きる前に間違ってることは正しておいてくれねぇかな!?」


「韻を踏みすぎて本題が行方不明だな……」



 言いたいことの3分の1も伝えられないもどかしさに頭を抱えて唸る始末。

 実際、自分でも間違いという言葉のゲシュがクラッシュしそうで何が正解なのかがわから無くなって来た! とタカナシ少年の内心も語り得ぬことへ方向転換し難く迷走中である。


 そんな色々な意味でグネグネ見悶える少年をさておいて、鶯は駅構内へと足を向ける。

 妙に事態への対処がおざなりに長じている、と益体もない方向へ思考を割きつつも、先より目指していた目的地はもう直ぐ其処にあった。



  ■



 世界とは思いのほか安定したモノでもないらしい。

 夜半の現代日本で絶滅したはずの古代生物モドキに追い掛け回された身としては納得せざるを得ないのであろうが、それでも確りと言葉にされるまではまだこの世界の不確実性に関してもう少し希望的観測を抱いておきたかった、とタカナシ少年は回顧した。


 基本、物理法則という科学信仰によってこの宇宙は廻っている、のだという。

 しかし、それが常識で現実(社会)に反映されたのは最近の話で、それらが蔓延る前は信仰と言えば創造主が主題であり、人間の意識は根幹は生命は、全てにおいて神秘という主軸に自重が傾いていた。

 世界は人の認識で構築される曖昧模糊とした側面を強く持ち、『事象の解明』という文明の切っ先がメスを入れた程度で全体像を掌握できるほど単純でないことは勿論だが、信仰や崇拝に端を発するその意識で伺える方向性は大きく傾く。

 その【綱引き】は科学が迷信を駆逐した現在であっても終わることはなく、事実、科学だけでは解明し切れない事象だって存在している、と信仰者らは宣うことを辞めはしない。

 それは、どちらの意識にとって代わっても変わることはない。

 人間は結局、何かに縋らねば自身の存在も定義できない矮小なモノなのだから。


 その【綱引き】に横槍を入れているモノがいるのだが、今はそれは良いと言う。

 本日の問題は横槍などではなく、降って湧いた事象に当たる。


 科学信仰、並びに神秘崇拝のどちらも核心に至っている話ではないが、世界、明白には宇宙は三つに分けられるという。

 まず自分たちが生きている【観測領域】。

 北欧神話に例えていうならば『ミズガルズ』、日本ならば『葦原の中つ国』とでも呼べば良いのか。

 自分たちの棲む、人間の生きることのできる広大で狭窄で限りがあり無限であり夢幻である現実の世界。

 混じって説明されることは当たり前で、人間の認識は結局のところ本人の脳内でしか確立されていないために、数多の多重世界が多層領域となって顕現しているからこその矛盾を孕む、しかして結局『見たまま』にしか存在し得ない単調で単純だが複雑な世界。

 見たモノの見るままにしかそれらを説明する言葉はないのだから、これ以上の説明は不要かつ無用だ。

 これ以外に断定できる言葉があるとするならば、それはそれでそれを見るモノにしか言い表せないし納得もさせられないものである。


 次に、物質の下位に沈殿する【仮想領域】。

 昨今ではある種の専門的な研究によって【拡散型・挟界性限定挟域】と銘打たれている。

 いっそ地獄とでも呼べれば良いのだが、位相が下方にあるということは上位からは修正も容易い領域なので、そこに住まうモノにとっての意識の差でその呼び名はまた変貌する。

 幽世(かくりよ)、妖精の国とも呼べそうであるが、最近の言葉では『転生世界』とでも呼ぶべきか。

 物質の世界でどうしようもなくなった意識が落ち込んで、もっと棲み易い世界を臨むがゆえに流れ着く、それ故に物理的な法則が緩やかにもなる低次位相領域に当たる。

 人間の意識の根底に沈殿するモノとそれなりの共感覚性を兼ねているので、逝き易いし陥り易い。

 ただし、観測領域の影響を多分に受けやすいので、例えば地球の自転が静止したりすれば共々に引っ掻き回されて霧散する。

 まあそうなれば普通に天変地異どころの騒ぎでは無いのだが。


 そして、物質の上位に滞留する【知覚外領域】。

 人間の意識も向かうもう一つの場であり、知覚外と銘打つ以上観測することはできないが、法則上は計測できる故に実存を仮定されている領域だ。

 ちなみに神話的に喩えられても高天原ではまずない。アレは根本的に日本に棲む神々の話なので、そこは歴史の話に傾倒する。この場で語ることでもない。

 基本的に宇宙を主体に滞留しているが、人間から派生した死後の意識なんかも流転している場所なので、地球の地磁気との相互作用で惑星外周を流動し続けるために外宇宙へ移行するほどのエネルギーは備えられない。

 事実、それをおぼろげながらにも観測でき得るのは同領域へのアクセス権を備えた脳髄を抱えた哺乳動物くらいなので、地球外に同質生命が存在していることを確認できない以上は明確な移動まで計測もできない話だ。

 結局のところ意識の流れ着く先、なので感情の残滓が辿り着く領域と同質と見て良い。

 より上位の法則に則って確立されるため、観測領域からの干渉は難しくまた否定もし難い。

 そこを差配するのはただの事象で、意識そのものではない。

 意識も所詮は流動するモノの一部にしかなり得ない、敢えて例えるならば『氾濫する大河』であろうか。

 それ故にその領域内に自意識に準ずるモノは存在し得ず、神などという胡乱なモノにも支配されていることもない、神秘を超越し過ぎた果てに逆説的に神秘の否定を肯定し兼ねない領域でもあった。


 大事なのは三つの領域が相互に干渉または胎動し合うことによって、相応の法則性を伴って宇宙に存在している、という事実だ。

 それらは別個の事象などではなく、人類が観測し得る以上は意味のある事象を伴ってその枝葉を万象に齎す。

 特に、今回タカナシ少年に訪れたのは、知覚外領域からの【法則浸食】という事象の一つである。



  ■



「――幾ら科学が発展し、迷信を駆逐したとしても、神話やらフォークロアなんかはその存在を途絶えさせたわけじゃない。認識される場所が推移した、って程度の話であって、そいつらは居場所を求めて、いつだって人へ還りたがっているのさ」



 胡乱だが、確信を伴った核心を、目の前の美女はそう語る。

 ウルフカットに短く刈った金の髪は男性的にも見えるが、黒のタンクトップを椀形に突き上げるふたつの膨らみは明らかに女性であると主張する。

 脚をピッチリと覆うダメージジーンズでは肌の露出こそ少ないが、女性らしい肉付きがそれでも伺える。

 むしろそういった全体像から漂う、艶の伴った色気に年頃の少年としてはタジタジである。

 何やらこの世界の真実っぽい裏事情をさらりと語られたような気もするが、そんなことが気にならないほどにタカナシ少年にとっては件の美女は刺激的過ぎていた。



「改めて、ようこそ我らが遊戯室へ。此処は区役所に裁定された怪異系異常事件に対処するための部署のひとつだ、私は所長の(くすのき) (ささめ)。こんごともヨロシクぅ」


「た、タカナシセイギです! よろしくおねがいします!」



 モノの(つい)でで行政機関が『そういう(胡乱な)モノ』に真面目に対処している、とバラされていた。

 何やらねっとりとした語尾で握手を求めてくる歪んだ笑みに、しかし美人なので挙動不審ながらも相対してしまうセイギ少年。

 ソファにゆったりと身体を沈めた状態から上体だけを起こして伸ばす細の手を掴んだところで、さきほどからずっと視線の変わらない呆れたような目つきの鶯が苦言を呈す。



「焦ってるとこ言っとくけど、細サンはそう見えて男だからな。つーかこの部署、男しかいねぇから」


「暴露が早すぎんだろッ!」



 リビドーに唆されフルテンションまで上り詰めていた少年が勢いのままにツッコミを入れた。

 情報の収入から理解に至るまでのプロセスが無駄に高速化しているようであるが、そこは気にしてはいけない。

 単純に、性別不詳の第一人者が云う事なので疑う余地が無さそうだ、と少年が判断しただけなのだから。



言わなくていいことを書きなぐった感がひしひし感じる…

もうこれだけで全部説明終わってんじゃねえかな…

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