『思い出したくなかった…』
『こんな体験したことなくて…!』
「普通はそうですのよ」
この世界では精霊を見ることも、声を聴くことも珍しいらしい。
この星のような輝きを見ることができない人がいるなんて…。
なんてもったいない。
「お話の途中でしたが、この世界で生きていく覚悟はありますか?」
『なんで急にぶっ込んでくるの?』
「ふふ!お約束ですの」
『?』
「音無雫さん」
―――――――あなたはこの世界で何をしたいですか?
エメラルドと同じ瞳が音無を見る。
その瞳には戸惑って、困惑している自分の姿しか映っていなかった。
――――この世界で
『何を――』
「おおいにお悩みください」
『そんなぁ…』
「今日はもうお休みになられたらいかがですの?」
『そうする』
家の中に入りシャワーを浴びた。
こんなところは近代的と思いながらもお湯が肌に流れる。
その雫は髪から顔へ、顔から肩、胸をつたって床へと水たまりを作っていく。
濡れた髪からは湯気が立ち、肌に髪がぴたりと張り付いた。
『きもちい…』
この世界に来てからいいことがいっぱいだ。
トイレからこんないいところに住めるなんて…!!!
『異世界万歳!』
「しずくさーん」
『は、はい!なんでしょう!!?』
「着替えを用意してみたので、上がったら着てみてください」
『あ、ありがとう!!』
脱衣所からすぐに出ていくユーシャ。
それはスタスタ歩いていく音と扉が閉まる音ですぐに分かった。
シャワーから上がり身体にタオルを這わせる。
そのまま体を拭き、ユーシャが用意した服へ袖を通していく。
―――――――――――――――――――――――――――――
「あらぁ!お似合いですの!」
『そ、そうかなー』
「ええ!とっても!」
『ごめんね…いろいろ迷惑かけちゃって』
「かまいません」
揺れるスカートにタンクトップ。その胸の下に簡単なベルト。
そして首にはチョーカーがついていた。
そのチョーカーからぶら下がっているのはエメラルドの宝石。
「服を作ったのは初めてでしたので」
『つくった!?これ全部!?』
「そうですの。少々魔法を使いながらではありますが」
『魔法すげぇ』
「守りの加護を付加してあります」
『守りの加護?』
「雫さんを守るものです」
ありがたさが身に染みる…。
こんなに優しくされたのはいつぶりだろうか。
これはユーシャの優しさを形に…フィギュアなんかどうだろう。
―――ん?フィギュア?
『あああああああああ!!!!』
「ど、どうなさいました!?」
『どうしよぉぉおおお』
お宝の山を思い出したのだ。あの部屋を。自分の住んでいた世界を。
よくよく考えたら、このままこの世界にとどまってしまったら…。
自分の住んでいる部屋は?会社は…どうでもいいや。
それよりも…!!
『今までのグッズは?アニメは?ゲームは????』
「よくはわかりませんが…この世界にいる以上手に入ることはないでしょう」
『な、なんだって…!?今までの○○〇万円…』
「この世界にあるものではないでしょうから…」
『こんなことがあっていいのか異世界トリップ…!!!』
膝から崩れ落ちる…。もはやこの世界にいる必要なんてないだろう…。
ユーシャは明らに引いていた。笑顔が引きつってい笑えていない。
このままこの世界にいたら…。
グッズたちの末路を考えると…いやもう考えたくない…。
―――――――――帰りたい
『かえりたーーーい!!!』
「雫さん!?」
『アニメも漫画もゲームもない世界なんて!!!』
「お、落ち着いて…」
『うわーーーん!!まだ手つかず未開封もあるのにーーー!!』
ここから、攻略放棄が始まろうとしていた。