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アイドル魔王は未来へと

「なんかこれ、迫力不足(ショボすぎ)のように思えるのだけれど」

「最初のうちは軽い投資(バクチ)から始めないとまずいでしょう」

 岩雪(ごうけつ)姫はドラゴン(むりすじ)早々に(とっとと)配置して鍛錬すべき(けちらしてしまえ)意見した(むちゃいう)が、遅延僧(チェンソー)曖昧(テキトー)に笑ってあしらい、常識的な(つまらない)答えを返した。

 一見したのみでは強引に(バカげて)見えるが、実は姫の意見(デタラメ)にも一理ある。いきなりドラゴンに襲われるという状況(ムリゲー)は、岩雪(ごうけつ)姫自身が実際に経験し(ハマって)さらにその状況(ぜつぼう)乗り越えた(しにかけた)のが彼ら勇者パーティーなのだから。

 だからと言って実現すれば良い(エイヤとやっちまえ)という発想になる辺り、良く言えば純心で素直、悪く言えば考慮が浅い(バカすぎる)のがいかにも岩雪姫らしい。

 岩雪姫はうなって考え込む(いねむりする)。正直言って、岩雪(がさつ)姫は細やかな(おおざっぱで)経営(たにんへ)配慮(きづかい)が最も苦手だ。遅延僧(コンサルタント)もそこは長い(ブラック)旅路(ろうどう)でよく知っている(こきつかわれた)こともあり、理解(アキラメ)しているところだ。

 そんなこともあり、旅の仲間(くされえん)ということで、遅延僧(チェンソー)は一つ提案(バクチ)を持ちかけた。

「まずは魔王城(ほんめい)看板(たてまえ)を立てつつ、もう少し穏やかな(バカげていない)ものを打ち出すのはいかがですか」

「それって例えば?」

 言われて遅延僧(コンサルタント)は慌てて周囲を見回す。と、一人(あやしい)(やつ)がこちらにやってきた。頭にはシルクハットなのに服装は破れのある革鎧、足元は分厚い革ブーツ、腰には戦斧。そのくせ手にはフルートを持っている。何か事情は(うさんくさい)あるのだろうが、どうにも統一感(デタラメで)のない(ヤバすぎ)外見だ。

「これはこれは救国の英雄殿、そして英雄姫ではありませんか」

「ありがとう。貴方は?」

「よく聴いてくれた。俺は闘う吟遊詩人こと悪霊王だ」

 怪しげ(うさんくせー)な名前に、当然に岩雪姫も遅延僧も黙り込む。そして姫はおもむろに手の中に火の玉を生成した。

「だから姫様(のーきん)は簡単に手を出さない!」

 慌てて遅延僧(チェンソー)武装(チェンソー)を姫に突きつけて押さえ込む。さすがに怪しい男も岩雪姫の短慮(クソバカ)に気づいて態度をあらためた。

「失礼した。俺の『悪霊王』というのはいわゆる芸名ってやつだ。戦う吟遊詩人というのは、冒険者で音楽家でもあるということで、自称しているんだ」

「で、その悪霊王がなんなのよ。とりあえず燃やしていけないなら凍らせても良いかしら」

姫様(のーきん)はいったん口を閉じていただけます?」

 遅延僧(コンサルタント)は姫をやんわりと(バカじゃねーの)たしなめると、あらためて悪霊王に問いかけた。

「我々に声をかけたのは、討伐の話でも聞きたいのかね」

 男は弱々しく首を振って答えた。

「違う。俺は最近まで音楽パーティーを組んでいたんだ。しかし俺の音楽は過激でね。花咲姫からは風紀の乱れにつながりかねないという指導を受けてしまった。おかげで歌姫も弦楽器担当もいなくなったというわけさ」

花咲(ねーさま)姫は(クソ)真面目ですからね」

 姉姫の話題が出たせいか、岩雪姫も久しぶりに姫としての口調で返す。そして姫は笑顔で答えた。

「その音楽、ちょっとここで演奏できますかしら?」

「良いのか? 花咲姫のように怒らないか?」

「私は旅先で田舎の不思議な音楽にも触れておりましたから、宮廷の音楽以外でもさほど驚きませんよ」

 男は姫と遅延僧の顔を見比べ、そしてフルートを吹き始めた。

 その曲はフルートで演奏するには拍があまりにも速すぎる。途中で男は足踏みを始めた。足には金属板がついており、ガシャガシャと騒々しい音がする。そして最後に男は濁声で歌い始めた。

 その歌声は、野卑とも言えるが荒削りとも言える、聴き慣れない歌声で。

 その旋律は、あまりにも荒々しく嵐の海を思わせるもので。

 その歌詞は、魔王を殺せと叫んだあとで王もぶん殴れなどと不敬極まる歌で。

 と、さすがに男も自身の歌の危うさに気づいたのか、慌てて歌を止めた。しかし岩雪姫は目を輝かせて言った。

「なあにが文化と芸術よ、あの閉じこもり姫! 最高じゃないこの歌!」

 姫は太腿が見えるのも構わず足を上げて手近な岩に足をかけ、先ほどの拍子を足踏みで真似てみせる。岩雪姫はダンスは苦手でも剣舞や、まして実戦は大得意だ。この荒々しい旋律は彼女にあまりにも合うものだった。

 一見はしたないと見える姿勢のまま、姫はすっと顎をあげて声を発した。

 いつもの刺のある声が、透明感をもって空に広がった。先ほどの冒涜的な歌詞を、男よりも高く広がる声で歌いあげる。そして男の目をじっと見つめた。

「私は、好きだよこの歌」

 男は呆然としたのち、いきなり土下座して言った。

「姫様、私の歌姫になってください!」

「あの私、これでも王国の姫なのですが」

「貴女の歌は、私の芸術(ぼうとく)的な歌に奇跡的なほど似合う。絶対にお願いしたい」

 岩雪姫は眉を(マジで)ひそめて(いってんのかと)考え込む。自身(バカなり)でも薄々(げんじつ)はわかっていたが、剣術(ぼうりょく)攻撃魔法(はかいりょく)以外には、これまで何かを期待(やれる)されたことが(わけねーだろと)あっただろうか(さじをなげられていた)

 英雄(ヒーロー)を気取ってはいたけれど、王国の賢者と称えられ美貌や礼儀のできた花咲姫(ねーさま)こそ、やはり統治者としてふさわしい。冒険者(ゴロツキ)軍人(ぼうりょく)という立場(にげば)偉そうに(げんじつとうひ)していたけれど、それは本来、姫の仕事ではない。そのくせ今さら政略結婚という気にもなれないわけで。

 その半端(テキトー)さが勇者(はつこい)にも見透かされたのかもしれない。

「ねえ遅延(なまぐさ)僧、魔王城は最後にぜっったい作りたいけれど、最初に歌姫になるのも良いかなって」

「それ、本気(マジ)っすか」

「歌姫なら花咲姫(ねーさま)ともそれほどぶつからないで済むでしょ。まあ、歌詞がアレだけど」

「じゃあ僕はどうすれば」

「その得物(チェンソー)、轟音が鳴るから楽器にもできるでしょ」

「そんなの無茶苦茶だ!」

「いやその振動(ビート)、俺の(ハート)衝撃(ビンビン)くるぜ?」

 悪霊王(おんがくバカ)が元の口調になって親指を立て、遅延僧(ぎせいしゃ)の肩を力強く(ガツンガツン)叩いた。


 花咲姫(どくさいしゃ)守護(しはい)する高潔(ふじゆう)な王国が瓦解して、野蛮(じゆう)混迷深い(そくばくのない)魔王(うたひめ)支配(かいほう)屈する(すくわれる)のは、これから三年(すこし)後の話である。

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