かゆいかゆいかゆい
体がかゆい。かいてもかいてもかゆみが収まらない。かけばかくほどかゆみが増している気がする。
「ちっ」
思わず舌打ちが出る。イライラしてきた。なんでこんなことに時間を取られないといけないんだ。
「かゆみ止め……あった」
引き出しから目当てのものを取り、かゆみを感じる場所に塗っていく。……何も変わらない。あいも変わらず全身がかゆい。何の効果も感じないどころか、さっきよりもかゆみが強くなっている。
「くそっ」
かゆみ止めを塗りたくる。かゆいかゆいかゆい。なんで効果が現れないんだ。イライラが止まらない。
「こんなもの!」
かゆみ止めをゴミ箱に投げ捨てる。塗り薬じゃダメだ。何かいい方法はないか。いまいましいかゆみを抑える方法が何か。
「……ひと風呂浴びるか」
体を洗えばかゆみも多少はマシになるはずだ。服も着替えよう。チクチクから来ているかゆみかもしれない。肌に優しい素材の服にすれば、かゆさもなくなるだろう。
タンスから着替えの服を引っ張り、俺は風呂場に向かった。
ボディタオルに石鹸をつけ、全身をくまなく洗う。念入りにゴシゴシこすればこするほど肌が赤くなる。かゆみは一向に収まる気配がない。時間が経てば経つほどかゆみが激しくなっている。
かゆさを感じることは今までにもあったが、これほどまでに長引いたことはない。何か体がかゆくなるようなことをしただろうか。いや、いつもと違う行動を取った覚えはない。普段と何ら変わらない日常だった。
分からない。どうしてこんなにかゆいんだ。なんでかいてもかいてもかゆみが収まらないんだ。いったい何が起きているんだ。
「いっ!」
しまった。かきすぎた。血が出ている。石鹸が染みて痛い。皮膚が破けるほどかいていたとは。うかつだった。
「ぐぅ」
湯が傷口に染みる。かゆみと痛みが同時に襲い掛かってくる。
「ああああ」
かゆいかゆいかゆい。かゆくてかゆくてたまらない。
「いっ、痛いぃいい」
皮膚が剥がれ落ちる。血が流れ出る。かきたくない。かきたくないのに、かきむしらずにはいられない。
指の先が真っ赤に染まる。爪の間に肉片が入り込む。体も床も何もかもが赤い。ダメだ。これ以上出血しては。かくな。かくな絶対に。
「うが。うぐあああ」
か、かゆい。動くな、俺の指。出血がひどくなる。こらえろ、かきたくなる気持ちを抑えるんだ。
「う、うぅ」
床を這いずりながら風呂場を出る。かゆみと痛みで立ち上がることもできない。包帯を巻かなくては。包帯を……。
「はぁはぁ」
時間はかかったが、どうにかリビングにたどり着いた。救急箱を開け、包帯を手に取る。
「ふぅ」
歯をぎゅっと噛みしめ、消毒液をかける。
「っ!」
痛みで意識が飛びそうになる。耐えろ、耐えるんだ。
「ぜぇぜぇ」
ヒリヒリとした痛みに耐えながら包帯を巻いていく。気休め程度の応急処置でしかないが、何もしないよりはましだ。今はもう動く気力もない。病院は明日行こう。
とにかく休みたい。横になり、目をつむる。
「……うぐぅ、あああああ!」
か、かゆい。体の中がかゆい。なんなんだこれ。内側がかゆいなんてことがあるか。
「体の中なんかどうやってかけばいいんだよぉおお!」
かけない。かきたいのにかけない。外も内もかゆい。どうする。どうすればかゆみを抑えることができる?
「あ、あ、あ」
かゆい。痛い。かゆい。痛い。かゆい。痛い……。
「――何が起きたらこうなるんだ?」
「さぁ?」
叫び声が聞こえるとの通報を受け、駆けつけた二人の刑事。彼らの目の前には、右腕を口の中に突っ込んで絶命している男の死体があった。




