表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おとなしあたー  作者: 音無威人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/50

鬼がやってくる日

 この村では一年に一度鬼がやってくる。比喩ではなく、文字通り本物の鬼が。それも何十匹もやってくる。どういうわけか節分の日にだけ姿を現すのだ。

 彼ら鬼がどこから来たのか、何を目的にしているのか、それは誰にも分からない。対話を試みた者は一人もいないのだ。誰にとっても鬼は恐怖の対象でしかない。

 ゆえに取り決めができた。節分の日に外に出てはならないと。




「ママ、怖いよ」

「大丈夫。家の中は安全よ」

 頭から布団をかぶり、子供はガタガタと震えている。母親は布団ごと子供をぎゅっと抱きしめ、大丈夫大丈夫と繰り返し呟いた。自分自身にも言い聞かせるように。

『ウーウー』

 村中にサイレンの音が鳴り響く。鬼が来た合図だ。

「……」

 親子は息を潜める。サイレンの音に、甲高い声が混じっている。鬼たちの声だ。

「マ、ママ」

「しっ。静かに」

 母親は人差し指を口に当てる。子供はコクコクと頷いた。

『ケケケケケ!』

 鬼たちの声が次第に大きくなる。近くにいる証だ。

「っ……」

 緊張の糸が張り詰める。ドクンドクンと鼓動が早くなる。母親は子供を抱きしめる腕に力を入れた。

『……ケケケ』

 鬼たちの声が遠ざかる。やがて聞こえなくなった。

「ふー」

 張り詰めた緊張の糸が切れ、親子は力なく倒れ込んだ。

「もう大丈夫だよね?」

「多分ね」

 顔を寄せ合い、ひそひそ声で話す。親子の不安は明日を迎えるまで消えそうになかった。




「鬼は―外ー!」

 自警団鬼対策課のミコトは豆を全力で投げた。

「ケケー」

 豆は鬼の口の中に命中する。鬼は何事もなかったかのように向かって来る。

「ひるむな―! 鬼は外ー!」

 鬼の群れを追い払うため、鬼対策課の面々は豆を投げ続ける。

「ケケケケケケー」

 一発、二発、三発と、豆が鬼の口の中に入る。

「ケケー」

 一匹の鬼が帰っていく。


 鬼対策課は長年の戦いで、鬼を追い払うためには何をすればいいかを突き止めていた。やるべきことはただ一つ。鬼の口の中に豆をぶちこむこと。一定数の豆をぶちこめば、鬼を追い払うことができるのだ。

「この調子でぶちこめー!」

 ミコトは叫び、豆を一気に投げる。数匹の鬼の口にヒット。

「さっすがミコト兄貴、俺っちも頑張るっす」

 仲間のサルキチがふんと鼻を鳴らし、鬼の群れに飛び込む。

「ウキー」

 俊敏な動きで鬼に近づき、豆を口の中に放り込む。豆を投げるのが苦手なサルキチは持ち前の身体能力を活かし、鬼の口に直接豆を入れるやり方を得意としていた。

「やだやだ。野蛮で美しくないわ」

 キジミは地を駆け、空に飛びあがった。鬼の群れを飛び越しながら豆を投げる。豆は放物線を描き、鬼の口へ吸い込まれていく。

「帰りなさい」

 何匹かの鬼が帰っていく。

「うおおーん」

 イヌスケが吠える。鬼の群れの間を四足歩行で走り抜け、すれ違いざまに豆を投げる。数匹の鬼が立ち去った。

「ミコト兄貴、あと少しっす」

「早く帰って汗を流したいわ」

「わおーん」

 残りの鬼が一斉に飛びかかってくる。

「これで最後だ」

 ミコトが腕を振る。その一瞬で、残りの鬼全ての口に豆が放り込まれた。

「神速の名は伊達じゃないっすね」

 サルキチの目はキラキラと輝いている。

「今年の節分は終わりね」

 キジミはけだるげにつぶやいた。

「わおおおおおおん!」

 イヌスケが村中に轟くほどの声で吠えた。




「ママ、イヌスケの声だよ」

「ほっ、もう大丈夫みたいね」

 親子は安堵の息を漏らした。




「おー、ようやく帰ってきたか。今年はどうだった?」

「うん。いっぱい豆食べたよ」

「そうかそうか。人間は優しいな。豆をたくさん食べさせてくれるなんて」

 数十匹の小鬼はケケケと笑う。人間たちは知らない。村にやってくる鬼がただの子供だということを。豆をたらふく食べたいがためにやってきていることを。鬼には恐怖を与えているという自覚がないことを。何も知らないのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ