呪いの品ダイエット
「んげっ」
体重計の数値が昨日よりも増えてやがる。飯がうますぎるのがいけねえんだ。あんなうまいもん、食い過ぎるに決まってる。
「はぁ、ビール腹にだけはなるまいと思ってたのによ」
お腹周りの肉が恨めしい。学生時代はガリガリな方だったのによ。やっぱ運動の回数が減ったのが原因か。
昔は体育の授業で適度に体を動かす機会があったからな。そのおかげで細い体型を維持できてたんだろうな。卒業してからというもの、運動とはてんでご無沙汰だ。
今はまだビール腹だけで済んじゃいるが、このままのペースで体重が増えりゃ、いずれは百キロを超えるかもしれねえ。それだけは避けねえと。
よし、ダイエットを始めるか。学生時代の体を取り戻すんだ。
『ぐー』
……まぁ、始めるのは明日からにして。とりあえず腹ごしらえっと。
「全然減らねえ」
ダイエットを始めて一か月。体重は減る気配がない。
「どうす……もぐっ……りゃいいんだ」
ちくしょー。飯を食う手が止まんねえ。止められるわけがねえ。だってうめえもの。
「成功する気がしねえ」
なんか手を打たねえと。体重が増える一方だ。どうすっかなぁ、マジで。
「ダメだ、何も思いつかねえ。ダイエット特集とかやってねえかな」
テレビをつける。どのチャンネルでもそれらしい番組はやってない。
「お」
オカルト特集か。好きなんだよなー。
「ん? んん?」
呪いの絵……いけるかもしれねえ。一か八かやってみるしかない。痩せるために。
「よしいい感じだ」
ダイエットを始めて二か月。体重が徐々に減り始めてきた。
「呪いの絵をプリントアウトした甲斐があった」
オカルト特集で取り上げていた『見たら不幸になる絵』。俺はその絵をプリントアウトし、皿に張り付けた。完食したら皿の底が見える。つまり呪いの絵が見えて不幸になる。不幸になりたい人間なんていねえ。皿の底を見たくないから自然と食べる量も減る。食べ過ぎないから体重も減る。なんて完璧なダイエットなんだ。
まぁ、心の底から呪いの絵を信じてるわけじゃねえが。どっちかっつーとそんなもんはないと思ってる派だからな。でもこの絵を見て、不幸になったと感じた人間がいることは確かだろうよ。じゃねえと見たら不幸になる絵なんて噂、出回んねえだろうし。
俺からすりゃダイエットを後押ししてくれた幸福な絵だ。
「ありがたやありがたや」
このままの調子で痩せてやる。いっちょ新しい呪いの品、導入してみるか。
「足がプルプルしやがる。だが座るわけにはいかねえ」
ダイエットを始めて三か月。腹が引っ込んで来た。
「げ、限界だ」
椅子を避けて、床に倒れ込む。
「ふぅー、危なかった」
ほんの少し避ける動作が遅れてたら『座ると即死する椅子』に座ってたところだ。座ったらやべえかもって意識があれば、限界まで空気椅子ができるはずという考えの元、導入したが、その甲斐あって数十分以上は持った。
しばらく立てなくなるが、これもダイエットのためだと思えば大したことはねえ。俺は今、痩せている実感がある。理想の体型を手に入れるのも時間の問題だ。
ほんの思い付きで始めた呪いの品ダイエットが、ここまで俺に最適な方法だったとは。やっぱ楽しみながら続けられるってのがいいんだな。
スリルも味わえるし、一石二鳥ってのはまさにこのことだ。
「あっ……まぁ、大丈夫か」
皿の底が目に入らないよう、盛り付けの時は注意してたってのに。うっかり呪いの絵を見ちまった。大丈夫だよな、プリントアウトしただけのもんだし。
「でもついてねえ感じがするな。今まで気を付けてただけなのによ」
気分が滅入る。見たら不幸になるってのはこういう気持ちのことを言ってるのかもな。やっぱ気の持ちようなんだな、呪いの品ってのは。
「気の持ちようだと思ってたんだがな」
見たら不幸になる絵ってのは本当だった。ダイエットを始めたおかげで恋人ができた時は、幸福が舞い降りたって本気で信じたのに。
「なんでこんなことになるんだ」
目を離した隙に、恋人が椅子に座った。あの『座ると即死する椅子』に。
「まるで魂が引っこ抜かれたみてえだ」
恋人は椅子に座ったまま死んでいた。目立った外傷はない。ただ表情だけが恐怖におののいている。死んだ瞬間を見たわけじゃねえから何が起きたかは分からない。
「どうすっかな」
このままにしとくわけにはいかない。警察に連絡するか? 呪いの椅子に座ったから死んだって話を信じてくれるとは思えねえし、やめといたほうがいいか。
「うーん……よし、寝よう」
一晩寝たらいい考えも思いつくだろう。
恋人が亡くなってから一週間。
「死臭って食欲減退効果あるんだな」
いよいよダイエットも大詰めだ。




