惚れ薬に頼った代償
本当に効くのだろうか、この惚れ薬は。胡散臭いことこのうえない。こんな代物が現実に存在するとはどうしても思えない。たぶん、騙されたんだろう。分かっている、分かってるんだ、そんなことは。
でもどうしようもない。こんなものにでも頼らなきゃ、僕は彼女と結ばれない。一縷の望みにかけるしか道はないんだ。
ダメで元々だ。嘘だったとしても仕方がない。ありえないと思いながらも買うことを決めたのは僕自身だ。やるしかないんだ。僕にはもうこの方法しか残されてないんだから。
「ふぅー、少し休憩しようか」
練習を終えた彼女が椅子に座った。彼女はテニス部の、いや学校一のマドンナだ。
「お疲れ様、これ」
「ありがとう」
僕は彼女に声をかけ、お茶を手渡した。緊張で声が震えていなかっただろうか。何か変だと思われたら……思うわけないか、お茶に惚れ薬が入ってるなんて。
「ん、冷たくておいしい」
マネージャーになって良かったと心から思う。この立場じゃなきゃ、惚れ薬を飲ませるのは難しかった。あとは効果が出るのを待つだけ――本当であればの話だが。
「うっ」
彼女の様子がおかしい。ほんのりと、頬が赤く染まっているように見える。
「な……んで?」
彼女と目が合った。僕を見る目がどこか熱っぽい。ドキドキしてきた。
「あ、ありえない。こ、こんなの」
何か変だ。彼女は肩を抱いてがたがたと震えてる。顔も真っ青だ。
「だ――」
「近づくな!」
伸ばした手を引っ込めた。引っ込めざるを得なかった。彼女の言葉にはそれほどの圧があった。
「なぜ……なぜ私はドキドキしている?」
彼女は胸を押さえながら僕を睨みつけている。初めて見る表情だ。
「なぜ君に……触れたいと思うんだ?」
ほんの一瞬、彼女の目から鋭さが消えたように見えた。声にも甘さが乗っている。そんな感じがした。
「これは、この感情は――恋だ」
あぁ、聞きたかった言葉だ。夢にまで見た言葉だ。惚れ薬は本物だったんだ。
「――こんなの変だ。私は君を何とも思っていなかったのに!」
……知っている。だから僕は惚れ薬なんてものの力を頼ったんだ。
「この感情はなんだ? 本当に私の気持ちなのか?」
彼女はきっと戸惑ってる。無理もない。薬の力で無理に生じさせた感情だ。自然に芽生えたものじゃない。
「いつだ。いつからだ。私が恋……」
言葉が途切れた。彼女はぼけっとしてる。
「まさか」
目の動きで分かった。彼女は気づいたんだ。お茶が原因だと。
「……そうだ。これを飲んでからおかしくなったんだ。何か入ってるとしか考えられない。たとえば……惚れ薬とか?」
まっ、まずい。彼女の言葉に反応してしまった。これじゃ惚れ薬を入れたと認めているようなものだ。
「入れたんだね」
僕は思い違いをしていた。惚れ薬を使えば結ばれるなんて甘い考えだった。何の前触れもなく芽生えた恋心に、疑念を抱かないはずがなかった。
「――もしもし警察ですか?」
「――僕は惚れ薬を飲み物に入れただけで、悪いことは何も……」
「人の飲み物に薬を盛るのは違法なんだよ。覚えときな、坊主」




