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おとなしあたー  作者: 音無威人


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44/50

人類は滅びない

「た、助けて、誰か」

 若者は走った。迫りくる大型の竜巻から逃げるために。

「きゃー」

「うわあああ」

 逃げ遅れた人々の断末魔が、若者の恐怖心をあおる。

「し、死にたくない。死にたくね……」

 彼の叫びは、竜巻が奏でる轟音に飲み込まれた。




「放水開始!」

「隊長、火の勢いが弱まりません」

「ヘリが来るまで持ちこたえるんだ」

 火の勢いは衰えることを知らず、木々を飲み込んでいく。空が真っ赤に染まるほどの火の手が、山全体を包み込んでいた。

「た、大変です。他の場所でも山火事が」

「なんだって?」

 遠方で上がる火柱に、隊長は目の前が真っ暗になったような気がした。




「建物に入るんだ! 早く!」

 異変に気付いた男性が叫ぶ。次の瞬間、ドンと鈍い音が響き、男性は地面に倒れた。

「きゃー」

「な、なんだ?」

 人々は上を見上げる。拳よりも一回り大きなサイズのひょうが、空を覆いつくしていた。

「に、逃げろー!」

 ひょうが降り注ぐ。建物の窓は割れ、道路には穴が空き、人々はパニックに陥った。




『――世界各地で異常気象が相次いでいます。死者の数は数万人を……』




 半年後。

「瓦礫もずいぶん片付いたな」

「えぇ、ほんと」

 竜巻の被害に遭った都市は少しずつではあるが、かつての姿を取り戻しつつあった。

「もうひと踏ん張りするか」

「飲み物を用意するわ」

 住民たちは復興に向けての準備を着々と進めていた。




「隊長、山に動物が戻って来てます!」

「本当か?」

 部下からの報告に、隊長は歓喜の声を上げる。山火事の後、姿を消した動物のことが頭から離れなかった。いてもたってもいられず、隊長は火事のあった山に向かう。

「おぉ……!」

 木々の間から小鳥のさえずりが漏れている。動物の鳴き声もどこからともなく聞こえていた。

「よ、良かった」

 山全体から生命の息吹を感じ、隊長はぽろりと涙を流した。




「あなた」

 女は手を合わせる――遺影に向かって。彼女の夫は犠牲者の一人だった。

「名前はのぞみにしたわ。あなたが残してくれた……大切な子だから」

 生まれたばかりの娘を腕に抱き、女は晴れ渡る空を見上げた。




「――なんで滅びないんだ! 異常気象を引き起こしてるのに」

 それは雲の上にいた。はるか高みから地球を見下ろし、世界各地で勃発している異常気象の元凶。人はそれを神と呼んでいる。

「いつもいつもいつもいつもあいつらは生き残りやがる。地球規模の洪水を引き起こした時だって乗り越えた」

 神話上で語り継がれる大洪水、それは神が人類を滅ぼすために引き起こしたもの。それだけではない。歴史に残る大災害はすべて、神が人類を滅ぼす目的でもたらしたものだった。

「どうやったらいなくなる」

 太古の昔から争い続ける人類に、神はうんざりしていた。このままでは人間以外の動物の生命も脅かされる。地球のために、神は人類を滅ぼす決断を下した……はずだった。

「地球から人類を消し去るにはどうすればいいんだ! どうすれば……」

 神は頭を抱える。人類を滅亡させる、そう決めてから数万年の月日が流れた。いまだ人類は繁栄を続けている。

「なんてしぶとい生き物なんだ、人間は」

 人類の生存能力は神の采配を軽く凌駕していた。全知全能の神であっても、人間はどうにもならない。

「人間の分際で……神を煩わせるなぁあああ!」




「さっきまで天気良かったのに、急に雷なんてサイアクゥー」

 成長したのぞみは学生鞄を傘代わりに、雨の中を駆け抜けていった。

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