半透明人間
人間の母さんと透明人間の父さんの間に生まれた子、それが俺だ。半分人間の血が混じっているせいか、俺は透明人間にはなれなかった。どこからどう見てもただの人間だ。
透明人間の子供なのに、透明じゃない。父さんと似ている部分が見つけられない。俺は顔を知らない。見えないのだから知ることができない。顔が似ているのかどうか分からない。そのことが悲しい。
最初は良かった。父さんが普通ではないと知らなかったガキの頃は、姿が見えなくても何も思わなかった。当然だ。透明人間がなんなのかも理解していなかったんだから。ただ単に父さんの姿は見えないものだと漠然と思っていただけだった。
だけど成長するにつれ、普通ではないと知った。透明人間は創作上の存在、それが世間一般の常識だった。――父親はいない、周りはそう思っている。そのことに気付いたのは小学校に入ってすぐのことだっただろうか。
俺たち家族だけが、父さんの存在を知っている。だからこそ父さんは自由だった。何にも縛られることなく、この世界を謳歌していた。そんな父さんが俺は羨ましかった。
一部分でもいい。どこか透明であったなら、俺は……。
「スケル、また喧嘩したのか?」
「……」
「喧嘩はやめろと言っただろ」
「うっせえ」
「どこに行く? 話はまだ終わってないぞ」
喧嘩をしたいわけじゃない。でもどうしようもない。痛みで紛らわせないと、心が壊れる。そんな気がする。
俺は疑ってる。心のどこかで、本当に――父さんの子なのかと。
「まったく、誰に似たんだか」
父さんの呆れたような声が聞こえる。そんなの俺が聞きたい。誰に似たんだと。
不信感が心をざわつかせる、イラつかせる。怒りが俺を喧嘩に駆り立てる。喧嘩をしてる間は無心になれる。現実から目をそらせる。
「母さーん、飯―」
俺は見たくない。母さんが浮気していたかもしれない。その疑惑から目をそらしたいんだ。
「ここらのシマは俺らが仕切ってんだ。調子に乗んじゃねえぞ!」
ガラの悪い男に絡まれた。その背後に、ボロボロの男たちがいる。どっかで見たことあるような……あぁ、この前、喧嘩した奴らか。
「いくぞ、てめえら」
殴られる。痛みで気を失いそうになる。が、それでいい。気を紛らわせるなら、相手がヤンキーだろうと関係ない。喧嘩は買ってやる。何も目に入らなくなるまで――。
「殴りあおう!」
俺の目を曇らせてくれ。
「――腹部を刺されてます。危険な状態です」
「手術室に運べ」
「はい」
……油断した。まさか刃物を持ってるとは。刺されるなんて、予想外だ。こんなはずじゃなかった。俺はただ気を紛らわせたかっただけなのに。
「今から手術を始める。メス」
「はい」
はぁ、はぁ、何も感じない。痛みさえも。頭がボーっとする。目がかすむ。いったいどうなるんだ、俺は?
「な、なんだこれは!」
「せ、先生、こ、こんなことって?」
なんだ、何を騒いでるんだ。
「ありえない。中身がないなんて、こんなバカなことあるわけが……」
中身がない……? あぁ、そうかそういうことか。なんだ、ちゃんと親子じゃない……か。




