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おとなしあたー  作者: 音無威人


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40/50

ミタイセカイ

 僕は生まれつき目が見えない。世界も耳でしか感じたことがない。音だけが僕のすべてだった。

 でもそれも今日までだ。僕は明日手術を受ける。その手術が成功すれば、目が見えるようになるらしい。楽しみだけど怖くもある。失敗したらと思うと不安で仕方がない。

 すべては明日決まる。ドキドキが止まらないや。



「――いいですよ。目を開けて」

 手術は成功したのだろうか。目を開けるのが怖い。もし何も見えなかったらと思うと胸が張り裂けそうだ。

「大丈夫ですよ。手術は成功しました。怖がる必要はありません。さぁ」

 先生の優しい声に、僕はようやく目を開ける決心ができた。

「……おぉ」

 もしや、これが僕の手? そうか、手ってこんな形なんだ。

 すごい。見えるってこんなにワクワクするものなのか!

「先生、見えます」

「それは良かった」

「……え?」

 変だな。今、何もないところから声が聞こえたような気が……いや、そんなわけないか。

 でも先生はどこにいるんだろう。ずっと話をしてたんだ。いないわけがない。そのはずなのに、どうして姿()()()()()()んだろう。

「先生」

「はい、なんでしょう」

「どこにいるんですか?」

「はい? どこって目の前にいるでしょ、私は」

 声は聞こえる。けど姿が見えない。目の前には何もない。

 いったいどういうことなんだろう。僕の目はまだ治っていないんだろうか。

「先生、見えないんです。声は聞こえるのに、先生の姿が」

「私の姿が見えないのは普通のことです。気にしないでください」

 普通のこと? なんだ、何を言ってるんだ先生は?


「実は三年ほど前に、ある薬が販売されましてね」

 なんだ、何の話をしているんだ?

「その薬というのが、肉体を透明に変化させる、つまり透明人間になれるというものでして」

「透明人間……?」

「えぇ、だから私の姿が見えないんですよ」

 本気で言っているんだろうか、先生は。透明人間なんてバカな話があるもんか。

 けど、実際、僕は先生の姿が見えない。目が治ってないわけではないだろう。先生以外のものは見えるんだから。

「今や世界の半数以上の人が、透明人間です。嘘じゃありませんよ。その目で確かめてみるといいでしょう」



 先生に促され、僕は病室を出た。人々のざわめきが聞こえる。けど姿は見えない。

「こんなの……」

 目が視えなかった頃と変わらない。音だけでしか人の存在を感じられないなんて。これじゃ何のために手術を受けたんだか……。

「あれ?」

 よく見たら、そこらじゅうで何かが浮いている。あれはなんだ?

「そうか。先生は肉体を透明に変化させると言っていた。衣服はそのままなんだ」

 浮いているものは衣服だ。服を目安にすれば、どこに人がいるかは分かるってことか。

「ん?」

 病室で服なんて浮いてたっけ?

「ま、まさか」

 先生は……。




「――先生、服を着てください」

「どうせ見えないんだからいいじゃないか」

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