ミタイセカイ
僕は生まれつき目が見えない。世界も耳でしか感じたことがない。音だけが僕のすべてだった。
でもそれも今日までだ。僕は明日手術を受ける。その手術が成功すれば、目が見えるようになるらしい。楽しみだけど怖くもある。失敗したらと思うと不安で仕方がない。
すべては明日決まる。ドキドキが止まらないや。
「――いいですよ。目を開けて」
手術は成功したのだろうか。目を開けるのが怖い。もし何も見えなかったらと思うと胸が張り裂けそうだ。
「大丈夫ですよ。手術は成功しました。怖がる必要はありません。さぁ」
先生の優しい声に、僕はようやく目を開ける決心ができた。
「……おぉ」
もしや、これが僕の手? そうか、手ってこんな形なんだ。
すごい。見えるってこんなにワクワクするものなのか!
「先生、見えます」
「それは良かった」
「……え?」
変だな。今、何もないところから声が聞こえたような気が……いや、そんなわけないか。
でも先生はどこにいるんだろう。ずっと話をしてたんだ。いないわけがない。そのはずなのに、どうして姿が見えないんだろう。
「先生」
「はい、なんでしょう」
「どこにいるんですか?」
「はい? どこって目の前にいるでしょ、私は」
声は聞こえる。けど姿が見えない。目の前には何もない。
いったいどういうことなんだろう。僕の目はまだ治っていないんだろうか。
「先生、見えないんです。声は聞こえるのに、先生の姿が」
「私の姿が見えないのは普通のことです。気にしないでください」
普通のこと? なんだ、何を言ってるんだ先生は?
「実は三年ほど前に、ある薬が販売されましてね」
なんだ、何の話をしているんだ?
「その薬というのが、肉体を透明に変化させる、つまり透明人間になれるというものでして」
「透明人間……?」
「えぇ、だから私の姿が見えないんですよ」
本気で言っているんだろうか、先生は。透明人間なんてバカな話があるもんか。
けど、実際、僕は先生の姿が見えない。目が治ってないわけではないだろう。先生以外のものは見えるんだから。
「今や世界の半数以上の人が、透明人間です。嘘じゃありませんよ。その目で確かめてみるといいでしょう」
先生に促され、僕は病室を出た。人々のざわめきが聞こえる。けど姿は見えない。
「こんなの……」
目が視えなかった頃と変わらない。音だけでしか人の存在を感じられないなんて。これじゃ何のために手術を受けたんだか……。
「あれ?」
よく見たら、そこらじゅうで何かが浮いている。あれはなんだ?
「そうか。先生は肉体を透明に変化させると言っていた。衣服はそのままなんだ」
浮いているものは衣服だ。服を目安にすれば、どこに人がいるかは分かるってことか。
「ん?」
病室で服なんて浮いてたっけ?
「ま、まさか」
先生は……。
「――先生、服を着てください」
「どうせ見えないんだからいいじゃないか」




