神様が叶えた一つの願い
『あなた方の願いを叶えてあげます』
と、神様が言った。歓喜に沸いた人々は――恋人が欲しい、お金持ちになりたい、海外旅行に行きたい、イケメンになりたい――と、己が欲望を口にする。
『叶えられる願いは一つだけです』
それを聞いた人々は他者を押しのけ、「私の願いを叶えて」「いや俺の願いだ」「僕の願いを」と騒ぎ立てる。
『願いが一つに決まったら教えてください』
神様がそう言うやいなや、人々は「世界一の美女を恋人にしたい」「イケメンの彼氏が欲しい」「プライベートビーチが欲しい」「透明人間になりたい」と他人の意見は無視して、願い事を口にし始める。誰もが自分のことしか考えていなかった。
『一つに決めてくれませんか? たくさんの願いを叶えることはできないんです』
人々は神様そっちのけで殴り合いを始めた。みな自身の願いを叶えたいと必死だったのだ。
「願いを叶えるのは俺だー!」
「いいえ私よ」
「僕が叶えるんだ」
願いを叶える権利を他の人に渡してなるものかと言わんばかりに、神様に願いを叶えてもらえるチャンスを逃してなるものかとばかりに人々は怒号を上げる。
「神様、私の願いを叶えてください。豪勢なお屋敷に住んでみたいんです」
争う人々の間をすり抜け、一人の女性が神様の前に進み出る。
「させるか!」
と、一人の青年が進み出て、女性の後ろ髪を引っ張った。女性はうめき声を上げて、尻もちをつく。
「神様、僕はイケメンになりたい!」
今度は青年が願い事を叫ぶ。またもや後ろから人がやってきて、青年を引きずり回す。
「何するんだ!」
叫ぶ青年。
「てめえこそ抜け駆けしようとしてんじゃねえよ」
怒号を返す男。
願いを叶えたいのに叶えられないという状況に、人々のイライラは頂点に達しようとしていた。
『――ようやく願いが決まったみたいですね』
神様の言葉に辺りは静まり返る。人々は神様が何を言っているのか理解できなかった。
「だ、誰だ。誰の願いだ」
その問いかけに神様は
『あなた方みんなの願いです』
と答える。次の瞬間、人々の姿は跡形もなく消え去った。
『願いは叶えました』
神様が叶えたのは――他の奴がいなくなればいいのにという願いだった。




