死ね屋
何の気なしに入った路地裏で、『死ね屋』というインパクト大のお店を見つけた。店内は薄暗く、営業しているとは思えない。
「いらっしゃい、お嬢さん」
暗闇の中から、店員らしきおばあさんがぬっと現れた。しわがれた声は腹の底から響くようなもので、その声のボリュームとは裏腹に体は酷くやせ細っていた。
「おばあさん、この店は一体何を売っているの?」
「おや、お嬢さん、看板を見なかったのかい?」
「見たけど、よく分からなかったの」
「お嬢さんは"死ね"という想いを抱いたことはあるかい?」
私は首を縦に振った。"死んでほしい"相手はいる。だからこそ『死ね屋』という店名に惹かれたのだと思う。
私を裏切った彼女が憎い。私を裏切った彼が憎い。何度"死ね"と思ったことか。
「そうだろうと思ったよ。この店は心の底から人を憎んでいる人しか入れないからね」
おばあさんの言葉の意味はよく分からなかった。けれど私は期待している。彼らに復讐できるかもしれないと。
「私が売っているのは"人に死をもたらす"商品さ」
人に死をもたらす、なんて甘美な響きなんだ。心がゾクリとした。頭がふわふわとする。なんだか薬をやっているみたい。体に悪そうだからやらないけど。
「好きに選ぶと良い」
陳列棚には奇妙な名前の商品が並んでいた。商品名の下に説明が書いてある。
死ぬ菜――見た目は小松菜。味はただの毒。食べた瞬間、あぁ、死ぬなと思うことから『死ぬ菜』という名前になった――ダジャレだ。
死ぬ菓――見た目はスナック菓子。味は甘い毒。真綿で首を絞めるかのごとく、対象はゆっくりと死ぬ――アリバイ工作に使えそう。
死ぬ根――見た目はゴボウ。味もゴボウ。食べるとおいしい。寿命が来たら死ぬ――それもうただのゴボウ。
死ね矢――この矢で狙いを定めて射ると死ぬ――矢ってそういうもの。
うーん。使えそうなのは二つだけ。彼は甘いものが好きだから、『死ぬ菓』を買おう。
「おばあちゃん、『死ぬ菓』をちょうだい」
「はいよ。十円でいいからね」
意外と安い。駄菓子の値段だ。お菓子だからかもしれない。本当に効くのだろうか。一抹の不安が過ぎる。
「大丈夫さ。お嬢さんの望みは叶うよ」
ドキリとした。おばあちゃんの声は優しかった。この人なら信じられると思った。
「おばあちゃん、私殺るね」
「あぁ、お行き」
私は復讐を遂げるため、家に帰った。
警察から電話があった。彼は浮気相手の彼女と心中したそうだ。本当は私が殺したのに。『死ぬ菓』を持たせて正解だった。彼なら彼女と一緒に食べるだろうと思っていた。
私の復讐は終わった。。『死ね屋』に出会えて本当に良かった。すべておばあさんのおかげだ。お礼を言いに会いに行こうかな。
あぁ、なんだか晩酌したい気分。冷蔵庫には何が入っていただろう。彼が何か買っていると良いけど。
そうか。彼が死んだから、これからは私が料理をしないといけないのか。面倒だ。でも何とかなるだろう。復讐をやり遂げることもできたのだから。
さてと冷蔵庫の中は……あっ、おいしそうな小松菜。卵とじにして食べよう。




