たかが
「どこへ、どこへやった!? 僕の大切な、大切なコレクションを」
身体は激しく震え、目は赤く充血している。男は今にも死にそうな顔をしていた。
「そ、そんなに怒らなくてもいいじゃない……」
女は怯えたように男から距離を取っている。
「怒るに決まっているだろ! 僕の大切なフィギュアを勝手に捨てて……なぜ怒らないと思うんだ? 誰だって大事なものを蔑ろにされたら怒る。お前はそんなことも分からないのか?」
男は女の肩を掴み詰め寄った。女は表情を歪め、男の手を振り払った。
「フィギュアって……あんなのただのおもちゃでしょ。大げさなのよ」
吐き捨てるような表情で女は言い放った。
「ただの……?」
男の顔から表情が消えた。その目には何の感情も浮かんではいない。ただ女の顔をじっと見つめるばかりだ。
しびれを切らしたように女は叫んだ。
「な、何よ! たかがおもちゃを捨てたくらいで、何で私が怒られなきゃいけないのよ。大切ならちゃんとしまっておきなさいよ。邪魔なところに置いてるあなたが悪いんじゃ……きゃっ?」
女は突き飛ばされた。男は女の髪を鷲掴みにし、力任せに引っ張る。
「い、痛い。止めて、は、離して」
男は女の頭を床に打ち付けた。何度も何度も何度も何度も。女が声を上げなくなるまで。
「なぜ殺した?」
うすぼんやりとした室内で二人の男が向かい合っていた。
「僕のフィギュアを捨てたからです」
刑事の問いに男は正直に答える。
「フィギュア? たかがそんなことで人を殺したのか貴様は!」
刑事はバンッと机を強く叩いた。その表情には劣化のごとき怒りが表れている。
「たかが? 僕にとってはたかがで済む出来事じゃない。僕の大事な宝物だったんです。僕の生きがいだったんです。彼女はそんな僕の宝物を奪ったんですよ。許されるはずがない。許していいはずがない。罪には罰が与えられるべきなんだ」
男は刑事の鋭い眼光に一切怯むことなく、自らの思いを語った。
「大事な宝物だったとしても人を殺していい理由にはならない。貴様は自分がどれほどの罪を犯したのか分かっていないのか!」
刑事は男の胸倉を掴んだ。今にも殴りかかりそうな勢いに、もう一人の警官が割って入る。
「気持ちは分かりますけど。暴力はダメですよ!」
小さく舌打ちをし、刑事は手を離した。男は不思議そうに首をかしげている。
「何がおかしい」
「いや、人を殺したくらいで大げさだなと思って」
何の悪気もなさそうに答える男に、刑事はなぐりかかった。今度は警官も止めなかった。
「大げさだと? 貴様は人の命を何だと思ってるんだ!」
男はポツリと答えた。
「――たかが"命"でしょ?」




