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体温上昇中  作者: つばきくん
9/10

開始早々ドロップアウト

 マラソンの概要はこうだ。

 この学校の目の前にある大学の周辺を五周しろと言うことだ。

 一周一キロで、授業内で走りきってもらう必要があるということで、三十五分以内に走りきらないとペナルティを課されるらしい。


 一周七分のペースで走るのは、体力のない子でもなんとかなるだろうが、今の冬はその体力のない子に該当する上に風邪をひいている。

 最初の一周くらいはもつかもしれないが、二週、三週とするうちに熱が酷くなって、そもそも走りきること自体無理ではないかと思う。


「各自準備運動は済ませたな。時間は俺のストップウオッチで測っとくからな。……それじゃ、スタート」

 先生の合図とともに、みんなが一斉に走り出した。

 突然の始まりに、冬はオタオタしたが、なんとか後方集団になんとかついていこうとした。

 前の方を見ると、明と竹本君の二人が並走して先頭にいる。


 また二人で勝負事でもしているのか。

 それとも仲良く一緒に走っているのだろうか。

(って、またあの二人のことをを考えてる。考えないようにしないと)


 それよりも今は自分の事だ。

 なんかもう始まってすぐに呼吸が荒くなって、頭に血液が一気に集まってるような感じがする。

 重りを背負って走っているかのように動きが鈍くなり、みるみるうちに集団から離れていった。


 これはマズイ。

 そもそも走り切れるかどうかよりも、一周するのも無理だと思う。

 

 開始早々ドロップアウトしそうになるなんて思わなかった。

 ああ辛い。腕を振って走る(段々歩きに近くなっている)のすら体力をごそっと持っていかれるような気がしてならない。


 この後保健室行って体温を測ったら絶対酷い数値になりそうだ。


 もう歩くことすらままならない状態になってきた。

 始まってまだ五分経ったかどうかすら怪しいのに、もう体が動かない。


 もうこれはなんとか一周走り(歩き)きって先生に直訴しよう。

 流石に死人に鞭を打つようなマネをしないだろう、おそらく。


「なんか、もう、嫌だな…」

 弱気な発言。心も体も疲れにやられてしまったような感じがする。

 腕をブラブラさせ、肺が酸素を求めて、自分の意思とは無関係に呼吸が荒くなる。

 足をまともに上げることができず、体全体が沸騰したように熱い。

 

 あまりにも酷い仕打ちを受けているような気がしてならない。

 だから、あの時のように独り言をつぶやいてしまった。


「きっと、体育の授業を抜け出して、あんなことを、してたから、私は、罰を受けて、いるのかな……?」


 突然、背中に衝撃を受け、思わず倒れそうになった。

 今日これで何度目だろう。

 あまりにも叩かれすぎて、もう誰だか確認する必要なんてなかった。


「あ、あき……」

「何一人でブツクサ言ってんのよ。しっかりしなさいよ」

「そ、そう言われても、もう、無理だよぉ~」

「あとほんの少しだけ耐えなさい。そうすれば、いいことがあるよ、あんたにとって」

「な、何を言ってるの……?」

「そう。じゃあね、――」

「あ、ちょっと」

 明が最後の方、なんて言ったか聞き取れなかったから、もう一度きこうとしたが、待ってはくれず、早々と去ってしまった。

 

 いいことって何? 

 さっきの言葉の意味を考えようとしたが、もうそんな気力すら今の冬にはなかった。


「もう、駄目だ……」

 不意に、靴の先が何かに引っかかった。

 石だ。大きめの石に引っかかったんだ。

 体が倒れる。

 もう踏ん張る力なんてどこにもなかった。

 

 体が傾いた瞬間、誰かに肩を掴まれた。

 一瞬明かと思ったけど、明はさっき冬の前を行った。

 それに、掴んでいる手はかなり大きな手だった。

 女の子じゃない。一体、誰だ。


「お、おい。大丈夫か?」

 踵を返すと、竹本君が、心配そうな顔をして立っていた。

「えっ、た、竹本君……?」

 夢みたいな光景を見て、頭が混乱している。

 胸の鼓動が早くなり、体全体に緊張が走る。

 それと同時になぜか安心感みたいなのもうまれて、

「あっ…………」


 また体が倒れる。

 今度は不注意ではなく、疲労のせいで倒れる。

 ふと竹本君の足元に視線がいった。

 あれ?

 なんか、竹本君のジャージの裾が短い気がする……。

 肩を掴まれたような感覚とともに、冬の意識はフェードアウトした。

 

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