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体温上昇中  作者: つばきくん
6/10

ここから体育をサボり始めて、それで……

 冬の気持ちが暗くなった。

 衝動が湧きおこる。

 今までの鬱積を少しでも外に出したくなった。

 そしておもわず、


「なんかもう嫌になってきたなあ」


 他人に愚痴をこぼすように独り言をつぶやいてしまった。

 声は狭い空間の全体に広がっていった。

 慌てて口を閉じる。

 やってしまった。


 心臓の脈が早くなっていき、頭が急激に熱を帯び始めた。

 手のひらで顔を覆い、目を閉じる。

 どのくらいに人がトイレにいるんだ?

 

 ここに着いた時は個室は全部開いていたか?

 手前の方に目もくれずに奥へ行ったからよくわからない。


 では音はあったか? 

 扉を開け閉めする音なんて聞こえなかったし、布が擦り切れるような音もなかったはず。


 ……というか、これは個室から出て直接確認すればいいことだった。

 今は足音が聞こえてこないから大丈夫なはずだ。

 

 鍵を開け、恐る恐る扉を開けた、周りを見渡した。

 個室の扉は全部開いていた。


 よかった。誰もいない。恥ずかしい思いをせずに済んだ。

 扉を閉め、再び鍵を閉めた。

 安堵し胸をなでおろした。


 緊張感からの解放。

 それを冬は味わった。そして気付いた。

 気分がスッキリしている。胸の中のモヤモヤがいつの間にかなくなっていた。


 ついさっきまで二人の事を考えて、憂鬱になっていたというのに。

 それが、思わぬ独り言をつぶやいてから今まで、頭の中は今この場のことだけを考えていた。

 

「そうだ……」

 今度は小さくつぶやいた。

 冬は一つの答えを導き出した。


 それは、あの二人のこととは全く関係のないことを考え続ければ、そのことで嫌な思いはしない、ということだ。


 われながら良いアイディアだと思う。

 つまり、何か夢中になれるようなを見つければ、少なくとも精神衛生上の問題は解決できるはず。

 

 でも、何か熱中できるものなんてあるのだろうか。


 アニメやラノベ。


 二次元に逃げたら、確かに嫌なことを忘れられるかもしれない。

 でも、これを究めてしまったら、みんなからひかれるだろうな。

 それはよくない。

 ただでさえ友達が少ないのに、それを失ったら孤立してしまう。

 今度は別の理由でメンタルをやられてしまう。


 では、勉強はどうだろうか。


 面倒だから、という理由で今まで真面目に取り組まなかったけど、究めてみたら案外楽しいのかもしれない。

 しかも、これを頑張れば竹本君と話すきっかけを作れるかもしれない。


 落ちこぼれの生徒がいきなりテストで満点をとれば、みんなから注目を浴びるし、彼も話しかけてくれるかもしれない。

 そして進○ゼミの漫画みたいに、なんかすんなりいけるかも――。


「って、また竹本君のこと考えてた」

 本末転倒。忘れるためにやろうとしていることで、思い出すなんて意味がない。

 はあ、とため息をついたところでチャイムが鳴り響いた。

 もう次の授業が始まる。

 このことは後で考えればいいや。


 何か熱中するもの、余計なことを考えずに夢中になれることを探す。

 自分の指針になることを見つけられたから良しとしよう。

 

 トイレから出て階段を下りる。

 次の授業はなんだっけ、と思い出す。

 中々思い出せない。

 

 分かったのは教室に着いたときだった。

 男子の制服やワイシャツが机に上に無造作に置かれている。

 それで気付いた。

「…………体育でしたかぁ~」

 なんだかもう授業をサボりたい気分になった。

 

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