悩んだ時間はおそらく5分くらいだったと思う
冬は階段を駆け上がった。一つ上の階についたが、まだ階段が続いていたので上へ上へと駆けた。
最上階について突き当りのトイレに駆け込んだ。一番奥の個室が空いていたので、そこに入った。
鍵をかけ、様式の便座にへたりこんだ。
天井を見上げ、呆然とする。
頭の中では親友と竹本君のことが反芻している。
明が、竹本君の髪を触ってクシャシャにする光景。
肩を気軽に叩いて「おはよう」と挨拶して、彼も「おはよう」と笑顔で返している光景。
一緒に陸上の話をしている光景。
そして、さっきの光景。
……竹本君は明のことが好きなんだろうか。考えてみる。
彼が他の女の子とあんな風にじゃれあっているところを目撃したことなんてない。
明以外の女の子と話しているところも、思い返してみるとあまりみたことがない。
意外だと思った。あんなに告白されてるのに。
そうなってくると、やっぱり明のことが好きなのかな。
さっきの光景。明に「馬になれ」と言われた時の竹本君の顔。
明らかに困っているようには見えた。
けど決して嫌がってはいなかった。
もしかしたら、内心喜んでいたのかもしれない。
……明は竹本君のことが好きなんだろうか。考えてみる。
あのスキンシップを他の陸上部やクラスの男子にやっているところを全くといっていい程見たことがない。
明は男女分け隔たりなく接しているが、だいたい竹本君と一緒にいる。
スキンシップもだんだんと酷くなってきて、とうとうお尻まで許してしまった。
そうなってくると次は……ああ、想像するのをやめよう。
頭をブンブンと振り、今度は床に視線を向けて、うつむく。
考えれば考えるほど、あの二人の間に割って入るなんて無理だ。
いや、そもそもどうやって竹本君と関わればいいんだ。
話すきっかけなんてない。
仮にあったとしても共通の話題なんてない。
アニメ鑑賞やラノベを読むのが趣味だけど、彼がオタク趣味を持っているなんて聞いたことがない。
しかもスマホのソーシャルゲームすらやっていないときた。
そっち方面とは完全に縁がないなら、勉強はどうだろうかと考えてもみたが、これも駄目だ。
冬と竹本君とでは勉強に対する意欲が全くと言っていいほど違うから、共感ができない。
共感ができなければ、話が続くわけがない。
竹本君が勉強の話をしている相手は、だいたいクラスの中でも上位の成績を収めている生徒ばかりだ。
対して、冬が勉強の話をしている相手は、赤点ギリギリもしくは0点や10点とかを平気でとる生徒ばかりだった。
かといって今更竹本君の趣味を聞き出してそれに合わせたり、勉強を頑張って成績を上げるっていうのは、ちょっとなあ~。
悩めば悩むほど気分が沈む。胸が苦しい。
どうしてこうなっているんだろう。
竹本君のことを好きになって、明に嫉妬し続ける。
冬自信は何もしないで、ただ二人が一緒にいるところを見ないようにと避けているだけ。
何もしない、何もできない自分が嫌になる。また気分が悪くなる。
心が水面下に沈んでいっては浮上する気配がない。
とにかく、まずはこの沈んでいる気分をどうにかしなければ……。