今ので多分0.1℃くらい上がったかもしれない
「でもそれはしょうがないじゃん。あんた最近体育になると途中で抜け出してたよね。しかもどれも三十分くらい。……さすがの保坂もあんたのことをサボり魔だと思いたくもなるわよ」
「うっ……それは……」
そうだ。もうサボり魔という悪い子のレッテルを貼られる程体育を抜け出していたんだ。
気が付いたら人に注意されるくらいの回数、授業の場からいなくなっていたんだ。
「ていうか、体育抜け出して何してたのよ? トイレにしてはやけに長いし……」
「別に。ただ最近、体育が面倒だと思い始めただけだよ」
冬は作り笑いを見せて、明の疑いの眼から逃れるように少しだけ俯いた。
胸の鼓動が早くなり、心拍数が上がってきた。
嘘一つつくのに緊張してしまうなんて、自身のノミの心臓を悔やんだ。
「面倒になったって、あんた、普通に楽しんでたじゃない」
明が指摘した通り、体育の時間は嫌いではなかった。(今日から始まったマラソンは別)
みんなと一緒に勉強以外のことを楽しめる数少ない時間なのだから、むしろ楽しみだった。
しかしそれでも冬には、その時間を犠牲にするだけの理由があった。
(さすがにもう無理かなぁ~。保坂先生に目を付けられちゃったし……)
そう思いながら沈黙を守り続けていると、明きがため息をついたのが聞こえたので、ゆっくりと顔を上げた。
きっと追及してもしょうがないことを察してくれたのだろう。
安心して胸をなでおろし、明には気づかれないように一つ息をついた。
「……まあいいや。ちょっと竹本のところに行って、あんたに下のジャージを貸すよう命令してくるね。一応風邪をひいてるみたいだし、せめてもの慰めということで」
「な、な、なんで竹本君!?」
安堵するも束の間、何の前触れもなしにその名前が出てくるとは思わず、冬は慌てた。
頭の中が沸騰して、顔が熟れたリンゴのようによりいっそう赤くなっていく。
風邪をひいてなかったら「なんであかくなってるの?」と言われる程顔が火照っている。
せっかく平常心を取り戻そうとしていたのに、明の一言に心を乱された。
冬が動揺しているのを気にする様子を見せずに明きは言葉を続けた。
「そりゃ、私が頼めばすぐに貸してくれそうな奴といったら、あいつくらいしかいないでしょ。それじゃ行ってくる!」
「あっ、ちょっと待ってよ!」
冬の静止に聞く耳持たずで明は、男子の集団――竹本君が中心になってできている――に突っ込んで、彼にからんだ。