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体温上昇中  作者: つばきくん
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体温上昇中

「う、う~ん…………あれ?」

 目を開けると見覚えがあるようなないような天井が視界に入った。

 ちらほらとついている蛍光灯の光がやけに眩しく感じた。


 次に感じたのは少しかたいベッドとゴワゴワした掛布団の柔らかな感触。

 それでようやく自分が倒れたことを思い出した。


「私、マラソンの時に疲れて、それで……」

 竹本君に支えられて、それから、どうなったんだろう。

 体を起こして部屋全体を見回した。

 備品等、見覚えのもある物が目について、すぐに保健室だと分かった。


 救急車で病院に運ばれたなんてことになってたら、恥かしくて死にそうになっただろうなあ。

 

 次に時計を探して、それに視線を向ける。

 時刻は五時を回ろうとしているところだった。

 もうとっくに放課後になっていた。


「……頭が、重い」

 体全体がとにかくダルイし、なんだか妙に腰が痛んでいる。

 もうこの時点で熱を測ったら三十八度越えは確実だと簡単に想像できる。


「あ、ようやく起きたんだ」

 聞き覚えのある高めの、保健の先生の声が聞こえた。

 先生はこちらに来て、

「あ、これ体温計。一応熱測っといてね。見る限り高熱だと思うけど」

 それを受け取って、ゆっくりと脇に挟んだ。


「しかし、驚いたよ」

「どうしたんですか?」

 授業中にぶっ倒れた人が運ばれて来たんだから、ビックリするのは当然のことだろうと思ったけど、そうではなかった。


「いや……まさか女の子をお姫様だっこしてここに入ってくる男子生徒なんて見たことなかったからねぇ~。……いいもの見れたわ」

 近所のオバチャンのような語り口調で信じられないことを先生は口にした。

 ………………お姫様、だっこ?


「おまけに、運んで来たのが高身長のイケメンだったから、絵になっていたわよ。しかも彼、授業が終わった後も様子を見に来てくれたのよ。もしかして、彼氏さん?」

「い、いえ、その、あの、えっと、ち、違い……ます」

 冬が落ち着かぬ間に次々と夢のようなことを先生は語る。


 頭が体についてこれなかった。

 心臓の鼓動は、先生にも聞こえるんじゃないかってくらい、はっきり聞こえ、マラソンをしているわけじゃないのに、呼吸が荒くなっていく。

 体全体が、激しく沸騰してるかのように体温が上昇していくのが感じられる。

 何も考えられない。それ程冬の体は異常事態になっていた。


 ―-体温計の音が鳴ったのは丁度その時だった。

 恐る恐る取り出して、表示されている数値を見てみると、

「……三十八.五」

「あらあら、大丈夫? 家に帰れるの?」

「へ、平気です。家はここから歩いてすぐなので」


 家から歩いて五分もしないで学校に行ける恩恵を毎日享受していたが、今日程このことに感謝する日は今までで一度もなかった。


「あ、あと、あんたのことを休ませなかった保坂にはきつく言っといたからね。だから補講で無理をさせられることはないから安心しな」

「あ、ありがとうございます」


 冬はベッドから起き上がり、先生におじぎをした。

 そして保健室を出て、壁伝いに歩き更衣室で制服に着替えた。


 重い足取りで教室へ向かうと、そこには誰もいなかった。

 当たり前のことだけど、どこか寂しい感じがした。

 自分の机に荷物を取りに行こうとしたとき、椅子に何かがかけてあった。


「あれ?」

 それは、冬が体育の時に、体育が始まる前に、一番欲しかったものだった。

「ジャージ……どうして?」


 誰かが見つけてくれて椅子に引っかけてくれたのだろう。

 もしそうだとしたら、授業が始まる前に発見してほしかったなあ。

 見つけてくれただけ有難いんだけど、贅沢を言ってしまった。


 冬はジャージを鞄の中にしまおうと手に取ったが、何か違和感を感じた。

 ジャージについている名前の刺繍がなかった。

 どうしてだろうと考えながら、前後ろと交互に見ると、名前があるはずの位置にジャージと同じ色のテープが貼ってあった。


 それを剥がすと「佐藤」という白い糸で表した文字が出てきた。

 ……誰かが履いたのだろうか。

 上から下までジャージ全体を触ってみると、若干湿ってた。

「嘘……」


 ショックだった。

 見知らぬ誰かさんが冬のジャージを盗んで使用してあまつさえそのままの状態で返した。

 自分以外にも変態がいたということもそうだが、そんなプレイをされたのが一番心に響いた。

 一体変態さんはどんなにおいを残したのか気になって嗅いでみた。

 きっととんでもなく臭いのだろうと思っていたら、


「あ、あれ?」

 このにおい嗅いだことある。

 しかも、つい最近まで。

 男臭くて、それでいて癖になるようなにおい。


 冬はまたジャージに染みついたにおいを嗅いだ。

 何度も何度も、疑念が確信に変わるまで嗅いだ。

 

 もしかして、もしかして――。


「竹本君の、においだ」


 自然と笑いがこみあがってきた。

 まさかこんなことがあるなんて。

 盗まれたものが返ってきて、においを嗅いだら好きな人のだったなんて。


 あの体育の授業からは、もう驚きしかない。

 これって、両想いってことでいいのかな? ……ものすごく変な感じはするけど。

 まさかあの竹本君が同類で、しかもお互いにこんな行為をしてたなんて。 複雑な気分だ。

「……でも、これどうやって告白とかすればいいんだろう?」


 竹本君に直接訊いたり、自分からにおい嗅いでいましたと正直に伝えたりするのはどうなんだろう。

 机の中の物を鞄に入れようとしたら、四つ折りにされたルーズリーフが一枚入っていた。


 何か書いてあるのかな、と広げてみると、明の字でこんなことが書かれていた。


「変態同士さっさと付き合っちゃいなよ」


 その一行を読み切った瞬間、頭をハンマーで殴られたような衝撃が走った。

「な、な、何で? どうして? いつ、ばれたの?」

 頭が混乱している。

 なんで? どうして? の疑問の言葉が脳内で反芻している。

 もう限界まで熱が上がったと思われた頭がオーバーヒートして、冬はその場で倒れそうになった。

 

 なんとか気力を振り絞って学校から家までの道のりを歩いた。

 普段の三倍以上の時間がかかってしまった。


 家に着いてすぐに熱を測ってみた。

 三十九.二度。

 自己最高記録を叩きだしてしまった。


 ほんと、今日一日は驚きしかなかったよ……。

猛省して次にとりかかります。

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