寒いのは嫌だ
初投稿です。よろしくお願いします。
十二月も半ばを過ぎ、もうすぐクリスマスを迎えることになる日のお昼過ぎ。
学校の玄関と校門の間にある広場に、クラスメイトたちが集まり騒々しくお喋りをしている。
あと十分後に始まる体育のマラソンに対する恨めしそうな声や寒い日にはお決まりの「寒いね」「ねっ」のやり取り、そして男子生徒のおバカなやり取りの断片が聞こえてくる。
(なんだかよく分からないけど、孤独感みたいなものを感じるなぁ〜。風邪のせいで心までやられちゃったのかな?)
佐藤冬はクラスの集団から外れ、下駄箱の前で一人寒さから身を守るように体育座りをしていた。
上に着ているジャージの端を無理やり引っ張り、それを膝から覆い被せて膝下まで隠し完全防寒。
手もジャージの中に引っ込め肌を出しているのは頭だけ。その頭は風邪でやられて熱を帯びているので、これといった対策を取る必要はない。
普通の女の子なら、胸が邪魔でこんなことは難しいと思う。特に明みたいな胸が大きい女子だとなおさら無理だ。
けど、冬の胸は推定Aカップギリギリあるかないかぐらいの大きさだから胸で窮屈な思いをすることはなかった。
そう思うと一層気分が悪くなってきたがそれを拭い去るように頭をブンブン横に振った。
頭の横で短く結んだ髪が、頬に当たりなんだかくすぐったかった。
本当は外に出てみんなと一緒にお喋りをしたいのだけど、下のジャージを履いてない状態で、ヒンヤリとした空気の中に飛び込んでいく気にはなれなかった。
外では横殴りの風が皆を襲っていた。
身をより一層震わせる、ホッカイロを無我夢中でこする。大半の人が真冬の強風を受け震えが止まらなくなっていた……半そで半ズボンで寒さなどどこ吹く風という男子もいるけど、そんなのは例外だ。
建物の中にいる冬はそんな風を受けたくないために、こんな所で一人寂しくしている。
……不意に背後から肩を掴まれ、寒気が走った。肩を掴んだその手は、後ろの方に力を加え、そして、
「きゃっ!?」
冬は全く姿勢を変えられず、後ろに90度倒れ背中を廊下にぶつけた。
すんでのところで顎をひいたお陰で、頭を打たずに済んだのは幸いだった。
風邪でやられてる頭がこれ以上バカにならずに済んだのだから。
見上げると、見覚えのある顔が視界の中に入った。
「……あんた、一人で何やってるのよ?」
親友の伊藤明が左手で頭を掻きながら呆れていた。冬は「えへへ」と笑い、明と同じように、ジャージから手をだして頭を掻いた。
明は少し溜息をつきながらも右手を冬に差し出し、起き上がるよう促した。
冬はその手を掴もうとしたが、ジャージの中にすっぽりと収まっている両足をどうにかしなければ立ち上がれないことに気付き、足を伸ばそうとジタバタした。
悪戦苦闘の最中、明がまた溜息をついた。
「ジャージのチャックを全開にすれば済むことでしょ」
さっきと変わらない声色でそう告げてきた。
頭の調子が悪く、力技でどうにかすることしか思い浮かばなかった冬は「……そうでしたね」と返し、チャックを開けたたんでいた両足を伸ばし仰向けになり、明が伸ばしている手を今度こそ掴み立ち上がった。