09 先生にお願いされましたよーって話
化学室に行くと、先生はもう片付けを始めていた。
でもまだ半分以上残っているようだ。
「すいません、先生。遅くなりました」
私の声に楠木先生は振り返った。
授業の時同様白衣を着ていた。
ヤバい、萌える。
「大丈夫ですよ、」
と言って先生は不自然にそこで言葉を切った。
それから、私の名前を言おうとしてるんだ、と察して名乗った。
「1年2組の坂田ですよ」
と。
先生は苦笑いして、
「すいません、まだ名前と顔が一致してないんです」
と言った。
それはそうでしょう。今日来た先生なのだから、仕方ない。
「何すればいいでしょう?」
と、私は先生に指示をあおぐ。
なぜか先生は首を傾げたが、
「とりあえず、このビーカー洗っちゃいましょうか」
と言った。
私は先生の横に行き、腕まくりし、ビーカーを洗っていく。
2人だったので、割と早く終わった。
洗い終わって逆さまにされたビーカーがトレイの上に置かれている。
先生は、使った薬品を、片付け始めた。
私はどうすれば…と、なんか暇になってしまったのでビーカーののっているトレイを持って、
「先生!ビーカー準備室の方に運んでいいですか?」
と聞いた。
先生は少し驚いた顔をして、頷いた。
一通りの片付けが終わったところで、先生がコーヒーを買って来てくれた。
ブラックです。
ちょっと、苦手だが、せっかくいただいたので飲むことにした。
今私達がいるのは準備室である。
先生は白衣は嫌いそうで、授業が終わるとすぐ脱いでいた。
なので、片付けが終わった今は脱いでいる。
「あの、先生、なんで準備室の机の上がこんなに物が少ないんですか?」
つい、さっきから疑問に思っていることを口にする。
そうなのだ、この部屋にはたくさんものがあるが、先生用の机はとてもこざっぱりしているのだ。
「お恥ずかしながら、生物の先生に自由に使っていいと言われたのですが、どう使っていいのか分からず…。化学は常勤教師は僕1人だと聞いたので、どうしていいのか分からなくて」
なんとなく納得した。
だから先生は私がビーカーを準備室に持っていっていいかと聞いた時、驚いた顔をしたのか。
後、もう1つ、気になったこと。
「あの、先生、ビーカーなどは危険な薬物が入ってない限り生徒達に使ったものを自分達で洗ってもらうのはどうでしょう?」
どうでしょう?もなにも、今までの先生は普通にやってきたことだが。
「そうだね。なんか、そこまで気がまわらなくて。確かにその方が効率いいよね。ありがとう」
と先生にお礼を言われる。
笑顔が、かわいい!
髪がさらさらだ!なでなでしたい!
それを抑えながら、真顔で、
「いえいえ」
と言い、コーヒーをすする。
やっぱり苦い。
「コーヒーは苦手でしたか?」
そんなに顔に出したつもりはないが、気付かれてしまったらしい。
「ええ、まあちょっと」
笑って誤魔化す。
楠木先生は耳が垂れたウサギみたいになってる。
なにこれかわいい!
それから何か思い付いたようで、突然立ち上がり、少し大きめのお弁当を持ってきた。
「お腹すいてるでしょ?どうです?」
と言いながら、先生はお弁当を開いた。
中にはサンドイッチ!!
自分でも目を輝かせたのが分かった。
先生は笑って私の方にサンドイッチを差し出す。
時計を見ると時刻は、14時だ。
お腹がすいてたのも、慣れもあり大輝にぃや、りーくんにやるように先生の手にあるサンドイッチにそのまま手を出さず噛みついてしまった。
やっちまった…。
恐る恐る先生の顔を見る。
また、驚いた顔をしている。
でも、すぐに微笑んだ。
また、ずいっと顔の前に、サンドイッチが出される。
結局サンドイッチをまるまる1つ先生の手から食べてしまった。
「もう1つ食べます?」
「先生の分がなくなっちゃうじゃ?」
「大丈夫ですよ。もう1つお弁当あるんです」
と、先生は言ったので、
「そんなの嘘…」
と言おうとしたが、もう1つお弁当を、だしてきた。
え?なんで、2つもお弁当もってんの!?
「なんで?」
と、私はつぶやいてから、間違えて兄弟の分を持ってきちゃったのかも知れない!と思ったが、
「和食か、洋食で、迷ったので両方作っちゃったんです」
という楠木先生の発言によりその考えは消えた。
「なので、食べちゃって大丈夫です」
と先生は言った。
そして、またずいっとサンドイッチを前に出される。
今度は自分の手に取り食べようとしたが、先生がサンドイッチを離してくれない。
「先生?」
呼んでみる。
「はい?」
という笑顔が返ってきただけだった。
今度も先生の手から食べることになり、結局4つあったサンドイッチを先生手から私が全部食べてしまった。
お腹すいていたというのもあったけど、とてもおいしかった!
「先生、ご馳走様でした!おいしかったー。先生はお料理が上手なんですね!」
「いえいえ。料理はまあ好きですね。おいしかったなら良かったです。でも…」
「でも…?」
「食べてるあなたがとても可愛かったです」
先生の発言に顔が赤くなる。
先生はさらっといった。
これは、妹的な存在としてだろう。
これは危ない。
これを他の女子になんて言ったら、先生の教師生活が危ない!!
そして、女子が可哀想!
「可愛いです。坂田さん、下の名前も教えてください」
「咲笑ですけど、ていうか、先生」
「はい?咲笑さん」
「他の女のこにはそんなこと言っちゃだめですよ?」
私は、先生がロリコン犯罪者にならないために言ったのに、なんか甘々カップルみたいなやり取りになっているなんて…どういうことなんだよ!(怒)
「はい。咲笑さん」
なんか、咲笑って連呼してないか?
「先生、できれば呼び方は坂田でお願いします」
「いいえ、咲笑さん」
「だから!」
「可愛いあなたにお願いがあります。これからも私の授業の片付けを手伝ってもらえませんか?」
楠木先生に手をとられる。
なんとなく思った。
この人、海外にいた期間長いだろ、と。
「すいません、先生。今度のロングホームルームで委員など係を決めるので、その時化学係になった方にお願いしてください」
さりげなく先生の手を解いて言う。
先生は今までみた笑顔とは違う笑顔を見せて、
「じゃあ、あなたが化学係になってください。お願いします」
と言った。
なんで、ここまでぐいぐいくるんだよ!
どうしようかと、考えていると、
「サンドイッチ…」
と先生はつぶやいた。
なんですか、その顔!
「分かりました。化学係に立候補してみますが、多分相当倍率高いんでなれるか分かりません!」
ヤケクソで言った。
「ありがとうございます。咲笑さん」
また、咲笑って…
「坂田です」
「咲笑さん」
私の言葉を無視して、名前を呼び続ける先生。
「坂田だっつーの!先生のばーかばーか!外国人イケメン!」
私はどうすることもできなくてそう言って化学室から逃げるように出た。
最後に、「さよなら、失礼しました」と忘れずに言って…。
今日は、先生から逃げる日なのかな…。
逃亡日(笑)
そんな咲笑の後ろ姿をみて、楠木志紀が久々に心から笑ったのを咲笑は知らない。
「面白いーこー!欲しいな」
外国人イケメン!と言った咲笑に目を細めながら楠木志紀は言った。