06 担任の先生は大切にしましょうって話
「失礼します。杉谷先生」
私は職員室のドアを開き、先生の名前を呼んだ。
「あぁ、来たか。そこにある水色の冊子を国語科室に運んでくれ」
水色の冊子を先生は、指差しながら言った。
しかし、水色の冊子というのは、とても薄い。
これは、先生が1人で運んだ方が早いのではないか、なんて思ってしまうが、「罰」なのだから仕方ない。
先生はその横にある重そうな教材を持つ。
先生の腕は意外と、筋肉があった。
触りたい!触りたい!という衝動を抑えるのに必死になってた私は、なんで先生が怒っていたのかを考えるのを忘れてしまっていた。
しかし、先生からの視線を感じ、ふと、思い出す。
まあ、私が先生の腕の筋肉を見てからなんでしょうけどね。
私の知ってる杉谷優弥先生という人は、優しく、年も若いせいか、生徒の相談も親身になってのってくれるし、とにかくいい先生だった。
私は杉谷先生に担任を持ってもらったことのない生徒だったが、去年の体育祭で体育祭の実行委員だった先生が、休んでしまった実行委員の友達の代わりにライン引きをしていた私に声をかけたことがきっかけで話すようになった。
生徒の軽口にも付き合ってくれる面白い先生だ。
先生は、怒るには怒るが、生徒の立場に立って怒ってくれるので、怒られた後に不満を言う生徒は少ない。
それに、体育祭の時には助けてもらったし。
今回の私のホームルームの遅刻の件だって、悪いのは私だが、先生はなぜか今日、すごく怖かった。
現に今だって、いつもは何かしらの話題をふってくれる先生が黙っている。
無言のまま国語科室に着いた。
「そこに置いてくれ」
と先生に指示された通りの場所に置く。
この後に化学室に行かなければいけないので、早くこの教室を出たい私だが、なぜか先生は国語科室の椅子に座ってしまう。
「あのー先生ー」
先生の意図が分からない。
「あのさ、」
と、先生は言いづらそうにそう言った。
私は、先生が突然言ったので、?を頭に浮かべながらも先生の次の言葉を待った。
「俺って、顔だけの教師か?」
いきなりの爆弾発言。
先生も言ったことを少し後悔しているようだ。
誰かに言われたのだろうか?
これだけ聞いたらナルシストっぽいが、実際イケメンなので、文句は、ない。
が、その言葉は間違いだ。
「先生はイケメンです」
「そうか?そうでもないと…」
「イケメンです!」
先生が否定しようとするので口調を強めて言う。
「でも、イケメンだけじゃないです。筋肉も素敵です。」
私はそう断言する。
「くくっ、あはははははは」
最初は笑いを堪えてたらしい先生は途中から爆笑し始める。
「笑わないでくださいよ。本気なんですから」
真顔で、返すが笑ってくれて少し安心した。
本気で思ってることだが、先生の声が、少し落ち込んでいるようだったから、笑って欲しいと思っていた。
「そうか。うん。なんかもういいや。ありがとうな」
と、先生は私の方に来て飴を、1つ私の手に握らせた。
みるる~というミルク味の私の好きな飴だ。
「よくないです!よくないです!確かに先生は私のすごくタイプのイケメンさんですが、それだけじゃなくて、先生としてもすごく好きなんです。優しいし、面白いし、でも何より私達の、生徒の立場に立って考えてくれるから、先生は…良い先生ですよ」
「もういいや」なんて先生が言うので、熱く語ってしまいました。
だってさ、先生は良い先生なんだもん!
てか、なんか告白くさくないですか?
最後の方何言ってのかよく分からなくなっちゃったけど…まあいいよね?
「うん。ありがとう。そう言ってくれる生徒が1人でもいるなら、良かった」
先生は柔らかく笑った。
もしかして、今日は本当に機嫌が悪かっただけみたいだ。
でも、良かった、先生が安心したなら。
先生は最後に私の頭をくしゃくしゃにするように撫でて、「よし!」と言いながら立ち上がった。
「俺はもう職員室帰るから、最後にサービスだ」
と言ってめちゃくちゃ顔を近付けて来た。
「近いです。先生」
「だって、好みなんだろ?」
どこのホストですか!?
顔が近過ぎて、ドキドキする。
本当につくづく、素敵なイケメンさんです。
もっと、見てたい!
でも、これ以上は心臓が持たないので、
「調子乗るな!イケメンー!」
と、先生を押しのける。
もっと、調子乗ってくださいっていうのが内緒の本音。
ーバン
と扉を開いて、外へ出た。
先生の、「廊下は走るなよー」と言う声が、後ろから聞こえてきたので、廊下を歩いている暇はないので、「先生、飴ありがとう」と言ってまた、走りだす。
そうです、私には行かなければいけない場所が!
忘れかけてました!化学室!
やばいー!!
ごめんなさい、楠木先生。