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55 歌うことと恋することって話

お久しぶりです。ライブ関連のことは全て想像なので、ご容赦ください。

 学校に、ライブの打ち合わせに、ボイトレと、忙しい毎日を過ごしている。

 私の足の状態も大分良くなり、お医者さんからのオッケーもでた。

 そして少し心配だった、学校へのライブへの説明も、上手く終わり、本番が近づいてきた。

 最近は心配がなくなったせいか、調子が良くて、こうちゃんも誉めてくれる。

 やっぱり、歌ことは楽しい。こうちゃんの声と自分の声が重なり合う瞬間が最高に気持ちがいい。

 そんな瞬間が増えていく。

 ずっと歌っていられるそんな日々。


 そして、ついにライブ前日。

 入念なリハの後、夜家に帰ると、大輝にぃがご馳走を作ってくれた。

 

「咲笑のライブ成功を祈って、かんぱーい!」


 兄がご機嫌に乾杯の音頭をとって、みんなでコップをあわせる。


「おいしい」


 どれも私の好きなものばかり。

 オムライスに、ポテトサラダ、シーザーサラダに、ピザ。

 流石大輝にぃ。よく分かってる。  


「良かった。いっぱい食べて」


 相変わらず大輝にぃは優しくて、そんなことを言って、微笑んだ。 


「大輝すごいね。ピザまで手作り?このサラダもおしゃれだし。嫁に欲しいくらい」


 陸さんはのほほんと笑って、嬉しそうに大輝にぃにそう言った。

 大輝にぃは、険しい顔をして、


「やめろ」


 とだけ言った。


「良いじゃん!俺は祝福するよ」


 りーくんは面白がるようにその会話に参加する。


「涼、あとで話がある」

「なんだよ、俺は男に興味ねーよ」

「涼!」

「この肉巻きうまいな」


 怖い顔で言う大輝にぃに、楽しそうにからかうりーくん、マイペースな兄。

 こんなにぎやかな風景が当たり前にある。

 あったかい。こんなに優しいひとたちと一緒にいることができる自分はなんて幸せなんだろう。

 ふと泣きたくなった。少し不安だった。

 失敗するかもしれない、お客さんに楽しんでもらえないかもって。

 でも大丈夫だ。きっとこの人たちは私の味方だ。

 そう思ったら涙が出た。


「ねえ、みんな」


 私がそう言うと、一斉に視線が集まる。

 涙に気づいて、驚いた顔をする。


「明日見ててねちゃんと」


「おう」


 りーくんが最初にそう答えて、みんなが頷いてくれた。

 

 翌日思ったよりすっきりと起きられた。

 まだ緊張もしていない。

 今日はなんだか暖かくなりそう。

 会場まで兄が車を出してくれるみたいだ。


「朝苦手なのにごめんね。」


 そう言うと、


「ここで起きなきゃ、男がすたる」

 

 と真顔で言っていた。

 私はそんなおにいが好きだ。


 会場に着いからも緊張はしなかった。

 こうちゃんと合流した。

 会場内は人が慌ただしく行き来していて、空気も張りつめている。

 なんだか、緊張してきてしまった。

 こうちゃんはこういうライブに慣れているみたいで、緊張なんてしてなさそう。

 なんて口にしたら、こうちゃんにでこぴんされた。


「慣れるわきゃねーよ。いつでもバクバクしてるっての。だけどそれよりもっと楽しみなの」

「ごめんなさい」


 昔と変わらないこうちゃんの手が私の頭をなでた。

 少し安心した。


 最終チェックをして、始まりの時間が近づいてくる。


 観客の入場が始まったみたいだ。

 

「よっしゃ、やるぞ!」


 こうちゃんの掛け声で、会場の全員が気合の声を上げた。

 始まる。

 

 しーんと静まりかえり、それがすぐに大きな歓声に変わる。

 こうちゃんの歌が聴こえてきた。

 始まった。

 私は控室で、モニターをじっと見つめる。

 

 怖いかも。

 心臓のどきどきが止まらない。

 全力ダッシュしたあとみたいな。

 どうしよう。

 失敗したらどうしよう。

 みんなに迷惑かけちゃう。

 怖い。


「ミミ!」


 よく知ってる、大好きな人の声。

 控室にりーくんが入ってきた。


「緊張してると思ったよ」


 確信づいたりーくんの言葉がやけに遠く聞こえた。


「おいこら、ミミ」


 返事をしない私に、りーくんが呼びかける。

 りーくんは困ったような顔をしている。

 気づくと、暖かいりーくんの腕の中にいた。


「りーくん」


 そう呼べば、さらにぎゅっとされた。


「俺をみろ」


 遠く感じていた声が、すぐ上から落とされて、やっと我に返った。

 りーくんを見上げる。


「落ち着いた」

「そうか」


 そうりーくんに言えば、優しく笑ってくれた。

 でも、巻き付いた腕はほどけない。

 それに安心している自分もいて、少し呆れた。


「りーくん、みててね」


 そう言って、自分を奮い立たせるように、りーくんの腕から抜け出した。

 りーくんは頷いてくれた。

 大丈夫じゃないけど、大丈夫。

 

「出番です」


 そう声をかけられて、


「はい!」


 と思い切り返事をした。

 

 歓声が近づいてくる。

 手が震える。


 合図されて、飛び込むような感じで、舞台へ駆け出した。

 

「ゲストの、のぞみです!」


 こうちゃんが私にアイコンタクトを送ると、そう紹介してくれた。


「こんにちは。初めまして、そしてお久しぶりです。一生懸命歌うので聴いてください」


 そう挨拶をした。

 「れい」を知っているひとにも、ちゃんと挨拶したかったんだ。

 ちょっとくらい大丈夫だよね。

 

 歌い出す。

 どきどきが加速する。ライトが熱い。溶けちゃいそう。

 でも楽しい。歓声が近い。

 歌う。一人で歌う。

 みんなの声が聞こえる。

 歌う。こうちゃんと歌う。

 いつも以上に声が重なりあう。

 何度もこうちゃんと目を合わせて、こうちゃんの声と楽器の音と、観客の息と、すべてが混ざり合う。

 呼吸が苦しい。息が続かない。

 早く終われ、終われ。

 やっぱり終わって欲しくない。

 もっともっと歌っていたい。

 もっとここに居たい。 歌いたい。

 伝えたい、この気持ち、私のうた。

 

 最後の音が響いた。


「のぞみでした!ありがとうございました」


 素直にそんな言葉が出てきて、みんなに手を振った。


 ステージからはけながら、心臓は鳴りっぱなしで、顔も緩みっぱなしだ。

 楽しい。楽しかった。  

 控室に戻ってからもステージの様子をモニターにかじりついて観ていた。

 ライブが終わってしまう。

 私、好きだ。歌うの。

 改めて、そう感じた。

 

 ライブが終わって色んな人が褒めてくれた。

 何より、こうちゃんが「また一緒にやろーな」ってそう言ってくれたのが嬉しかった。


 兄と、大輝にぃと、陸さんと、りーくんが迎えに来てくれた。

 

「自慢の妹だ!」


 多くのスタッフの人がいる中、兄は思い切り抱きしめてくる。

 苦しい、恥ずかしい、でも嬉しかった。


「俺の一番弟子」


 大輝にぃも兄の上に覆いかぶさるように抱き付いてきた。

 そんな中、陸さんはいつもと変わらず、穏やかに微笑んで、


「いつもかわいいけど、ステージの上の咲笑ちゃんはいつも以上にかわいい」


 と言った。

 陸さんらしい、でも恥ずかしい。

 りーくんはなにも言わず、兄と大輝にぃをすり抜けて、また頭を撫でてくれた。


 その日は興奮して眠れなくて、ずっとステージのことを考えてた。

 またやりたい。歌いたい。

 そう強く思った。


 それからしばらくして、たくさんのライブ依頼がきた。

 嬉しかった。歌ってよって言ってもらっているようで。

 学校があるから全部は受けられないし、兄に相談しながら、出来る範囲でライブ活動をしていくことにした。

 学校に、歌の練習、ライブの打ち合わせと忙しい日常に流されて、りーくんに告白するタイミングを失ってしまっていて、私は自分の気持ちを持て余していた。

 そんな日々の中、久しぶりに早く帰宅することができた。


 いきなり帰ってみんなを驚かせてやろう、とただいまも言わずこっそりと帰宅すると金曜日ということもあり、四人は晩酌をしていた。


「涼は俺が知る限り、恋人途切れることなかったよな。今いないのが珍しいくらい」


 聞こえてきた兄の声に胸がぎゅっと締め上げられるような感覚を覚えた。


「嫌な言い方だな。別にとっかえひっかえしてたわけじゃねーよ」

「ひとりひとりちゃんと愛してたってこと?きざだねー」


 りーくんのことを陸さんがそうちゃかした。

 りーくんが知らない女の人と一緒にいるところを想像した。

 なんかすごく嫌だった。


 すごくもやもやしたまま、みんなに声もかけずに寝ることにした。

 落ち込んだ気分のまま週末を迎えた。

 今日はこうちゃんとのライブ後にオファーをいただいた初のライブだった。

 陸さんは大学の用事で来られないが、りーくんと兄と大輝にぃが来てくれることになっている。

 こうちゃんとのライブはとても大規模なものだったが、今回は小さめのライブハウスで行われる。

 そして、今回はゲスト出演ではない。

 だから、楽しまないと。

 暗くなりそうな気持ちを抑えつけて、そう言い聞かせた。


 バンドスタイルでやることになっているので、何度もバンドのメンバーと音合わせをした。

 昨日の最後の練習で「好きにやっていいよ」って言ってくれたので、思いっきりやっちゃえ!

 

 ステージの開始時刻になって、一番手の私は思い切り息を吸い込んで歌いだす。

 兄の作った曲の中でもお気にいりの歌。

 切ないラブソングを明るくポップにしているところが兄らしい。

 歌のもとになった彼女さんを見たことがある。

 ふたりはお似合いに見えたのに、恋って難しい。


 良い感じにお客さんが盛り上がってきてくれて、2曲目に入る。

 次は勉強は嫌だって言ってるだけの歌。

 こっちも明るい曲だ。

 試験期間に勉強しながら歌っちゃう。

 最後はみんなが一緒に歌ってくれて最高に楽しかった。


 それからこっそりと私もステージにまぎれこんで、お客さんと一緒に楽しんだ。

 こういうの、小さいライブだからできることだよね。

 暗くて、兄、大輝にぃ、りーくんとは合流できなかった。

 一度、MCコーナーが挟まれた時明るくなったライブ会場でりーくんを見つけた。

 知らない女の人といた。

 りーくんの腕に女の人の腕が絡みついていた。


「涼は俺が知る限り、恋人途切れることなかったよな。今いないのが珍しいくらい」


 昨日の兄の言葉を思い出してむかむかした。

 人をかき分けてりーくんの場所に行くこともできなくて、遠くから眺めてた。

 

 家に帰ってから、りーくんにさっきの女の人について聞いてみた。


「誰って言われても…」


 そんな曖昧なことを言ったりーくん。

 むかつくし、なんだか悲しい気分になった。



 



もうそろそろ最終話な気がします。

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