51 再会の話
次の日、学校で、透を見て、唐突に「透も一緒にオムライスの歌、歌ってもらいたい!」と思った。
しかし、みんなに了承をもらってからにしようと思い、メールの一斉送信で、透も歌友会員であること、だから、オムライスの歌のメンバーに加えていいのか、ということを聞いた。
全員からすぐに連絡は来ないと思っていたが、大輝にぃ以外からはすぐに返信が来た。
兄は透が歌友であったことに、凄く驚いたようで、いっぱいミスタッチをしていた。
そういえば話してなかったなー、とだけ思った。
大輝にぃは多分運転中のためか、返信は来なかった。
昼休みになったあたりで、大輝にぃから返信が来て、みんなからオッケーを貰ったので、透に話すことにした。
りーくんと、大輝にぃと、陸さんと、兄で、兄作曲の歌を歌友に投稿するから、透も一緒にやらない?と聞いたところ、凄く興奮気味に
「やるやるやるやる!なにその豪華なメンバー!?凄いよ!やりたい!」
という返事を頂いた。
家に帰って、透から、オッケー貰ったよ、とみんなに伝えると、
「打ち合わせ兼ねて、今度家に呼ぼう」
と兄が言った。
みんな同意し、次の土曜日、透が家に遊びに来ることになった。
それから、大輝にぃがリビングのテレビで、格ゲー(かなり古いやつ)をやり始め、大輝にぃに誘われ、対戦することになった。
他のみんなはお酒を片手にニヤニヤとしながら、私達を見ている。
なんだ!その顔は!
どうせ、私が負けないように大輝にぃが負けてくれるの分かってるぜ、みたいな顔だろ。
「おぇ?」
兄が素っ頓狂な声を出して、大輝にぃを見た。
「ごめんね、咲笑。勝っちゃった」
大輝にぃは少しも申し訳なくなさそうに言った。
そう、私がゲームに負けたのだ。
「咲笑に甘々な、大輝が!?」
兄が驚いたように呟いた。
正直なところ、私も驚いている。
いつものように大輝は私に勝たせてくれると思っていた。
「優しいだけの兄はやめることにしたんだ」
と、大輝にぃはにっこり笑った。
その笑顔に少し嬉しく思ったが、ちょっとだけ寂しくも思った。
私はやっぱり大輝にぃに甘えていたと改めて感じた。
それから、私の代わりに大輝にぃと対戦を始めた。
それをぼーっと眺めながら、大輝にぃは負けちゃうな、と思った。
兄はゲームを作っているくらいのゲーム好きなのだから、とてもとても強いのだ。
ムカつくくらい強い。
「咲笑ー。アイス食べるかー?」
後ろから、りーくんの声を聞こえ、ふり向くと、ちょっとだけお高いけどおいしいアイスを私の方へ向けている。
りーくんは最近、私に色んなものを買ってくる。
そして、それを餌に私を呼び寄せるのだ。
そんなものに屈するものかと思うのだが、りーくんは私の食の趣味をよく分かっている。
だから、その餌をスルーすることは出来ない。
「食べる!」
大きな声で元気よく答えてから後悔する。
子どもぽかったかもしれない。
りーくんは嬉しそうにアイスとスプーンを持って来てくれた。
「ありがとう」
と私が言うと、りーくんはよしよしと私の頭を撫でた。
また子ども扱い。
少し反省しながらアイスを一口食べる。
おいしい。
やっぱりこのアイスは最高においしい。
りーくんは私の方の隣に座りにこにこと私を見ている。
そこで自分の顔が緩んでいることに気がついた。
「おいしいか?」
「うん」
顔を引き締めながらそう答えると、声も少しぶっきらぼうになってしまった。
りーくんの寂しげな顔が目に入ってきて、慌てて笑った。
するとりーくんも優しく私の頭を撫でてくれた。
嬉しいのだが、恥ずかしくて、視線をテレビの方にそらした。
テレビゲームの勝敗は、勿論兄の勝ち。
「負けちゃった」
と、大輝にぃは笑っていた。
「おし!どんどんかかってこい!」
と、兄が言い、今度は陸さんがコントローラーを握る。
またもや、兄の勝ち。
「よし!次は涼だ!」
と、兄はりーくんにコントローラーを握らせた。
今回は苦戦するも兄の勝利。
「危なかったー!!」
「後、ちょいだったんだけどなー」
兄とりーくんはそう言いながらコントローラーを床に置いた。
りーくんは寝転がった。
あっ、ちょっとお腹が見えた。
結構腹筋ある…。
と、思っていれば、兄もりーくんの横に寝転がった。
兄のシックスパックが目に入ってきた。
兄すげー。
でも、りーくんの方ばかり見てしまう。
すると、突然、視界が暗くなって、振り返ると、大輝にぃがいた。
大輝にぃが私の視界を手で塞いでいたらしい。
「こら咲笑、見すぎだ」
と大輝にぃに怒られて、ちょっと恥ずかしく俯く。
「ごめんなさい」
「まったく、本当に心配だわ、お前」
「うぅ…」
大輝にぃに心配されて怒られているうちはまだまだ子供だよね…。
「何してんだ、お前ら」
とりーくんに変な目で見られながらそう言われ、慌てて首を横にふった。
りーくんは不機嫌そうに顔を歪めて、私から視線を外してしまった。
少し胸がちくりとした。
その日はそこで自然と自分の部屋へと戻る流れへとなった。
学校で、りーくんへの接し方について透に相談したかったが、照れくさくて話すきっかけを逃しまくってしまい、あっという間に土曜日になってしまった。
透へは、「オムライスのうた」の音源CDと歌詞を渡しておいて、練習をお願いしといた。
「ルーエンさんが、咲笑ちゃんのお友達だっただなんて、すごい偶然だね。咲笑ちゃんの周りには不思議と歌友会員が集まるよね」
と陸さんが笑った。
確かに、大輝にぃとりーくんは別だが、陸さんと透は偶然なのだから、不思議なご縁だ。
兄は、話してから日数があいていたため、透が歌友会員であることについての同様はなくなっていて、「オムライスのうた」の録音の話は意外とスムーズに進んでいった。
仮音源であった「オムライスのうた」の本音源の録音が明日行われるらしい。
演奏者の中に知っている人がいて、
「会いたい!会いたい!」
と兄に言うと、
「そういうと思ったから、明日見学に行くかもって言っといたよ」
と笑いながら言われた。
流石兄だ。
私のことをよく分かっていらっしゃる。
他のメンバーもみんな明日予定がなかったようで、全員で見学に行くことになった。
翌日、私たちは兄の車で見学場所に向かった。
録音する場所は、歌友のスポンサーをしてくれている会社の音楽スタジオで、歌友のメンバーであれば、予約をすれば無料で借りられることになっている。
その音楽スタジオの一部屋に案内され、私たちはドアの中に入った。
何人かの楽器を持った人達が集まっていた。
「はえーな、みんな。俺が最後か?」
と言いながら、兄は輪の中に入っていった。
「おー、まあな。いや、まだ遅刻魔が来てねーよ」
と、ギターを肩からさげた男の人がそう言った。
遅刻魔…と言われた人か誰かはすぐに分かった。
楽器のチューニングや、ケアをしていた人達が私達に気づき、兄に促され、お互いに自己紹介をすることになった。
「ギター担当、仲です。本名はまぁいいよな?よろしくお願いします」
と、先ほどの男の人がギターを置き、そう言った。
次に、ドラムの柳さん、キーボードの佐々木さんの順に自己紹介をしてくれた。
ちなみにみんな歌友での名前だ。
私達も自己紹介をする。
「ほぇー、女性陣はライブにほぼ顔出してない二人だから、結構びっくりだわ。可愛いね」
と、佐々木さんは「面白い」という顔を隠しもせず笑った。
ちなみに佐々木さんはこの中で一番若いそうだ。
年齢は詳しくは言っていなかったけれど、多分大学生。
なんか、チャラい気がする。
「「可愛くないです!」」
そう反論する声が重なった。
私と透の声ではない。
りーくんと兄の声だ。
「失礼だから!」
と、大輝にぃが横からツッコミを入れる。
陸さんは、「馬鹿だろ、お前ら」と言いながら爆笑していた。
不本意だが、チャラ男のおかげでみんなの雰囲気が和やかになったところで、スタジオのドアが開いた。
「ごめんよ、ごめん。遅くなっちった」
と、呑気な声が聞こえてきた。
「こうちゃん!」
一番最初に声を発したのは私だった。
「おー!咲笑!久しぶりじゃん?!」
と、背中に背負っていた楽器を端において、私のところに来た。
私の頭に手のひらを乗せ、
「身長伸びた?」
と聞いてくる。
「おーいー!こうたくーぅーん!」
ギターの仲さんがこうちゃんの首根っこを掴みながら言った。
こうちゃんは背が高いから、引っ張ったという方が正しいかもしれない。
「ごめん、ごめん。前の収録がおしちゃってさ」
と、こうちゃんは演奏者のみんなに改めて謝る。
「まぁ、それなら仕方ねーな。こいつがベース担当」
と、仲さんがそう言って、こうちゃんを私達の方に向けた。
「ベース担当の幸太です。歌友では貴嶋幸太で活動中~。よろしく!」
と、こうちゃんが自己紹介をした。
兄と、大輝にぃと、こうちゃんは知り合いなので、久しぶりなんて言いながら自己紹介をする。
陸さんはこうちゃんが自己紹介をしたときから変な顔をしていたが、陸さんの自己紹介の後、
「あー!君って、咲笑の大好きなANさん?」
と、こうちゃんが言った時は、困ったような顔をした。
「やめて!恥ずかしいから!」とこうちゃんを陸さんから離して、自己紹介は終わった。
それからすぐに演奏の収録が始まった。
楽器構成は、兄のアコギに、仲さんのエレキ、こうちゃんのベースに、佐々木さんのキーボード、柳さんのドラムだ。
ガラス窓越し、マイク越しでさえ、演奏は、すごかった。
鳥肌がたった。
待合室のような所から、演奏者達をみていたが、さっきのような雰囲気は一切なく、演奏をとめながら、話し合いながら演奏を進めていた。
「ね、咲笑ちゃん、あのベースの幸太って、フルスロットルのボーカルでしょ?」
と、陸さんが少し声を潜めて話しかけてきた。
「うん。陸さん知ってたんだー!」
「そりゃあ、最近キてるバンドだから、俺の大学でも好きなやつ結構いるよ。でさ、咲笑ちゃんはなんでそんな人と知り合いなの?」
フルスロットル、というのは、歌友から出たバンドではなく、一般の音楽業界のオーディションからのバンドである。
デビューして二年程、全く人気が出なくて、去年あたりにCM曲に起用されてから、人気がグングン伸びている。
「こうちゃんは、昔通ってたピアノ教室の先生の息子さんで、その時よく遊んで?貰ってたんだよ」
と、私は答える。
「そん時からずっと関係続いてるって結構珍しいことじゃない?」
「そうかなー?こうちゃんとは最初仲良くなかったんだけど、色々あってお友達になったんだよ!」
「色々って…」
と、陸さんは苦笑いをしながら、「本当、咲笑ちゃんって不思議な子だよね」と言った。
なんなんだ、不思議ちゃん扱いか?!
「色々は色々なの!あっ!そうだ!私とこうちゃんは、「源氏物語」なんだよ」
「へぁ?」
陸さんは少し間抜けな声を、だした。
そんな声も好きだ!
「なにそれ?」
「こうちゃんには話したってこと内緒にしてね」
と、私は陸さんに言ってから、陸さん以外には聞こえない声で話し始めた。




