05 女子生徒はイケメンの先生を求めるものですよねーって話
教室に入るといつもメンバーだ。
去年とあまり変わらない顔ぶれだ。
黒板をみると、あまり綺麗じゃない字で、
「出席番号順に座るように」
と書かれていた。
私の出席番号順は、18番で、クラスはだいたい30人なので、真ん中あたり。
私は、自分の席に座った。
前には見知った顔。
去年からのクラスメイト、斎藤透。
女の子だが、とおるだ。
「おはよう、咲笑」
ととおるが挨拶してくれる。
「おはよ、また同じクラスだねー」
と私が言うと、
「そうだね、今年もよろしく」
と、とおるが言った。
ふと、去年の今頃を思い出す。
今と同じようにとおると、私ととおるは席が前後ろで、さっきみたいに、
「今年1年よろしくね」
ってお互いに言い合った気がする。
「懐かしいねー」
なんて、呟いてみる。
「なに言ってんだか」
と、とおるに冷たい目で見られ、「ばーか」と言っといた。
「それよりさ、担任だれだと思う?」
と、とおる。
「私は、美人でおっぱいが大きい、黒髪のストレートの社会担当の先生がいいかな」
私は真顔で答える。
「それは、大井先生だろ!」
ちなみに、大井先生は非常勤の先生なので担任を持つことはない。
すごく、残念。
「それを言うなら、中田先生がいい!」
と、とおるはうっとりしながら言った。
中田先生は女子から、人気のイケメン保健教諭だ。
茶髪の髪の毛は元々色素が薄いらしい。
手当ても丁寧で、お素敵イケメンである。
「保健室の先生だよね?何教えてもらうの?ねーねー」
私はすこし意地悪めにいった。
「そりゃー、あれだよ。男女の…」
「ごめんなさい。私が悪かったです」
とおるが答えようとしたので、謝っておいた。
「っていうか、言うなぼけぇーい!そして、言わせるかぁああああー」
あとからツッコミ。
「遅いなー」
と、とおるはニヤニヤ。
「中田先生は、遠くから眺めるくらいがいい」
「そうだよね、イケメンは眺めるものだよね」
と、とおると私。
残念だな、私達。
だって仕方ないじゃん、女子校なんだもん。
ーガラ
そんな私達の想像から外れた人物が、教室のドアを開いた。
「おはよー。今から始業式だから、出席番号順に廊下に並んべー。早くー早くー」
担任を見ての、私ととおるの反応は、2人そろって、「まじかよ」だ。
「まじだよ。はいはい、早く並んで」
と、私達の新担任、杉谷優弥先生は言った。
驚き過ぎて少し声を出してしまったようだ。
期待はしていなかったが、かなり嬉しかった。
なぜ私達が彼が担任だったことに驚いていたのかというと、彼は私達がやりこんでいたゲーム (乙女ゲーム)の数学教師に似ているからだ。
ちなみに、それを言っているのは私だけで、とおるは否定している。
とにかく言っておく。
私は彼の顔がタイプだ。
私は彼の顔がタイプだ。
(大事なことなので2回言っときました)
まぁ、教師と生徒の禁断の…っていうのにはならないよ。
だって、イケメンは眺めるものだから。
それに、彼、5人位、彼女いそうじゃん。
それは冗談として。
私は先生としても彼が好きだ。
とても親切で優しく、生徒からの信頼も厚い先生で、なりより私には彼にご恩があるので。
ちなみに、先生の担当の教科は数学ではなく、現国だ。
正反対じゃねーか!
そんなこんなで、始業式のために集会館へ。
集会館は、名前の通り集会や、式典などが行われる大きな場所である。
始業式はなにごともなく進み、担任紹介で杉谷優弥先生が紹介されたとこで、先輩や、後輩が少し声を上げたが、それだけで終わった。
それよりも、大きな出来事は、新任教諭紹介で起きた。
「えー、化学の担当になりました。楠木志紀です。高1、高2を担当します。よろしくお願いします」
とても響く低すぎない声は、私の好みでした。
まあ、それは、それとして。
こんなシンプルな自己紹介に対して、生徒の反応は過剰だった。
黒髪に、黒縁のメガネ、高身長に、なにより整った顔。
杉谷先生に負けない位のイケメンさんでした。
あー、これでこの学校のトップ2イケメンは決まりですね。
そして、この学年はトップ2イケメン2人に教科を持ってもらえるという幸せな学年になったのだ。
高1の皆さんのテンションがとても高いのは仕方ないことだと思いますよ?
分かります、その気持ち。
って、ことで1時間目の始業式が終わり、解散というわけではなく、2時間目からは早速、授業だ。
前の大きな黒板ではなく、横の小さな黒板に今日の時間割が書かれて行く。
これから1週間は4時間授業なので、今日も4時間目まで。
そして、皆さんお待ちかねの授業が4時間目にあった。
化学。
楠木先生の授業は1回目だということもあり、化学室での実験だった。
入浴剤を作るというもので、みんなとても楽しんだ。
ちゃんと、どういう仕組みでこうなっているのかなど、細かく説明してくれる丁寧な授業だった。
黒板に書くより、口頭での説明が多かったため、私は先生の声を楽しんだ。
授業が終わると、みんな我先にと、先生のもとへ。
「先生!彼女いますか?」
イケメンの先生にはありがちな質問。
「いませんよ」
と先生は笑顔で答える。
その後も、学生時代は何部だったのだとか、何大学に行ってたのかとか、好きな食べ物はなにか、とか色々聞かれていたが、先生は常に笑顔。
私も、先生の近くでクラスメイトと戯れながら先生の声を聞いていた。
みんなからの質問が多いので、自分から先生へ質問はしない。
先生の声、めちゃくちゃいい!
そもそも私は低すぎる男のひとの声はあまり好きじゃない。
高いくらいが好きなのだ。
そして、先生の声の高さは理想的だ。
「あっ、やば」
と1人の女子が時計を見て言い、みんなも時計をみる。
そろそろホームルームが始まる時間だ。
担任は杉谷先生。
みんな一斉に帰っていく。
その波にのって私も帰ろうと、化学室を出たのだか、教室に教科書を忘れてくるというドジをしたため、一緒にいたとおるに「先に帰ってて」と言って化学室に引き返した。
すると、教卓の前でため息をつく楠木先生の姿が目に入る。
先生は、先程使った実験道具を見ているようだ。
なるほどねー。
さっき自分の周りにいた子達に片付けのお手伝いをお願いしようとしたら、タイミングを逃してしまったのだろう。
この量を1人で…っていうのは確かに大変かもしれない。
「先生」
なんとなく、つい。
「片付け、お手伝いしましょうか?」
気付けばそんなことを口にしてた。
先生は今、私の存在に気付いたようで、とても驚いた顔をしている。
先生からの返答はまだない。
少しの気まずさを覚えながら、私は自分の席に行き、教科書を回収する。
「教科書を忘れてしまって」
笑いながら言う。
これで、私の第一印象はドジな生徒だろう。
なんとでも思いやがれ!イケメンがぁ!
「教科書ね…。手伝いって、言っても、もうホームルーム始まるでしょ?」
先生は、時計を、確認しながらそう言う。
確かに、後5分でホームルームが始まってしまう。
でも、さすがこの量は、大変でしょ。
というのも、私は前の化学の先生(おじいちゃん先生)と仲が良かったため先生が
「1人で片付けするのは、つまらないし、大変です」
と言っていたのを聞いたからだ。
それ以来私が片付けを手伝うようになったのだが…。
「放課後、来ますよ」
そう言ってから、しつこすぎたかな、と少し後悔した。
楠木先生は若いし、前任のおじいちゃん先生と比べてはいけなかったなーなんて、苦笑いしてしまう。
「そう、助かるよ」
と、先生は、笑顔で言ってくれたので、しつこかったのは反省しながらも、安心して、笑顔で、
「じゃあ、また放課後に」
と言って化学室を出た。
急いで、教室へ帰ったが、ギリギリ2分アウト。
みんな席についていて、先生もすでに教室にいた。
「坂田!遅いぞ。どこ行ってた?」
杉谷先生が珍しく怒り気味だ。
「すいません、化学室に教科書を忘れて取りに行ってました」
そして、手伝いをしつこく申し出てました
とは、言わないでおく。
「5分前行動を心がけろ。後で職員室に来い。罰として、教材を運ぶのを手伝ってもらう」
先生の眉間に皺がよっている。
これ、乙女ゲーム的にいうとフラグがたってるんだけど、先生は本気で怒っている様子なので怖い。
行きたくない、職員室。
そんなに、待たせた私!?
重苦しい雰囲気で始まったホームルームは、重苦しい雰囲気のまま終わり、そこで解散となった。
先生が教室からでていくと同時に、友人達、美瑠と、悠里が来て
「そんなに待ってなかったよ、先生機嫌悪かったんだね」
と悠里がいって、
「雑用押し付けたいだけでしょ?ちょっと、幻滅ー。咲笑、手伝おうか?」
と美瑠が、言ってくれた。
「大丈夫ー、ありがとうね」
と友人に言って、バイバーイと手を振って教室を出た。
私への罰なのに、友人を巻き込むのは気が引けるのだ。
廊下にとおるがいたので、とおるに手を振ると、「がんばれ」と言われた。
やっぱり杉谷先生はそうとうお怒りのようだ。
仕方なく、化学室に行く前に職員室に行くことにした。
はぁーー
大きなため息が聞こえてきたと思ったら自分からでした。