表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/57

49 俺は咲笑の味方だよって話

 私は深呼吸して、大輝にぃの部屋に入った。


「咲笑、どうした?こんな時間に…」


 大輝にぃは驚いた顔をしても嫌そうな顔はしない。


 りーくんより先に大輝にぃに話そうって決めていた。

 りーくんにフられた時に、大輝にぃに頼ったりしないように。


「今時間大丈夫?」

「うん、大丈夫だけど。本当にどうした?咲笑。顔色悪いぞ?」


 心配そうに私の額に大輝にぃは触れた。

 

「熱はないみたいだけど」

「熱なんてないよ」


 と言いながら笑ってみたけど、うまく笑えなかった。


 でも、このままではいけない。


「大輝にぃ、あのね」


 声は震えていないか、心配だった。


「私、」


 瞳が潤んでいないか、心配だった。


ー「それでも変わらないでいるなんて無理でしょ?」


 透の言葉が頭によぎる。





「私、りーくんが好きなの」


 言えた!


 大輝にぃは驚いた顔をしたけどすぐに笑顔になった。


「うん、なんとなく気付いてた」

「大輝にぃ…」


 ごめんなさい、という言葉は飲み込んだ。

 それは言ってはいけない言葉だから。


「そんな顔をしなくていいんだよ」


 あまりにも大輝にぃの声が優しいから、思わず縋りたくなってしまう。


「すぐに、咲笑のことが好きだって気持ちは消えないけど、 咲笑の兄でいていい?」


 私は答えに迷った。

 大輝にぃは優しすぎる。

 

 だから私は大輝にぃに兄でいて欲しいと思ってしまった。


「うん。大輝にぃ、ありがとう」


 やっぱり堪えきれず涙が流れた。

 私はずるい。



 多分いつもの大輝にぃなら、私が泣いていたら抱きしめて慰めてくれただろう。


 でも今はそれがない。


 お互い触れ合わない。


 それが当たり前の距離感。


 私はりーくんが好きだけど、大輝にぃも兄として好きだった。

 小さな子供が甘やかしてくれる祖父母を大好きなような感情なのかもしれないけど、私は大輝にぃが大好きだった。








 ~~~♪♪



 突然大輝にぃが歌い出した。



 スタート地点が見えて来て

 やっと僕は走り出した

 暗い道を抜けたなら

 

 やっと明るい場所にたどり着いた

 

 スポットライト浴びて

 マイク握りしめて


 泣きそうになりながら

 歌い出す


 僕はもう一人じゃない


 自分の居場所を見つけたから


 まだまだ止まらない

 ゴールなんて見えないのだから

 

 スタート地点だけ覚えてればいいんだよ


 走り続けろ!




 

 この歌は、私のよく知っている歌だった。 


 兄と大輝にぃが高校時代に作った曲。

 大輝にぃが作詞して、 兄が初めて作った曲。


 出会った時のことを思い出した。


 大輝にぃも兄も学ランを着ていて、大輝にぃが私の家に遊びに来た時に私を見て、


「話には聞いてたけど、本当にお前に妹がいたんだな」

 

 って驚いてた。


「名前は、なんていうの?」


 って聞かれて、緊張しながら、「咲笑」って言うと優しく笑って


「そっか、よろしく咲笑」


 って頭を撫でてくれた。


 大輝にぃは出会った頃から優しかった。

 とっても大人で、カッコ良くて…。

 

 私が大輝にぃに懐くのに時間はかからなかった。


 大輝にぃは、大学生になっても私と遊んでくれた。

 大学時代大輝にぃは兄以外の人とバンドを組んでたんだ。 

 その大輝にぃのバンドの演奏を見に行ったことがある。だけど、あんまり仲良さそうじゃなくて、ある時にね、大輝にぃはバンドのメンバーとケンカしちゃって、予定してた路上ライブを一人ですることになっちゃったことがあったの。

 

 勿論、心配して、兄が助っ人として行こうか?って言ったんだけど、大輝にぃは「絶対に来なくていい」って言って、私達は何も出来なかった。

 そんなこと言われててもじっとなんかしてられないから、私と兄は大輝にぃの路上ライブの様子を見に行ったんだ。


 CD音源流しながら、大輝にぃは一人で歌ってて、その周りにはいっぱい人がいたんだ。

 やっぱり大輝にぃはすごいな、って思ったんだけど、突然、兄がギターを持って乱入してさ、私は兄に引っ張られて、大輝にぃの隣に行くことになって…。

 家出た時に兄がギターを背負った時点で嫌な予感はしてたんだけどね。


 それでも、二人は楽しそうなんだ。

 大輝にぃはバンドの人と演奏してる時よりも。


 私はそんな二人が羨ましくて、その音の中に入っていった。


 それが私が歌友のオーディションを受けようと思った理由。

 勿論兄に頼まれたってのもあるけど、一番はもう一度、人前で歌いたいって思ったからなんだ。


 だって、その時に思っちゃったんだもん。

 楽しいって、気持ちいいって。


 その後聞いた話だと、大輝にぃだけプロにならないかって誘われて、それでバンド内でケンカしちゃったんだって。

 大輝にぃは勿論断ったんだけど、結局バンドは解散。

 その後に、高校時代のバンド仲間に誘われて、大輝にぃが歌友に入り、私達も入った。



 一度、


「大輝にぃはなんで歌うの?」


 と聞いたことがある。

 大輝にぃは少し考えてから


「気持ちいいって思ったから。それに、初めてスポットライト浴びたときに、居心地が良いって思ったんだよ。欠けていた部分がぴったりはまった感じ」


 今思えば、歌うことの意味なんてと思うけど、大輝にぃははっきりとそう答えた。

 当時の私はあまり理解してなかったけど、


「そうなんだ…」


 と言った。


 大輝にぃが歌友に入ってからは、画面越しの大輝にぃの歌に感動したといったコメントが来ることが多くなった。

 大輝にぃはそのメッセージ一つ一つに、感謝のことばを返していた。


「いつかみんなにお礼を言いたいんだ」


 と大輝にぃは言った。


「直接会って、俺の歌を聴いてくれた人達に、ありがとうって」


 それは歌友のネットが主体のシステムだからこそ思ったことなのだろう。


「いいな、それ!俺もやりたい」


 と兄が言って、


「私も!」


 と賛同した。


 私は大輝にぃを兄のように思っていた。

 ずっと大輝にぃの背中を見て、それを追いかけていた。

 




「大輝にぃは私の歌の先生なんだ」


 大輝にぃが歌い終わり、私はそう言った。


「何だよ、それ」


 大輝にぃは苦笑しながらそう言う。


「私は大輝にぃが、歌を歌っていなかったら、歌友に入っていなかったし、歌うことを好きでもなかったかもしれない」

「それは違うな。もし俺が歌っていなくても、俺と咲笑が出会っていなくても、咲笑は歌友にはいってたよ」


 大輝にぃは言い切った。


「そんなこと…」


 私はまた否定しようとしたが、大輝にぃが首を振る。


「ノリの刺激を受けてってこともあるし、何より咲笑自身が、歌うことが好きだから。だから俺の存在なんてそんなものだよ」


 大輝にぃは悲しげに言った。


「馬鹿にすんな!」


 思わずそんな暴言を吐いてた。


「大輝にぃを、馬鹿にすんな。私の中の大輝にぃの存在を馬鹿にすんな!私の中を占領している大輝にぃの記憶をなめんなよ!もしなんて存在しないし、大輝にぃがいなきゃ、やっぱり私は歌いたいなんて思わなかった。あんな人前で歌うことが楽しいとか気持ちいいとか、知らなかった。感謝することの大切さなんて分からなかった。大輝にぃはすごいんだから!」


 大輝にぃが驚いているのが分かった。

 でも、私は自分の涙がどんどん流れるのなんて気にもしないで言っていた。



「分かったから、泣くなよ。あー、この気持ちに気づかなきゃ良かったな。そしたら、ここで俺は最後まで咲笑の良いお兄ちゃんでいられたのに」


 大輝にぃは軽く私の頭を撫でながら言った。


「俺は、頑張れとは言えない。し、言いたくもない」

「うん」

 

 私はただ頷いた。


「ただ、俺はいつでも咲笑のことを応援してるよ」


 大輝にぃはにこやかに笑って言った。


 今日初めての良い笑顔だ。


「大輝にぃ。大輝にぃ。大輝にぃ!私、大輝にぃの妹になれて幸せだよ!」


 もう泣いていなかった。

 

「ありがとう、大輝にぃ」


 そう言って私は大輝にぃの部屋を出た。


 ごめんなさいは最後まで言えなかった。

なんで、咲笑ちゃんは大輝にぃのことを好きにならないんだろうと、不思議で仕方ない。


大輝にぃの過去の話は常々入れたいと思っていたので入れられて良かったです!

私が書きたいことを書き散らしたノートにあった大輝にぃの紹介文が我ながらひどかった笑


完結したら、活動報告の場所にでも載せておきますね笑


最後までお付き合い頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ