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48 自分の意志でって話

 結局朝になっても、どっちとも話は出来ず、私は学校に向かった。

 出来なかったことを透に言うと


「焦らずゆっくり、ねっ?」


 と言ってくれた。

 私は安心して、大きく二度頷いた。


 その日の放課後すぐに、昨日相良先輩からメールで届いた場所に向かった。


 学校の最寄り駅から四つ駅が離れた喫茶店。

 緑青と深森のちょうど真ん中あたりにあるので、ちょうど良い。


 お店に入って相良先輩を探す。


 窓側の一番奥の、席にいた相良先輩と目があう。

 軽く会釈して、相良先輩のいる席に向かった。


 私はアイスココアを注文して、一息ついてから


「急に呼び出して申し訳ない」


 相良先輩はそう言った。


「大丈夫ですよ、この前の従姉さんの話ですよね?」

「ああ」


 私の予想通りだった。


「何か変わりましたか?」


 相良先輩にアドバイスしたことが本当に良かったのか不安になりながら聞いた。


「変わった。普通に挨拶してくれるようになったし、最近では世間話出来るくらいにはなった」


 相良先輩は、表情には出ていないが、声から嬉しいのだろうということが分かった。


「そうですか!良かったです」

「ああ。坂田のおかげだ。ありがとう」


 相良先輩は姿勢を正して頭を下げた。

 私はぎょっとして焦りながらも、言う。


「頭上げてください!私は何もしてないですよ!」

「いやでも…」

「いいから!」


 思わず大きな声を出してしまう。

 渋々と、相良先輩が顔を上げた。


「じゃあ、何か頼んでくれ。お礼に奢るよ」


 相良先輩はそう提案してきた。

 本当に私は何もしてないのに。

 しかし、私が頷かないと、相良先輩は気にしたままだろうと思ったので、


「ありがとうございます」


 と、言った。

 最初は、私の飲んでいるココアを奢ってもらう、というつもりだったが、私のお腹が鳴ってしまったので相良先輩に「何か頼め」と言われてしまった。

 最近ここのパンケーキが美味しいと有名(深森学園内で)なので、イチゴクリームパンケーキを注文した。


 パンケーキが届いてから、相良先輩がパンケーキをじっと見ていたので、


「一枚食べますか?」


 と三枚あるうちの一つを横にずらすと、


「いい、甘いものは好きじゃないから」


 と言われてしまった。


 うん?じゃあ、なんで見てたんだろう?


 それからまた従姉さんの話をした。

 どこまで仲良くなっていいのか分からないのだそうだ。

 私はそういうこと考えなくていいと思ったのでそう伝えた。


 私がパンケーキを、食べ終わるくらいで、相良先輩は申し訳なさそうな顔をした。


「また、俺の話ばかり…。しかし、参考になった。もう少し頑張ってみようと思う。またお礼をしなければならないな」


 と。

 私は首を横に振った。


「いいえ。お礼なんていいですよ。パンケーキだけで充分です」


 パンケーキを食べた時に口についたクリームを拭きながらじゃ、説得力はないがそう言った。


「いや、それだけでは申し訳ない」

「申し訳なくないです」


 私は少し強めに言った。

 相良先輩がさっきから私に気を使いすぎなのだ。


「相談くらいいつだって、どんだけだってのりますよ!だって、友達ですから!」


 思いっきり言い切った。

 相良先輩はぽかんとした顔をしていた。


 しまった。

 先輩にいきなり友達はダメだったな、と思い、何か言おうかと考えていたら、


「そうだな。ありがとう」


 と相良先輩が言った。


「友達か、うん…」


 と相良先輩は小さく呟きながら複雑そうに笑った。

 それから、決心したように顔を上げ、


「そうだな、友達。坂田なら話してもいいかもしれない」


 と言った。

 

「俺の従姉は、浪川京華だ」




「えぇ?!」


 私の反応が面白かったのか、相良先輩は笑った。


「そんなに驚くか?」

「はい」


 予想もしてなかった人物だったので、仕方ない。

 そもそも、話の従姉さんが私の知っている人だなんて所から予想外だ。

 そういえば、文化祭の時二人とも遅刻してきたな、なんてことを思い出した。


 そのことについて聞くと、家族全員で遅刻したらしい。

 そんなことがあるのか、と笑ってしまった。


 それから、少し真剣な顔をして、聞く。


「もしかして隠してました?」

「このことを学校関連の人に話したのは初めてだ。一緒に暮らしてるから変な噂がたっても面倒だし、何より京華が嫌がる」

「中井先輩にも話してないんですか?」

「ああ」


 それで、かなり重要なことを聞いてしまったのだと実感した。


「秘密にします」

「頼む」


 と相良先輩は穏やかに言った。


 そろそろ外も暗くなってきたので、自然とお開きという流れになった。


 席から立ち上がる前に、相良先輩が言いづらそうに声を出した。


「さ、さっき、坂田は友達って言った、けど」


 相良先輩は私と目を合わせようとしない。


「俺は友達以上になりたい。多分、坂田のことが好きなんだと思う」


 ひどく曖昧な言い方をする相良先輩。

 驚いた。

 でもドキドキしなかった。


「ごめんなさい」


 相良先輩は、落ち着いていて、一緒にいて安心する。

 でも、私はりーくんが好きだ。

 だからそう言った。


「そうか。いやいいんだ。今、後悔している。思ったことをそのまま口にした」


 相良先輩はそう言ったが、胸が苦しくなった。

 あの、文化祭の夜感じたもののような。


「それに、こんな良い女友達を失うのは惜しいからな」


 そう少し明るく相良先輩は言った。

 少し胸が軽くなった。


 それから、別れるまで相良先輩は前と変わらぬ態度だった。


 別れ際、相良先輩は


「また、相談乗ってくれるか?」


 と言ってきた。


「もちろん」


 と答えると、相良先輩は小さく微笑んで「ありがとう」と言った。


 一人電車に揺られながら、相良先輩は改めて優しい人だと思った。



 その日の夜、タイミング良く、きょーちゃんから電話がかかってきた。

 何度かきょーちゃんと電話をしたことがあったが、基本ラインか、メールだったので驚いた。

 お互い近況を、報告をして、一区切りついた時、きょーちゃんが切り出した。


「私、好きな人が出来たんだ」


 と。

 

「誰?」


 と訪ねると、


「一緒に住んでいる従兄」


 と返ってきた。


 そして、相良先輩から今日聞いたことを、もう一度きょーちゃんが話してくれた。

 相良先輩がぼかして話さなかった部分も話してくれた。

 

 きょーちゃんのお父さんがダメダメで、そのお父さんが亡くなって、お父さんのお兄さんーきょーちゃんにとっての叔父さんの所に引き取られたが、生前の父の行いのせいで、叔父夫妻と上手くいっていない、のだとか。


 しかし、さり気なく、従兄ー相良先輩がサポートしてくれていたのは知っていたし、最近は話せるようになって、相良先輩が好きだってことに気付いたらしい。


「そうなんだ…」

「うん。父親のことは気にしないで。仕方ないことだって。それは、おいといて、恋バナをしようと思って、私は咲笑に電話をかけたの!私、咲笑以外にこんな話出来る相手いないんだ」


 きょーちゃんの最後の言葉に信頼感を感じ少し嬉しく思いながらも、相良先輩に告白をされたことを思い出して、どうしようかと考えた。

 でも、黙っているのは変な気がして、素直に話すと、


「良かったー。咲笑に好きな人がいて」


 ときょーちゃんは明るく言った。

 緊張しながら言った私が馬鹿みたいに、きょーちゃんは笑った。


「で、誰なの?好きな人って」


 私はこの同居生活の話を全て話した上で、りーくんが好きなことを伝えた。


「え?!咲笑、仲辺先生と一緒に住んでるの!?羨ましい!」


 ときょーちゃんはテンション高めに言った。

 その言葉を聞いて、きょーちゃんはりーくんが好きだったことを思い出した。


「もうりーくんは好きじゃないの?文化祭の時だって…」

「りーくんって…。へーそう呼んでるんだー。その時は仲辺先生が好きだったんだよ。まぁ、それが恋愛的な意味ではないことは自分でも分かってたから、翔太ことが好きだって気付いてからは、好きな先生って感じかな」


 そういえば、相良先輩の名前は翔太だったな。

 きょーちゃんは相良先輩を翔太と呼んでいるのか。


「きょーちゃんは、告白しようと思わないの?」

「思わないわけではないけど、まだだめ」


 きょーちゃんは強く言った。

 

「なんで?」

「だって、翔太は私のこと従姉としてしか見てないもん。だから、まだだめ」


 きょーちゃんの「まだだめ」は全然弱気でも後ろ向きでもなかった。


「そっか…」


 いつならいいの?とは聞けなかった。

 それは多分、きょーちゃんにも分からないだろうから。


「私は、言うよ。りーくんにも、傷つけてしまうだろう大切な人にも」


 自分に言い聞かせるように言う。

 きょーちゃんは、少し間を開けて、


「頑張って!」


 と言ってくれた。


 電話を切って、部屋を出た。


 二階に上がって、扉を二度ノックする。




 強くならなきゃ。

 強く。


 変わる勇気なんてないよ。

 でも、どうせ変わってしまうなら、自分の意志で変えたいから。


咲笑も強くなったのかな?

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