47 変わらずになんていられないよねって話
化学室の片付けが終わり放課後の教室に戻ると、透が私のカバンを抱えていた。
「透?何してるの?」
私はよく分からないこの状況に戸惑いながらも透に声をかけた。
「お兄さんって、優しいよね」
透はスマホを眺めながらそう言った。
「え?」
「私、お兄さんが好きかもしれない」
今度はスマホを抱きしめながらうっとりと、言う。
透の言うお兄さんっていうのは多分というか、間違いなく、私の兄のことだ。
透には妹が一人いるが、兄はいないからだ。
「なんで?」
正直な言葉が出てしまった。
いや、だって、兄だよ?
確かに優しいけど、あの兄だよ?
「文化祭の日から毎日メールしてるんだけど、見てこれ!」
透は押し付けるように、画面を見せてくる。
透の一言、二言のメッセージに対して、兄から割と長めの文が帰って来ていた。
「丁寧だよね…」
と思ったことを言うと、透は大きく頷いた。
「そうなの!私はくだらないことしか言ってないのに、ちゃんと返信してくれて…」
嬉しそうな顔で透は言ったが、少し前までの兄への態度との温度差を感じる。
ましてや、透が兄では最近知り合ったのではない。
でも透が兄に対して過剰に反応するようになったのは最近だ。
「透はいつから兄のことを…?」
なんだかそんなことを聞くのは恥ずかしかったが、意を決して言ってみることにした。
「うーん」
と悩むような声を出す透。
「実は一目惚れだったんだ…」
と、透は顔を赤くして言った。
いつになく女の子らしい透…。
と、そんなことより一目惚れ!?
「大層なもんじゃないけど、初めて見た時からかっこいいと思ってて…。でも、勇気が出せなかったし、第一、お兄さんから見たら、私なんてお子様でしょ?でもね、」
「でも?」
私は先を促すように言う。
「咲笑の歌友の話を聞いて、お兄さんが、マチだって聞いて、理由が出来たって思ったの」
「理由?」
「そう。咲笑のお兄さんに近づきたいって思う理由。私はマチのファンだからってね。まあ、そんなの建て前だってすぐに気付いたけど。でも私は、それで一歩踏み出してみたの」
透は笑いながらそう言った。
そんな透を少しだけ羨ましいと思った。
透は一歩踏み出す理由を見つけて、私はりーくんへの気持ちを隠す理由を見つける。
正反対だ。
「咲笑は何も話してくれないの?」
少し考え事をしていたら、透のそんな声が聞こえて来た。
「隠してることあるでしょ?」
まさに今考えていることを言われてしまい、目を見開く。
多分、透はそれを言うために、私を待っていたのかと、その時理解した。
「咲笑の顔は嘘をつけないね」
と、透は寂しげに笑った。
そんな透を見てたらもう隠す気にならなかった。
全部話した。
大輝にぃに告白されたことも、りーくんが好きなことも、親に家に帰ってこないかって言われたことも、全部。
そして、今の暮らしを守るために、私がりーくんへの気持ちを隠したことも。
「咲笑は馬鹿だね」
透は楽しそうに笑った。
今まで悩んでいたことが本当に馬鹿みたいに思えるような笑顔。
私は透を睨む。
「馬鹿じゃないもん!本当に悩んでたんだから!」
「悩む必要なんてないよ。咲笑はその気持ちを仲辺先生に話せばいいんだよ」
透はなんでもないかのように言ったが、そんな簡単な話じゃない。
だってー。
「何もしないで考えてても意味ないよ。少なくとも、仲辺先生の方が咲笑なんかより大人なんだから、とりあえず告白しなさい。それで、大輝さんにも話しなさい」
「でも、怖い…変わってしまうのが、怖い」
結局、怖いから、何も出来ない。
何度も、透の言うようなことを考えた。
でも、やっぱり怖かったから、何もできずにいた。
「それでも変わらないでいるなんて無理でしょ?」
透のその言葉で、今までぐるぐる考えていたことの無限ループが止まった気がした。
「うん」
そうだ。
変わらないでいるなんて不可能だ。
「変わらずになんていられないよね。私、ちゃんと言うよ!」
そう言葉にしてみると、妙に頭がすっきりして、立ち上がった。
「帰ろう!透!」
私があまりにも勢いよく立ち上がったせいか、透は驚いたように私を見たがすぐに笑って、
「帰ろう」
と言った。
もう足は大分治ったので、お迎えはいらないし、陸さんには、一緒に帰れないことをさっき伝えてあるので、駅までゆっくりと話をしながら歩いた。
その間、透に兄の話を聞かれた。
想像以上に透は「女の子」なようだ。
家に帰ると、いつもの通りみんなリビングにいた。
逆にはなしずれーよ!
仕方なく、タイミングを見計らってみたが、そのタイミングが来ることなく、それぞれが部屋に戻っていく。
どーすればいいのか分からなくて、取りあえず私も自分の部屋に入った。
もう、話をするのは明日にしようと、諦め、スマホをアラームをセットするために起動させると、メールが一通届いていることに気がついた。
「明日の放課後時間ある?相談したいことがあるんだ」
相良先輩から。
「はい、大丈夫ですよ」
と返信すると、すぐに時間と場所の指定のメールが来た。
「了解しました」
と返信して、私はベッドの上で目を閉じた。




