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44 思い浮かべる顔って話

「はーん。面白いことになってきたねー。青春だよ!ラブだよ!」


 なんて言う愛美ちゃん達に送り出され、私と相良先輩は休憩所を出た。


 ちょっと待って!

 今の流れ的に、その…え?


 とりあえず座れるところに、と校庭のベンチに二人で座る。


 今日は比較的に暖かくて、むしろ外の空気は気持ちいいほどだ。


「ごめん、急に連れ出して…」


 と、相良先輩は座った途端言った。


「その、相談したいことがあって…」


 と、妙に歯切れの悪い言い方をする相良先輩。

 愛美ちゃん達が想像するようなことではなかったようだ。

 少し安心した。


「相談って?」


 聞き返してから考える。

 相良先輩との接点なんてメールくらいしかないのに。


「従姉と仲良くなりたいんだけど、俺、男兄弟で、女の子の趣味とか分からなくて…」


 相良先輩曰く、その従姉さんとは一緒に住んでいて、今はお互い、家では殆ど喋らないらしい。

 仲良くしたいんだけど、相手に避けられている、とのことだ。


「趣味、と言われても…。うーん。いくつくらいの子なんですか?小さい子だったら、お人形さんは誰でも好きだと思うんですけど…」

「一つ下」


 返答された言葉に驚く。

 一つ下か…。


「それは難しいですね。一つ下と、なると…うーん」


 小さい子であれば、お人形さんとか、某子供向けアニメのおもちゃがあれば個人差があるが、大抵の子は喜ぶが、この年になるとなー。

 私だったら、一緒にゲームとかしてくれたら嬉しいけど。

 それでいて、私より何歳も年上の癖に、大人げなく私をこてんぱんに負かせるようなことしないで、少しは勝たせてくれると、喜ぶけど…。

 それって、りーくんのことなんだけど。


「やっぱり難しいよな」


 落ち込んだように、相良先輩は呟いた。


「やっぱり、趣味とかいう会話以前に、挨拶とかから始めてみたらどうでしょう?」

「なるほど!確かに。それは良いかもしれないな」


 名案だ、というように笑った相良先輩。

 相良先輩が笑っているところなんて始めて見た。

 ちょっと、可愛いかも…。


「ありがとう、坂田さん」

「いいえ、どういたしまして。といっても、大したことは言えてませんが」


 と、私は苦笑気味に返す。

 本当に大したことではない。


「でも、今までは挨拶とかもしてなかったんですか?」

「してなかったかな?あいつは家では全然しゃべらない」


 相良先輩の「家では」という言葉に違和感を覚える。


「家ではってことは外でもよく会うんですか?従姉さんと」

「あぁ。学校が、同じなんだ」

「なるほど!」


 同じ学校の従姉か…。

 色々難しいだろうな。


「頑張って下さい!」


 と言って、そこで話は終わった。


「そういえば、相良先輩のメールの絵文字可愛いですよね」


 と、ふと思い出し、口にする。

 すると、相良先輩は俯いた。


「あ、海斗が…女子は絵文字が好きだからって」


 と、本当に小さな声で言った。

 相良先輩は顔を上げたが、とても赤かった。


 照れてるようだ。

 やばい、可愛い。

 さっきから相良先輩可愛いすぎ。


「もしかしたら、中井先輩に聞いた方が従姉さんともっと早く仲良くなれるかもしれないですよ?」


 あの、出来る男なら簡単に思いつきそう。


「ダメだよ、海斗じゃ。俺はあいつとそういう恋愛対象として仲良くなりたい訳じゃなくて、家族として仲良くなりたいから。海斗のアドバイスはそっち方面に偏ってそう」

「ははっ。確かに、中井先輩のは偏ってそう」


 そう言って二人で笑った。

 相良先輩は無表情な人だと思ってたけど、案外そうでもなかった。


「そろそろ、休憩所に戻るか…。京香もそろそろ来てると、思だろうし」


 相良先輩のその言葉で、私達は休憩所に戻ることにした。


 案の定、休憩所にはきょーちゃんがいた。


「咲笑、ライン見た?」


 戻った私に開口一番、きょーちゃんが言った。

 そういえば、あれからスマホの確認をしてない。


「ごめん、見てなかった」


 と、急いで見てみた。


「今着いた」

「今どこにいるの?」


 という二つのメッセージがきょーちゃんから来ていた。


「校庭のベンチにいたの。メッセージ気付かなくてごめんね」


 と、私が謝ると、きょーちゃんは「別にいいよ」と言う。

 それからしばらくしてから里香ちゃんと中井先輩が帰って来た。


 大分、文化祭一日も終わりに近付いて来た。

 私達のホームルームの時間を考えるとあまりゆっくりしていられない。


「じゃあ、みんな揃ったところだし、俺らの愛しの天使ちゃんにリボンをかけに行くか!」


 中井先輩がそう言い、みんなで入場ゲートあたりの天使の像のところに移動した。


 完成した天使の像をみるのはこれで何回目だろうか?

 何人かが天使の周りで、リボンを結んだりかけたりしてくれている。

 この時、少しだけ達成感を感じた。


「あっ!仲辺先生!河合先生も!」


 その何人かの中にりーくんと、緑青の河合先生もいた。


「おっ、中井。なんだ、合同準備のメンバーか」


 と、りーくんは朝とまったく変わらないままいた。


 朝、自分のしたことを思い出して赤面する。

 目、合わせられないよ。

 ちょうど、前に相良先輩がいたので、さり気なく、相良先輩の後ろに隠れた。


「じゃあ結ぼうか。ね、里香ちゃん」


 中井先輩は当たり前のように里香ちゃんからリボンを受け取り、結び合わせた。

 里香ちゃんも、ここまでされると中井先輩の気持ちに気付いたようで、困った顔でされるがまま。

 そして、そのまま天使に頭から通す。

 でも、嫌そうではないから、恋人になるのも時間の問題かな?


 透は結ぶ気がないようで、リボンを取り出そうともしていない。

 私も一緒に結ぶ相手がいないし、透と結ぼうかな、と思っていたところで、優美ちゃんときょーちゃんがりーくんの方に歩いていくのが見えた。


「先生、一緒に結ぼーよ」

「先生、結んで下さい」


 時差のように言った二人。

 合同準備のときはなんでもないように仲良く話してたのに、今は火花が飛んで見える。


 そんな積極的に行けるなんて、凄いなと思うと同時に、焦るような気持ちが生まれる。


「お前ら、いつも言ってんだろ。好きな人がいるから無理だって」


 りーくんは先生口調で言った。


「いいじゃん、リボン結ぶくらい」


 と、きょーちゃんが食い下がる。

 優美ちゃんも大きく頷く。


「だーめ。俺は一途だから」


 おどけて言ったりーくんだったけど、瞳は真剣だった。

 そんなりーくんの態度に二人は諦めたようで、グループの輪の中に戻ってきた。


 りーくんに好きな人がいるなんて改めて本人の口から言われ、心臓が大きく跳ねた。

 それに一途って…。


 前に彼女の話を聞いたことはあった。 

 といっても、りーくんからではなく、兄から。


 写真を見せてもらったこともあるけど、きれいな人だった。

 可愛らしいというより、綺麗。 


「坂田…、坂田さん!」


 相良先輩の声で我にかえる。


「一緒に…」


 と言いながら、相良先輩はリボンを取り出した。

 驚いて、相良先輩の出したリボンを凝視してしまう。


 私達のそもそもの目的は自分達が作った天使をみること。

 でも、勿論そこには、天使にリボンをかけることを含むわけで…。


 メンバーは偶数だから、その場で適当に決めればいいかなーって思ってたけど。


 まさか、男の子に誘われるとは思ってなかった。



「あの、その、深い意味はなくてだな…、えっと」


 相良先輩はどもりながら、赤くなっている。


「あはは、頑張れ、相良!」


 勿論周りにはみんながいるわけで、中井先輩から、野次が飛んできた。


「うるさい!海斗」と、一言返してから


「一緒にリボン、結んでくれないか?」


 控えめに聞かれた。

 結ぼうと、透と約束していたわけじゃなかったが、つい、透を見てしまう。

 透は何を考えているのか分からない無表情で、頷いた。


 それから、無意識にりーくんを見た。


 心臓が痛くて、りーくんが悲しそうに見えて、何故か泣きそうになった。


「ごめんなさい…、リボンなくしちゃいました」


 咄嗟に嘘を吐いた。

 ポケットに手を入れたら、しっかりとひもの感触があった。

 相良先輩は


「そうか」


 と残念そうに呟いてから、何を思ったか、私の手をとった。


 そして、相良先輩の手に持っていたリボンを私の手首に結んだ。


「なら、このリボン、坂田さんにあげるよ。いらないだろうから捨てていいし、ね?」


 と、相良先輩は有無を言わせない口調で言って、私は頷いた。

 でも、捨てられないとは思った。


 その後、愛美ちゃんは優美ちゃんとリボンを結んで、きょーちゃんは「先生が結んでくれないなら、誰とも結ばない」と言って、リボンをポケットにしまい、透も「明日、結びたい人が来るから」と結ばず、終わった。

 透が結びたい相手は誰だろう、と思い、聞いてみたが、「ひみつ」と言われてしまった。



 それから合同準備のメンバーとは解散になり、私達は教室に戻り、HR後明日の準備(食品管理など)をして、下校となった。


 合同準備のメンバーとはこれから会うことが少ないんだろうなーと思うとしんみりしてしまう。

 でも、また中井先輩がみんなで遊ぶ計画をしてくれるようだし、相良先輩もリボンの件を気にした様子はなく「またメールする」と言ってくれた。

 きょーちゃんとは、今度遊ぶ約束をした。



 文化祭一日目が終わった。


 のは、いいんたけど、


「なんで!兄は迎えに来てくれないのーーー!!」


 一人心の中・・・で、叫んでみる。


 そう、兄が来ない。

 メールを打っても返信が来ない。


 仕方なく、大輝にぃや、陸さんに電話したが出ない。

 この際と思ってりーくんにも電話してみたが、まだ電車の中のようで出ない。

 一応、りーくんにもメールをしといた。



 仕方なく、正門に寄りかかりながら待っている。

 もうあたりは暗く、凄く怖い。


 ふと、口裂け女の話を思い出した。


 よくある怪談話だ。


 前の自販機の横に女の人が立っているような気がしてきた。


 暗くてよく見えない。

 でも、怖い。

 ここにいたくない。


 とりあえず、よたよたと杖を付きながら歩くことにした。

 歩いていくと、妙に杖の音だけが響いて、後ろに誰かいるような気がしてくる。


 怖いよー。

 兄のばかー。

 こんなことなら、透に一緒に待っててもらえば良かった!


 少し歩いていると、前から車が来た。


 車は私の前でとまった。

 暗くて、よく見えないが、兄の車ではないと思う。


 窓が開く。

 もし、知らない人だったらどうしよう、と一緒思ったが、


「ミミ!」


 知った声に安堵する。


「りーくんか…」


 口裂け女に怯えてたのが馬鹿らしくなった。

 力が抜けて、座り込んでしまう。


「おいっ、ちょっ、ミミ!」

 りーくんの慌てた声が聞こえた。


 りーくんは車を、道の端に止め、車から降りてきて私を車に抱きかかえて助手席に乗せてくれた。

 ただ抱きかかえられただけなのに、心臓がドキドキした。


 車内で気まずい空気が流れないか不安だったが、りーくんはやっぱり変わった様子はなかった。


 りーくんによると、迎えにくるはずだった兄は、今度は忘れてた訳ではなく、急な用事が出来て、私の迎えにいけなくなったらしい。


 大輝にぃは仕事の用事で、陸さんはバイト。

 どうしようもなく、りーくんに代わりをお願いしたところ、りーくんはまだ電車で、家に帰って速攻で迎えに来てくれたらしい。


 ありがたやーありがたやー。


「それにしても、なんでお前あんなに怯えてたの?」

「口裂け女のこと思い出して、怖くなったんだよ。本当、りーくんが来てくれて良かったー」

「そう。やっぱりミミはまだ子供だな」


 りーくんの言葉にムッとしてしまう。

 でも迎えに来てもらった訳だし!と反発心を抑える。


「ミミは好きなやつとかいないのか」


 りーくんは突然、低い声を出して言った。

 そんなことを言われて思い出す顔が聞かれている本人だなんて変な話だと思いながらも、曖昧に答える。


「わかんないけど、多分」

「誰?相良?」


 どうして相良先輩の名前が出てくるのかな、と思ったが、さっきの天使の前でのリボンのことを思い出して、納得する。


「違うよ」

「じゃあ、誰?」

「言わない」


 何度かしつこく尋ねて来たりーくんだが、本当に私が言う気がないことを悟ったようで、諦めたようにため息を吐いた。


 

 それから眠くなった私は家に帰るまでの道のりを寝てしまった。


 家に着いた時、目が覚めたが少し目を閉じて寝たフリをしていると、りーくんが妙に優しい声で、


「ミミ」


 と、私を起こす。

 でも、それが心地良くて、まだ寝たフリをしていると、


「疲れたんだなー」

 

 と、りーくんは小さく呟いて、


「おつかれさま」


 と、頬に小さくリップ音が響いた。

 優しい声。


 心の中は穏やかじゃない。

 顔が赤くなってないか、心配だ。


 でも、今更起きてた、なんて言えなくて、一瞬の浮遊感ののち、私はりーくんに抱きかかえられたのだと、理解した。

 近くにいると感じるりーくんの香りは朝とは違って汗の匂いとかが混じっていたが、不快には感じなかった。

 むしろ、心地良い。


 ずっとこのままが良い。


 そこで、何かがストンと落ちた気がした。


 私はりーくんのことが好きだ。

 私はりーくんに恋をしていたんだ。




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