43 デート?って話
車で来たため、比較的早く着いた私は、クラスの受付用の椅子に座り、机に突っ伏しながら、悶々としていた。
それから、優しいクラスメートに生暖かい目でスルーされ、透に声を掛けられるまで、その体勢をしていた。
「具合悪そうだけど、大丈夫?」
心配気に、私を覗き込んで来た透。
「うん、大丈夫。ただ知恵熱がでそう…」
と私が素直に答えると、透は呆れたように息を吐いた。
「なによ、ゲームのやり過ぎでしょ?今日明日位我慢しなさいよ」
昨日ゲームなんてしてないし、朝からゲームなんてしてない。
ただ、ゲームで例えるならつんだ。
そして、いつもの私は飽き性なので、このまま投げてしまうだろう。
取りあえず、透の言葉に頷いておく。
その後、みんなでクラスの内装の手直しをして、私は座って出来ることをしながら、でもやっぱり頭の片隅でりーくんのことを考えていた。
杉谷先生が、ホームルームで来て、ホームルーム後に、杉谷先生にも心配された。
「大丈夫か?坂田。調子悪そうだぞ」
と。
当たり前のようにおでこに触れられて、ドキッとする。
「大丈夫そうだな」
と、手を放した杉谷先生をぼーと見ていた。
「熱は無いと思うが、具合悪くなったらすぐ保健室行けよ」
と、杉谷先生は苦笑いをしながら言った。
「はい」
と、答えて、その顔のまま杉谷先生は職員室に戻って行った。
教室の中では、食品などを整理したり、机を拭いたりと忙しい空気だ。
役立たずの私は、座って受付の机を整頓するしか出来ないわけなんだけど…。
しばらくして、入場が始まる放送が聞こえた。
「今日一日頑張るぞー!」
と、誰かが言い、みんなで「おー!」と掛け声を出す。
忙しい一日の始まりだ。
始まりの放送から10分で、教室のテーブルは在校生のお客さんで埋められ、繁盛していた。
しかし、しばらくすると、だいたい落ち着き、お客さんは大分減った。
透は少なくなったとはいえ、まだお客さんがいるので、接客をしているが、私は歩き回れないので、定位置化している扉付近の受付(会計)席にいる。
みんな忙しいのが少し過ぎ去って、裏の方で座っている子もいる。
次、混み始めるのは昼頃かな、なんて思っていたら、ドアが開いた。
「いらっしゃいませー」
と、私の数少ない仕事をして、顔を上げると見知った顔。
「あっ!咲笑ちゃんだ!」
おしゃれに着崩した制服の…中井先輩。
「咲笑ちゃんー!」
続いて入って来たのは里香ちゃんだ。
それから、愛美ちゃんに優美ちゃん。
中井先輩一人だけ男の子なので、ハーレム状態だ。
でも、違和感が無い。
って、あれ?
きょーちゃんがいない。
それに相良先輩も…。
「いらっしゃいませー」
と、気付いた透がこちらにやってくる。
「こちらへどうぞ」
と、透が言い、みんなを席に案内した。
透が注文を取り歩いて来たところで透のスカートの裾を掴みながら聞く。
「きょーちゃんと相良先輩が来てないんだけど、みんな何か言ってた?」
「あー、うん。二人とも遅刻だって」
「え?そうなの?良かったー」
「はいはい。良かったね」
透がスカートから私の手を離しながら言った。
今の私達の格好は、制服の上から白のエプロンだ。
エプロンはみんな私物で、色以外の統一性はないが、「個性が出てていいんじゃないか?」という杉谷先生の言葉で丸く収まった。
透のエプロンは本当に味気ない。
だから、さっきみんなで余った飾りで透のエプロンを改造したせいで、エプロンは飾りが取れそうで掴めなかったのだ。
それから、透に手伝ってもらい、立ち上がってみんなの席に行った。
「天使の像見た?」
と、私が聞くと、みんな頷く。
「終わった瞬間より達成感あったよ」
と、里香ちゃんは笑いながら言った。
私は設置している時も見たし、朝も見たからなー。
「俺はあんまり。終わっちゃったなって少し寂しいくらいだったよ」
と、中井先輩は残念そうに言った。
「私も。達成感より寂しいって思った」
私も中井先輩に同意するように言う。
みんながオーダーしてくれたものを食べ終わった頃、
「咲笑ちゃんと透ちゃんの自由時間っていつ?」
と、優美ちゃんが言った。
「13時からだよね?」
透にそう確認されて頷く。
「そっかー。じゃあその時間まで色んなところぶらぶらしてるね!」
と中井先輩が言い、立ち上がった。
さり気なく、里香ちゃんの手をとって立ち上がらせる。
流石できる男。
このさり気ないボディータッチ、素晴らしい。
私が感心している内にみんなは教室から出てて行ってしまった。
それからお客さんが増えたり減ったりしながら、時間は過ぎて、やっと休憩時間になった。
中井先輩達を合流したは良いものの、私はあんまり歩けない。
私は、「悪いからみんなで回って」と言ったが優しいみんながそんなことをさせてくれる訳もなく、透の提案で、とりあえず一階の休憩所でゆっくりしよーということでになった。
「咲笑と私は明日もあるし、みんな回って来てよ」
と、透が言うと、優美ちゃんが縁日をやっているクラスでとったのだろう水風船を見せ、
「でも、もう大分遊びつくしちゃった」
と、可愛らしく笑った。
そうかもしれないが、なんだか申し訳ない。
「まぁまぁ」と丸め込まれ、 かわりばんこで、飲食物を売っているクラスから食べ物を買って来て、お話しながら食べてることになった。
「じゃあ、俺買ってくるよ!里香ちゃん行こ!」
と、当然のように里香ちゃんの手を取った中井先輩。
「なんで会長と一緒に行かなきゃいけないんですか…」
「まぁいいじゃん!行こ行こ」
と、里香ちゃんを連れていく。
すごい積極的だな、中井先輩。
そんな二人の後ろ姿をにやにやとみんなで見送る。
優美ちゃんが中井先輩に「二人でごゆっくりー」というラインを飛ばしたことは言うまでもない。
その後、ちゃんと買い出しに行き、女子だけになったので、勿論話題は…
「今日の会長はぐんぐんいくねー」
と、優美ちゃん。
「なんか、吹っ切れたっぽいよね。これからマジモードだよ。こりゃー、里香ヤバいね」
と、愛美ちゃん。
「だね、なんか中井先輩の後ろに炎が見えたもん。天使使って告白したりして…」
と、透。
「なんか、それって自作自演っぽい」
と、私が言うとみんなが笑った。
「でも、羨ましいなー。私も仲辺先生と手つないでみたーい」
優美ちゃんが嘆くように言った。
そうだ。
優美ちゃんはりーくんが好き。
それにきょーちゃんも・・・。
「優美ちゃんは、いつ仲辺先生が好きだって気づいたの?」
私はりーくんへの気持ちへの確信が欲しくて、聞いた。
「面白い聞き方するね、咲笑ちゃんは。いつって、聞かれてもなー。回収されたノートに書かれたコメントを見てキュンとしたのが始まりだと思う。でも深く考えたことなかったな。ただ、仲辺先生は優しいし、かっこいいから」
優美ちゃんの言葉に驚いた。
確かに、もっと単純なものだったかも。
前に男の子に好意を抱いたのなんか小学生の頃だから、忘れてた。
「そうなんだ」
小さくそう言った。
その時、スマホが鳴った。
私のだ。
画面には相良先輩の名前が表示される。
「もしもし?」
「坂田さん?」
勿論出たのは相良先輩だった。
「海斗と連絡がつかないんだけど」
「あっ。えーと」
相良先輩になんて答えようか迷っていると、隣で聞こえていたらしい愛美ちゃんに「相良先輩?」と聞かれ、頷く。
「変わって」
と愛美ちゃんにスマホをとられ、愛美ちゃんはそれをそのまま耳に当て、
「会長は今、里香とデート中なので、出られませんー」
と言った。
「はーい。じゃあ一階の休憩所にいるので、そこに来てください」
相良先輩がなんと言ったのかは聞こえなかったが、愛美ちゃんはそう言って、電話を切った。
「相良先輩はこれから来るとして、きょーちゃんは?」
と、私が言う。
どうやら誰にも連絡は来ていないらしい。
私のところにも来ていない。
そうこうしているうちに、相良先輩は来た。
きょーちゃんのことを聞くが、「もうすぐ来るんじゃないか?」と言っていた。
心配なので、とりあえずラインを送っておく。
「ごめん」
と、謝りながら、相良先輩は私の隣に座った。
「で?海斗がなんだって?」
と、相良先輩が優美ちゃんに言う。
「買い出しという名目で、里香とデート中です」
「おー、頑張ったじゃん」
と、優美ちゃんの言葉に相良先輩は笑いながら言った。
愛美ちゃんがにやにやしながら、二人のことを教えてくれる。
「会長、里香に周りから見たら恥ずかしい程アタックしてるのにかわされまくって、ね。私達三人は同じクラスなんだけど、わざわざ里香に会いに教室に来たりしてるんだけど、里香は全然気付かなくてね。で、副会長さんの相良先輩と私達で「会長を生暖かい目で応援する会」というのを作っているわけです」
楽しそうに話す、愛美ちゃん。
「まぁ、普通に応援してやろーって会だな」
と、相良先輩は言った。
「でも、海斗の手はなかなかいいな」
と、相良先輩は小さく呟いて、座ったばかりなのに立ち上がった。
「じゃあ今度は俺が買い出し行ってくる。…坂田さんと」




