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42 りーくんはかっこいいって話

 合同準備が終わり、私と透はクラスの準備に加わった。

 みんなのおかげでクラスのカフェの準備は順調に進んでいて、今日やっと完成した。


 天使の像は今日深森の合同準備メンバーで設置された。


 遂に、遂に、明日が文化祭だ!


 私はお風呂上がり、ソファに座り、スマホを眺めながら、文化祭までのことを思い出す。


 今までになかったくらいの忙しさだった。


 「合同準備」、それが一番大きな理由だろう。

 

 でも、とても楽しかったし、緑青高校の人達に出会えてとても良かった。


 今も、ラインのグループチャットで合同準備のみんなが明日の文化祭の話をしている。

 みんな明日来てくれるようで、待ち合わせの時間を決めている。

 なんだかんだで、中込先輩が取り仕切っていて、中込先輩はやっぱりリーダー気質なのだと思う。

 

 明日の時間などが決まり、雑談が始まる。


 ふと、相良先輩はみんなとのラインでは可愛らしい絵文字をつけないなー、と思った。


 それに、相良先輩とラインをしたことがない。

 メールは毎日するのに。


 合同準備が終わったその日に、届いたメール以来、相良先輩とのメールが続いている。

 毎日必ず一回はメールを送る仲、いわゆるメル友なのかな?

 内容は他愛のない、


「今日は雨が降るから傘を忘れずに」

 とか、

「庭の花が咲いた」

 とか、

「~の本が面白い」

 とか、


 そんな程度のことだ。

 ちなみにすべて、最後に可愛い絵文字付きだ。


 それに返信したり、自分から送ったりするのが日課になりつつある。



「明日は文化祭だな。ゆっくり話せたらいいな」


 言っているそばから、相良先輩からメールだ。


「はい。みなさんに会えるのを楽しみにしてますね」


 そう返信して、眠りについた。


 

 私達の学校、深森学園の文化祭は二日間で行われる。


 今日はその初日だ。


 中込先輩達は今日、私と透の教室に遊びに来てくれるそうだ。

 そして、緑青の先生も完成した天使の像を見に来てくれるらしい。

 つまり、りーくんも来るということだ。

 そのため、兄、大輝にぃ、陸さん、は二日目に来てくれるようだ。

 

 みんなと別々に行って、学校ではあまり会わないように、ということなんだけど、それって少し寂しいと思った。


「今日、学校まで送ってくれない?」


 だから、そう言った。

 りーくんが今日忙しいのは分かってたけど、言った。

 

「あぇっ?あー。おー、いいよ」


 驚いたように間抜けな声を出したりーくん。

 でも、断られなかった。

 それがなんだか嬉しかった。


「ありがとう!りーくん!」


 と、私が言うとりーくんは黙って私の頭を撫でた。

 

 何故か不満顔な大輝にぃと、半分寝ている兄に見送られ、私とりーくんは家を出た。



 りーくんの車は小さめの国産車だ。

 色は青なのだが、可愛らしい顔(外観)なので私は好きだ。


 車は走り出した。

 けれども、車内は静かで、音楽だけが流れている。

 りーくんの車ではよくジャズが、流れている。

 私はよく分からないが。


 なんとなく、暇で、前を見るフリをしながら少しりーくんを視界に入れる。

 

 運転席の窓は開いていない。 

 

 りーくんはたばこは吸わない。

 兄がヘビースモーカーだから、車の中では窓を開けてずっと吸っているイメージがあって、だから携帯型の灰皿が車にあるのは常識だと思っていたが、りーくんの車にはその灰皿はない。


 そのせいか、たばこの嫌な匂いはしない。

 頭を撫でられるとたまにふわっといい匂いがする。

 

 りーくんはすでに「教師スタイル(髪をオールバックにして、スーツに眼鏡をかけている)」だ。

 

 この姿のりーくんが隣で運転していると変な気分だ。

 私は制服を着ている生徒で、りーくんはスーツを着た先生だ。

 

 そう思うと、今の私達は少し変。

 りーくんは「俺とミミの関係は教師と生徒じゃないからな」と、言った。

 そう。違う。りーくんと私はもっと近い関係。


 なら、もしも。

 もしも、私がりーくんと他人で、深森学園の坂田咲笑せいとと、緑青学園の仲辺涼せんせいとして出会っていたなら…?

 多分、私はりーくんを好きになっていただろう。


 だって、りーくんはカッコいい。

 それに優しい。

 たとえ、その優しさに直に触れることはなかったとしても、多分、私はりーくんの優しさに気付くと思う。



 もうすぐ校門に着くというところまで、私とりーくんの間に会話はなかった。

 みんなと一緒に行かないりーくんに対しての非難めいた気持ちにりーくんが気付いていたからなのか、ただの気まぐれか。

 でも、息苦しくなかった。

 

 りーくんとの沈黙は心地いい沈黙だった。

 このジャズのメロディーも、ふんわりした甘い匂いも、りーくんの存在も私にとっては心地いいものだ。

 だからか、朝に感じた寂しさもどこかに吹き飛んだ。


「文化祭、楽しんでこいよ!」


 りーくんはいつもの調子で、私の背中を叩いた。

 

「うん!楽しんでくるよ!ありがとうね」


 そう言って車を降りるため、杖と鞄を取ろうと思っていると、当たり前のようにりーくんが取ってくれる。

 「ありがとう」とそれを受け取り、


「いってきます」


 と、りーくんに言うと、


「いってらっしゃい」


 とだけかえって来た。


 もの足りない。

 いや、足りない。

 

 少し、動かず、待ってみる。

 

「何やってるんだ?ミミ。動けないのか?」


 呆れたような声の、りーくん。

 

「違うよ!」


 なんだか、恥ずかしくなってきた。

 でも、ここで引き下がるのも嫌だ。


 自分ではあまり動けないので、りーくんにちょっと寄ってもらうように手招きをする。


「なんだよ?」


 と不思議そうな顔をしながらもりーくんはこちらに顔を向けてくれた。


 ぐいっと、りーくんの首に腕を回し、自分に引き寄せる。

 

 私の唇と、りーくんの唇が完全にくっつく。


 いや、くっつけた。

 私が。


 心底驚いた顔のりーくん。


「いってくるね!」


 よたよたと用意して、私は車を降りた。


 また、よたよたと校門をくぐり抜け、自分の教室に向かった。


 校門を通った時に見えた天使は昨日と変わらない様子だった。


 教室に着いてから自分のしたことに赤面する。


 だって、最近ほっぺにキスがなくて寂しかったんだもん。

 いや、なくて普通なんだけど、寂しかったから。


 言い訳をしてみたが、顔は赤いまま。





 本当に、私とりーくんが、他人として出会っていたら、良かったのかもしれない。

 もし、他人なら私はりーくんに恋をした。

 絶対。


 ただ今は分からない。

 兄の友達。

 私に、とって兄のような友達。

 私はりーくんのことを好きだ。

 でも、それがどういう好きなのか分からない。


 杉谷先生とも、中井先輩とも、違う気持ちだというのには気付いている。


 きょーちゃんや、大井先生にもやもやしたこの気持ちの正体…。

 私は焼き餅を焼いていた。


 でも、それは恋なのか。

 

 りーくんに思いつきのままキスした、それが答えのような気がして、喉の奥がキューとなった。


 私はりーくんに恋してるのかも。

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