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41 天使が完成しましたよーって話

 合同準備の教室のテーブルの上にポツンと置かれた紙。

そこには、みんなで作ったまんまの天使が描いてあった。


 昨日みんなで決めた通り、天使は泣いていた。

悲しそうな泣き顔。


「どうかな?」


 と、中井先輩がみんなに尋ねる。

 

「素敵ですね!」


 とみんな言う中、私は黙っていた。

 確かに素敵。

 でも、悲しすぎる。

 天使のこの泣き顔は悲しすぎる、と思った。


 どう表現していいのか分からないから少し考えていたら話が進んでいってしまった。


 制作が進む中、なんとなくもやもやする気持ちを抱えて、中井先輩が描いた図案を眺めていた。


 ふと思いついて、近くにあったシャーペンで薄く天使の口角を上げてみた。

 天使は泣きながら微笑んでみえた。


 これはいいんじゃないか!とそれを先輩に見せにいくと、驚いて目を見開いてから、「いいじゃん!それ!」と言ってくれ、嬉しくなって笑顔でみんなに見せにいくと、みんな賛同してくれた。


 早速、口角は上げることになり、天使の表情は決まった。


 そして、制作に参加する。


 私は目のパーツを作ることになった。


「咲笑ちゃんと、会長って意外と良いコンビだよね」


 と一緒に作業していた緑青の里香ちゃんが言った。


「そう、それ私も思ってた」


 と、透も言う。


「良いコンビって、お笑い?」


 と言うと二人は笑って「そういうことじゃないって」と笑った。


「咲笑は中井先輩のことどう思ってるの?」


 透がにやにやしながら聞いてくる。


「普通にハイスペックなイケメンで、乙女ゲームなら一番最初に攻略したいと思うタイプかな」


 隣にいる透から溜め息が聞こえてきた。

 なんだよ、その溜め息!!


「そういうことじゃなくてー」


 と、透が言うと、さらに後ろから違う声が聞こえてきた。


「恋愛感情として、好きか、好きじゃないか、ってことでしょ」


 きょーちゃんだ。

 

 きょーちゃんは、怪我後、罪悪感を感じてしまっているのか、よく色々なことを手伝ってくれて、大抵近くにいてくれる。

こんなに良い子なのに、あんな汚い感情を持ってた自分に腹が立つ。


「うーん。好きか、好きじゃないか、で言ったら好きだけど、恋愛感情として考えるとそれは違うかな?」


「えー!なんだー。つまんない」


 と、里香ちゃんが本当につまらなそうな声を上げた。


「本当ー。つまんなーい」


 と女の子口調で入って来たのは話題の人物、中井先輩だ。


「会長…。ずいぶんとタイミングが良いですけど、まさか盗み聞きとかしてないですよね?」


 里香ちゃんが呆れ顔で言う。


「もちろんしてないよ!でも聞こえて来たんだよ。なら、是非とも話に参加しなきゃって思って来たんだよー」


 と言いながら、中井先輩は私の隣に座った。

 私は先輩が座れるようにスペースをあける。 


「それで、さっきの話、俺的には咲笑ちゃんが良いならこれからもっと仲良くなっていくっていうのもありだと思うけど?」


 と、私の方を向きながら言った中井先輩。

いつの間に、中井先輩は私の名前をそう呼ぶようになっていた。


 ていうか、チャラすぎ。


 でも、すぐに分かった。

中井先輩は本気でそんなこと思ってないって。


 だって、さっきから私の方を見てるように見せておいて、目は私を通り過ぎていっている。

多分位置的に、里香ちゃんだろう。


 中井先輩は、里香ちゃんが好きで、私を使ってやきもちを焼かせたいのかっと、すぐに分かった。



「いいじゃん!咲笑ちゃん!彼氏いないなら、会長はかなりの優良物件だよ!」


 後ろから里香ちゃんの声が聞こえてきた。

思わず、中井先輩をばっちり見てしまう。


 中井先輩は苦笑していた。


 お気の毒にと思いながら、中井先輩にむけて、「がんばれ」とくちぱくすると、


「咲笑ちゃんって意外と…」

 とまた苦笑しながら言った。


 数時間かで、パーツができ、それを天使の顔に配置する。



 出来た瞬間、みんなで拍手した。


 みんな口々に「お疲れ!」と言い合っている。


 リボンについては文化祭実行委員と、運営の深森学園の生徒会にお願いし、入場時にパンフレットと一緒に配布してもらうことになった。

 パンフレットには、大切なひとと、リボンを結び合わせて天使にかけるということを少し誇張して、ロマンティックに書いた紙を挟んでもらうことになった。

 


 やっと、終わったー。

でも、少しだけ寂しい気がする。


 そんな気持ちで天使を眺めていると、きょーちゃんが隣に来て、小さな声で「ありがとう」と言った。


「少しの間だったけど、咲笑がいなかったらすごくつまらなかったと思う。でも、咲笑が声をかけてくれたから、すごく楽しかった。ありがとう、咲笑」


 きょーちゃんのその言葉に泣きそうになった。

人から感謝されること、「ありがとう」と言われること、普段から当たり前にあることだけど、今すごく大きくて、大切なことだと実感した。


「私の方こそ、ありがとう」


 なんとか涙をこらえてそういった。



 それから少しだけ時間があいたので、お疲れ会としょうしみんなでおしゃべりをした。


「中井先輩って、お姉さんと妹さんがいるんですかー」

 

 と、今は中井先輩の家族について話している最中だ。

 なんでも、天使の像の案は小さい頃、私達の学校の卒業生であった中井先輩のお姉さんの文化祭に行った時に見た天使の像を自分も作りたくて提案したんだそうだ。


「咲笑といて良いコンビに見えたってことはお兄ちゃん気質なのかな、とは思ってましたけど」


 透がそう言うと、緑青の愛美ちゃんが、


「ってことは咲笑ちゃんはお兄さんいるの?」


 と聞いてきた。


「うん。いっぱいいるよね」


 何故か透が答える。


「いっぱいなんていないよ!一人だよ!」


 透の言葉を訂正する。


「じゃあ、なんでいっぱい?」


 と、愛美ちゃんが不思議そうに聞いてきた。


「咲笑のお兄さんのお友達まで咲笑のことを可愛いがってるから」


 でしょ?っと、今度はきょーちゃんがそう答えた。

 間違ったことはないけどさ、ちょっと待ってよ。

 なんで、私に答えさせてくれないの!?


「なんで、あなたが知ってるの?」


 あれ、心なしか透の声が低く聞こえる。


「咲笑が教えてくれた」


 何この空気…。

 

「そういえば、透ときょーちゃんは一人っ子だよっ!?」


 ね?と言う前にこの空気をなんとかしようと、開いた口が後ろから塞がれた。

 キャーと中井先輩が女子っぽい声を出して、私は振り返る。


「相良先輩!?」


 透が驚いた声をあげて、相良先輩は私の口から手をどけた。

 

「ごめん、思わず…」


 と、相良先輩は小さい声で私に謝ってから、中井先輩の隣に座った。

 なんで、私の口塞いだんだろう?


 それから、相良先輩を交えて、みんなで色んな話をした。

 

 お開きの時間が近付いて来て、緑青のみんなと、文化祭に来てもらう約束をした。

 そして、みんなと連絡先を交換した。

 

 少し…、いや、かなり寂しく思いながら下校時間になりみんなと別れた。


 校門に着き、まだ兄の車がなかったので兄に電話をかけた。


「もしもし、兄?」

「おう!お兄ちゃんだよー」


  

 兄の声以外に周りの音が聞こえてこない。

 兄の車の中はいつも何かしらの音楽が流れているのに。

 


「いつ着くの?もしかして、まだ家出てないの?」


 周りの音から推測して言うと、兄は


「あっ!忘れてたわ。今日は久しぶりに仕事しててさー。今から行く」


 「ごめんごめん」と軽い口調で言った。

 

「分かったー。ついたら、電話して」

「おう!ごめんな!超特急で行くから」


 と、言って電話を切った。


 昇降口付近のベンチに座って兄を待っていると、きょーちゃんがセミナールームの方から歩いて来た。

 みんなで一緒に校門あたりまで来たから多分セミナールームに忘れ物でもしたのだろう。


「何忘れたのー?」


 きょーちゃんは私の存在に気付いていなかったのか、驚いたように身体を揺らした。


「なんだ、咲笑か。忘れ物前提なの!?」


 と、笑った。

 初めて話した時より、きょーちゃんは笑うようになった気がする。


「忘れ物じゃないの?」

「いや、忘れ物だけど、そういう咲笑は?」


 きょーちゃんは「忘れて返らなくてよかったー」とスマホを見せた。

 連絡先交換の時どこかに置いてしまったのだろう。


「私は兄のお迎え待ち」

「そっか。一緒に待とうか?」


 と、言いながらもきょーちゃんは私の隣に座って完全に一緒に待ってくれるような態勢だけど。


「いいよ、ここ寒いしさ。それにもうすぐ着くらしいし」


 と、私はきょーちゃんに鞄を持たせ、肩を押した。


「もうすぐならいいじゃん」


 と、私の押した手に寄りかかるように言う。

 

「足痛いよね…?」


 きょーちゃんは凄く小さな声でそう言った。

 きょーちゃんはまだ私に罪悪感を感じてるのかな?


「もう痛くないよ」


 私がそう答えても、きょーちゃんの表情は暗い。


「でも、不便だし、せっかくの文化祭なのに…」


「ばか!」


 きょーちゃんが申し訳なそうにそんなことを言うので少しだけ大きな声でそう言った。


「きょーちゃんのせいじゃないでしょ!事故だよ!事故!それに私の運動神経と、運の悪さが重なってこうなっただけなんだから、きょーちゃんは気にしなくていいの!それに、登下校少しだけ楽できてるからラッキーなの!」


 息継ぎをしないで私が言うと、きょーちゃんはポカーンとした顔をしてから、


「うん、ありがとう」


 と言った。

 ありがとう、は違う気がするけど、訂正するのも面倒くさいのでやめた。


 それから本当にすぐ、兄はわざわざ車を降りて昇降口まで来た。


「咲笑!ごめんな。どんくらい待った?」


 兄は顔の前で手を合わせながらそう言った。


「そんなに待ってないよ」


 と言って、兄の手を借りて立ち上がる。


「こんにちは」


 と、きょーちゃんが兄に挨拶をして、


「こんにちは」


 と兄も返していた。


「友達のきょーちゃん!合同準備で仲良くなった子!」


 私が言うと、兄も頷いて、


「あー、この前言ってた子か。きょーちゃん?でいいのかな?まぁいいや、ついでだし、駅まで送っていくか!」


 と、兄は私の手を掴み(ほぼ支えられてる)、私は戸惑うきょーちゃんの手を掴み歩きだした。


 兄の車は守衛さんを通り、学校の駐車場に入れてもらってあった。


 大輝にぃの車は外車で形も車内も格好いいが、兄の車は国産車で、割とファミリー向けだ。

 今の私の状態でいうと、兄の車の方が広々で楽だ。


 車の中で兄が楽しげに私の幼い頃の暴露話をし始めてかなり恥ずかしかった。


 透がいたらきっと小さい声で「ご愁傷様」っと言っていたことだろう。


 きょーちゃんはつまらない話も嫌な顔しないで聞いていた。

 良い子だなー。


 駅に着く頃には、きょーちゃんは最初の頃のような緊張はなくなっていた。


「バイバイー、きょーちゃん」


 と、私は手を振った。


「じゃね!咲笑」


 「ありがとうございました」と、きょーちゃんは兄にお礼を言い降りて言った。

 そんなきょーちゃんに兄も、


「おう!またなーきょーちゃん」

 

 と、兄もきょーちゃんに手を振った。


 帰り際に見えたきょーちゃんの顔が寂しげに見えたのは気のせいかな?




 帰りに、兄が良いメロディーを思いついたと、歌い出し、早くギターを持ちたいからと、兄はすごいスピードで家に帰った。


 お陰で酔った。


 でも、食後に兄がそのメロディーをこの前みんなで話したオムライスの歌にしよう!と言い出し、今度はみんなで作詞タイムになった。

 

 その夜は凄く楽しくて、この曲を歌うのが楽しみになった。



 そして、きょーちゃんから初メールが届いた。


「今日はありがとう。素敵なお兄さんだね。羨ましいなー」


 と。


「こちらこそ、ありがとう。うん、自慢の兄だよ」


 と、謙遜もせずに送ってみた。

 多分このメールを見た、兄は泣くだろう。

 見せる気なんて無いけどね。


 それからもう一通メールが着ていた。


 相良先輩からだ。


「短い間だったが、ありがとう。」


 と。

 律儀な人だ。


「こちらこそありがとうございました。怪我した後は色々お世話になりました」


 そう返信して、スマホを置いた。


 お風呂に入っている間に二人から返信が着ていて、相良先輩から どういたしまして の後に可愛い猫ちゃんの絵文字があり少し笑ってしまった。


 あの無表情でこの絵文字を打っているのかな…?

 だめだ、面白い。


 一人で爆笑していたら、大輝にぃに心配された。


「疲れてるんだよね。うんうん、もう寝なさい」


 って。


 でも、この相良先輩の猫ちゃん絵文字の面白さを説明するのは難しいのでやめといた。


 明日から文化祭の合同準備ではなく、クラスの準備のラストスパート!


 がんばるぞー!

 リボンについての話が抜けていたため、修正いたしました。


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