37 部屋に入ってからの話
咲笑視点にもどります。
私は自分の部屋に入るのと同時に、
「大輝にぃ、ごめんね」
と、謝った。
「どうした?」
と、大輝にぃは心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
私は大輝にぃに甘え過ぎだと思う。
だって、私、りーくんから逃げるために大輝にぃを呼んだんだもん。
「私、大輝にぃがいないとなんにも出来なくなっちゃいそう」
「出来なくなっちゃえばいいよ」
大輝にぃ、今すごいこと言ったよね?
「え?何言ってるの?大輝にぃ?」
「だから、咲笑は何にも出来なくていいよ。そしたら、咲笑は俺がいないと何も出来ないでしょ?」
大輝にぃはとても素敵な笑顔で言っているが言っていることは全然素敵じゃない。
私は少し怒った顔で
「そんなのやだよ。大輝にぃにしてもらった分はちゃんと返したい。してもらうだけなのは嫌だ」
と、言う。
「分かったから、そんな顔しないで」
と、大輝にぃは私の頭を撫でる。
「じゃあさ、抱きしめていい?そしたら、今、涼から助けてあげた分はチャラね」
すごいな、大輝にぃは。
分かってたんだね。
動けなくなったからじゃなくて、りーくんから逃げたこと。
あのまま、りーくんといたくなかったんだ。
りーくんからきょーちゃんの名前聞きたくなかったんだ。
きょーちゃんのことより、私のこと心配して欲しかったんだ。
わがままだよ。
全部私のわがまま。
そんなわがままを知られたくなかったから逃げたの。
私は大輝にぃに思い切り抱き付く。
優しく、抱きしめてくれる、大輝にぃ。
「ありがとう、大輝にぃ」
と、私が言うと、大輝にぃがおでこにキスをした。
「可愛い妹のためですから」
と、大輝にぃは笑いながら言う。
その言葉に安心して私は大輝にぃに抱き付く手を強めた。
「あー、それはやばい。可愛いすぎ。愛してるよ、咲笑」
大輝にぃの雰囲気がさっきと変わった。
「私も好き、だけど…」
そろそろ離して、と言う前に大輝にぃの膝に座らせられてしまう。
「もっと言って」
と、笑顔の大輝にぃ。
やだ、なんか怖い。
逃げたい、なんか知らないけど逃げなきゃいけない気がする。
いや、一人じゃ動けないけどさ。
「好きだから、ちょっと離して」
「やだ。そういえば、昨日DVD借りて来て部屋にあるんだ、一緒にみよ」
と、大輝にぃは言って立ち上がった。
どうやって逃げようかと考えていると、
「この前咲笑が観たいって言ってた 「365°愛」 の2巻のDVDなんだけど、観たいよね?」
と、大輝にぃが言った。
「365°愛」とは、正式タイトル「365°回ってそれは愛ではない」というラブストーリーだ。
1巻を観てからハマってしまい、2巻を観たいと思いながら、観れずにいたのだ。
観れるというなら観ないという選択肢はない。
「観たい!早く持って来てーー!大輝にぃ!」
私はさっき思っていたことなんて忘れて大輝にぃを急かすように言う。
「はいはい」
と言いながら大輝にぃは私の部屋を出た。
「ばかわいい、か…」
と、咲笑の部屋の前でつぶやいていた大輝を紀之はばっちりと目撃していた。




