33 相談してみましたって話
その後のことを私は覚えていない。
透によると、杉谷先生が運んでくれたらしい。
「流石だったわ。やっぱり杉谷先生はかっこいいよね」
と、透は言った。
今私がいるのは、保健室。
透が付き添いでいてくれている。
隣のベッドは空だ。
きょーちゃんがいない。
どこにいるんだろう。
……りーくんと一緒にいるのかな?
なんだか、凄く心臓がムズムズする。
感情のコントロールがうまくいかない。
なんだか、泣きたくなってきた。
あー、弱いな、私。
涙がこぼれそうになって、私は、布団に潜り込んだ。
「咲笑大丈夫?」
と、透の心配そうな声が聞こえて来た。
「うん、大丈夫。少し寝るから、透、合同準備戻っていいよ」
と、私は顔を毛布で隠しながら言う。
本当はもうすでに泣いていた。
だから、早く1人になりたかった。
透は私が何故泣いているのか分からないのだろう。
「う…ん」
と、少し戸惑ったような返事が聞こえてきた。
それからドアが開く音がして、透が出て行ったのが分かった。
しかし、それと同時に誰かが入ってきた。
「あっ、杉谷先生」
透の声。
入ってきたのは杉谷先生のようだ。
先生の靴音が近付いてくる。
カラッと音を立てて、さっき透が座っていた椅子に杉谷先生が座った。
「気分はどうだ?どこか痛い所はないか?」
いつも以上に優しい声。
そろそろ毛布のなかにいるのが苦しくなった私は、先生に背を向けて顔を出した。
気分は良くはないし、どこか痛い所といえば、確かに階段から落ちてから腰と、足首が痛い。
落ちたときにぶつけたか、捻ったのかもしれない。
「腰と、足首が少し痛いかもしれないです」
答えようと声を出したら自分が思っている以上に涙声になってしまった。
「泣いているのか?」
先生の心配そうな声が聞こえてきた。
どう答えていいのか分からない。
しばらくの間沈黙が流れる。
杉谷先生が立ち上がった気配がした。
何かを持ってくると、私の寝ているベッドの横においた。
「手当てするから、毛布退けるな」
と言って私が返事をする前に毛布を退けた。
私は、杉谷先生に背中を向けているので、顔は見られていない。
でも杉谷先生は言った。
「こっちむいて」っと。
嫌だ。
嫌だけど、「嫌だ」とは言えなかった。
私の顔は相当酷いことになっているのだろう。
杉谷先生の大きな手が無造作に私の目元をこする。
それから、今度は丁寧に、私の足に触れた。
思ったより強い痛みを感じる。
私の顔を見た杉谷先生は、
「骨折れてるかもな」
と、言った。
骨を折ったことがない私は、少しだけ怖いと思った。
「腰はどうだ?起き上がれるか?」
と、杉谷先生に聞かれ、足の痛みをこらえながら、起き上がる。
腰はそんなにでもなかった。
「大丈夫です」
と、答えると、
「良かった」
と、杉谷先生は笑った。
「とは言っても、足は大丈夫じゃなさそうだから、病院行くぞ」
と、言って保健室にある車椅子を開いた。
そして、杉谷先生は私を抱き上げ、そこに座らせた。
確かに楽々と持ち上げる。
すごいな、と思っていたら、
「なんだ?」
と、聞かれてしまった。
笑いながら誤魔化して、「なんでもないです」と言う。
職員室に行き、私の早退届を、出してから、杉谷先生の車に初めて乗った。
車の中は、とても綺麗にされていて、なんだか杉谷先生らしいと思った。
そういえば、何でさっき保健室に先生がいなかったのかな?
保健室には、2人先生がいる。
1人は中田先生という、イケメンの非常勤の先生。
もう1人は常勤の相川先生という女の優しいおばさん先生。
中田先生は今日お休みだが、相川先生はいるはずなのに。
「杉谷先生、相川先生は?」
「相川先生は仲辺先生と、保健室とは別の部屋で、緑青高校の浪川さんの方に付き添ってるよ」
と、りーくんがきょーちゃんに付き添っていると聞いて、気持ちが沈んでいくのを感じる。
杉谷先生は、それから、エンジンをかけ、車が走り出した。
静かな車内で、私は杉谷先生に相談してみることにした。
「杉谷先生、相談してもいいですか?」
「うん?運転しながらで、いいなら、いいぞ」
と、杉谷先生は言った。
「自分の中で凄く嫌な気持ちが膨らんでいくんです。あの人がいなければって。思いたくないのに、思ってしまう」
杉谷先生は苦笑してから、
「そんなもの、人間なら誰だって持ってる感情だよ」
と、言った。
「先生でも?」
「もちろん、みんな、うまく隠しているだけ」
と、言った杉谷先生は無表情で、感情が読み取れなかった。
そして、杉谷先生はその無表情のまま言った。
「俺さ、教師になる前、婚約してた人がいたんだ」
と。
次回は杉谷先生の過去の話ですね!




