23 校外学習の話②
咲笑視点の話でちょっとだけシリアスです。
私は、中学生になってすぐ、兄とともに歌友のオーディションを受けた。
そこで、私はオーディションに受かり歌友会員の仲間入りをした。
そのときの名前が「れい」。
「れい」っていうのは自分でつけた。
「綺麗な声」で歌いたいから、「きれい」から「れい」。
私はその名前がお気に入りだった。
それから、1年は兄と一緒にライブに積極的に参加していた。
私の歌を聴きに来てくれる人も増えてきてて、とても嬉しくて、楽しかった。
でも、ちょうど歌友会員になって1年経ったある日のライブの帰りに、私は誘拐された。
その日はたまたま兄と一緒のライブじゃなくて、そんなに暗くなかったから、1人で家に帰っていた。
すると、知らないおじさんに声をかけられた。
「れいちゃんのファンなんです」って。
サインをくださいって言われて、でもそのおじさんは紙もペンも持ってなくて、どこに書けばいいですか?って聞いたら、そのおじさんは、バックから何か黒いものを出して、私の体にあてた。
痛みを感じた後のことは、覚えてなくて、今から考えると、あれはスタンガンだったのかなって思う。
次に目を覚ましたのは、おじさんの家だった。
おじさんは、目が覚めた私に、自分のことを「先生」と呼ぶように言った。
よく分からなかったけど、私は頷いた。
それから何日か私はその家に閉じ込められた。
「家に帰して!」と言うとおじさんは困ったよう「ごめんね」と笑うだけだったが、ご飯はちゃんとくれたし、お風呂にも入れた。
優しいおじさんだと思った。
だから、なんでこんなことをするのか分からなかった。
でも、優しい人なんかじゃなかった。
おじさんの家にはピアノと、練習室と呼ばれる防音室があって、目が覚めてから数日経つと歌の練習をさせられた。
音階のトレーニングから、音域の広さなどを調べられて課題曲を出されて毎日歌った。
おじさんはピアノがうまかった。
おじさんは優しかった。
歌以外のことに関しては…。
音程を外すと容赦なく叩かれ、何時間でも歌わされた。
「れいっていう名前通り、0(れい)の空っぽな歌声」
と言われた。
これが、結構ショックだった。
自分のファンだと行ってくれた人からのセリフ…。
頬は腫れて、声は枯れた。
声が枯れると、今までのことが嘘だったかのように優しくなって喉によいものを用意してくれた。
それならもういっそ喉なんて枯れてしまえばいいのに、と思ったがおじさんのせいか、すぐの喉の調子は戻った。
あんなに歌うことが楽しかったのに、おじさんといる間に大嫌いになってしまっていた。
とにかく苦しかった。
歌なんて、なくなってしまえばいいのに、と思った。
ある日の歌の練習中。
私は耐え切れなくなって、泣いてしまった。
すると、おじさんは歌の時以外のいつもの優しいおじさんに戻って私の方に寄ってきた。
何も言わず泣き続ける私に、おじさんはどうしていいのか分からず、初めて練習室の防音の窓を開けた。
窓を開けたっておじさんが近くにいるのだから、逃げられないが、そこから叫べば助けを呼べたかもしれない。
でも、その時の私は苦しくてそんな余裕がなかった。
その時、おじさんがピアノを弾き始めた。
いつものうまいだけのピアノじゃない。
なんだか、少し楽しそうだった。
それは、課題曲でもなんでもない。
小さい頃、兄と一緒によく歌った「猫踏んじゃった」だった。
おじさんが弾きだすと、私もつい歌ってしまう。
ここに来て初めて歌うことが楽しいと思った。
そして、窓から聞こえてきた私の歌声に不思議に思って、近所のひとが訪ねてきた。
近所のひとがおじさんと玄関でもめていた。
私はつい気になり玄関に、行くと近所のひとと目があった。
そして、その人は私を見ると目を大きく見開きおじさんを振り払って家の中に入ってきた。
私のこと突然抱きしめると、勢いよくおじさんの家から駆け出した。
そして、その人の家であろう場所に駆け込むと、電話機でどこかに電話をかけ始めた。
電話を終えたその人は、私に名前と住所を聞いてきた。
そして、冷凍庫から保冷剤を持って来てくれて、頬にあてた。
そういえば、頬は腫れていたなーと思いながらぼーとしているうちに家の中にたくさん警察が入って来た。
警察の人は、
「もう大丈夫だからね」
と言って、私を車に乗せた。
着いた先は交番で、そこには、両親と、兄と、りーくんと、大輝にぃがいた。
なんだか、とっても安心して訳が分からなくなるまで泣いた。
私が誘拐されて16日経っていた。
その後聞いた話だが、
誘拐されてから、家族は私の捜索願いを出していたらしい。
私を誘拐したおじさんは新田という人で、音楽教室をやっていたらしいが、人が来なくなり、教室が続けられなくなってしまったらしい。
それでも、優秀な人材を育てたくて、私に目をつけ、誘拐をして、歌のレッスンをしていたのだ。
私を助けてくれた近所のひとは、家族もいない新田さんの家から歌声が聞こえてくるのは珍しいと思い訪ねてみたところ、頬を真っ赤にした私が現れ、異常事態に気づき、私を保護してくれたようだ。
捕まった時、新田さんは泣いていたと、警察の人は言っていた。
なんでか、分からないけど、私はもう一度おじさんに会いたいと思った。
それからしばらくして、兄と一緒におじさんに会いに言った。
おじさんは、とても痩せていて、私を見た瞬間泣きだした。
「ごめんね」
と言いながら。
私は、そこで思った。
おじさんは優しい人なんかじゃなかった。
おじさんは、弱い人だったんだ、って。
おじさんは、一流のアーティストを育てたかったんだって。
私ならなれるっておじさんは言った。
いっぱい、叩いてごめんなさいって、君を閉じ込めてごめんなさいって、おじさんは言った。
いっぱい叩かれて痛かった。
いっぱい歌わされて、つらかった。
歌が嫌いになった。
でも、
でも、
最後に弾いた「猫踏んじゃった」があまりにも優しくて、今でも耳に残ってた。
「ちゃんと罪を償ったら、もう一回出会いからやり直したい。人生をリセットなんてできないけど、私はやり直したい」
私がそう言うと、おじさんはやっぱり泣いていた。
こんな出会い方じゃなかったら、良かったのに…思った。
「れい」と呼ばれるたびに過剰反応したり、サインを求められると、手が震えるようになったりという後遺症が残ったため、私は歌友での名前を変え、ライブ活動を、止めることにした。
家族や、大輝にぃ、りーくんは歌友事態を止めてもいいと言ったが、止めたくなかった。
この後遺症の話はおじさんにした。
だから、責任持って名前を付けろ、と。
最初はすごく拒んでいた。
自分のせいなのだから、自分にはそんな権利はない、と。
でも、最終的に、「のぞみ」という名前をくれた。
おじさんを恨む気持ちはあまり持てなかった。
その後、りーくんや、大輝にぃや、家族のおかげで少しずつ後遺症は減って言ったが、「れい」と呼ばれることだけはだめだった。
でも、私の声を聞けば「れい」だと分かる人には分かる。
だから歌友を止めるべきだったが、止めたくなかった。
ANさんの存在を知ったってこともあるけど、私は歌うことが好きだってことに気付いてしまったから。
これが、おじさんを恨めない一番の理由かもしれない。
しばらくして落ち着いてから、私は学校に戻った。
学校は勿論誘拐のことを知っているけど、クラスのみんなには、海外旅行に行っていたということにして…。
安田ありさちゃんに、誘拐の話を終えると驚いたように目を見開いた。
「ごめんなさい」
と言った。
「ううん。私こそごめんね、こんな話いきなりしちゃって」
安田ありさちゃんは大きく首を振った。
「違うよ。違う。私の知りたいって気持ちばっかりが前にでちゃったから…、咲笑ちゃんの気持ちも考えずに」
安田ありさちゃんは、私のことを咲笑と呼んだ。
人の気持ちを考えるいい子なのかもしれない。
「そうじゃなくて、こういうのって、話された方が困るじゃない?それに結構前の話だしね」
と、私は苦笑いを浮かべる。
「うーん。そうかな?私なら友達からの話なら聞きたいなー。大きなことならなおさらね」
安田ありさちゃんは考えながら言った。
まあ、私は無理やり聞いたみたいになっちゃったけど。
と付け足して。
私は首を横に振った。
それで、透のことを思い出す。
透に誘拐のことを話したことはない。
海外旅行にいったことにしてある。
でも話すべきなのかもしれない。
本当は話そうと思ってた。
でも、話したら、透の態度が変わってしまうんじゃないかって、怖くて、私は話せずにいた。
でも学校生活が楽しいのは間違いなく、透のおかげ。
学校に戻った時も、勉強面とかで、透にはすごくお世話になった。
話そう。全部。
歌友の話もしよう。
だいぶ遅くなったけど、ちゃんと、透に聞いて欲しいと思った。
なんだろう、私、悪者を悪者にしきれない笑
こんなところで、性格が出てしまった…(´д`)
なんか、悪者にもいろいろ理由が、あるんだろうなーって考えると(以下略)




