17 自覚するよって話
今回は大輝にぃ視点の話です。
陸の提案で俺達は歌友のライブハウスに来ていた。
ライブハウスの中は思いの外知り合いが多くて、つい話し込んでしまっていた。
そして、少し目を離したすきに、咲笑がいなくなっていた。
ノリは「ライブハウス内にはいるんだから、大丈夫だよ。それに、このライブハウスは歌友のだから、そんなに変なやつはいないだろ」と言っていたが、俺はナンパされてないかとか、気が気じゃなかった。
ライブが始まって、陸が歌っているのに、全然ステージの方に集中できず、咲笑を探そうにも、人が密集しているうえに、ライブハウス内は暗くて探すに探せなくて、俺が焦っているうちに、ライブはもう終わりに近づいていた。
最後のステージは、涼だった。
咲笑を探して、周りを見ていると嫌でも涼の歌を聞いて目がとろんとしている女が視界に入る。
それに最後の曲。
あれ、絶対、咲笑の歌だろ。
あんな歌い方されれば、咲笑だって気付いただろ。(咲笑は涼に言われるまで気付かなかった)
だってなー、あの、色気はアウトだろ。
涼の出番も終わり、やっと、ライブが一区切りがついて大分動きやすくなった。
早速咲笑を探そうとしたが、
「咲笑にメール入れといた。気づいたら返信来るだろ。とりあえず飲めや」
と、ノリがドリンクを渡してきた。
ノリそう言われたので仕方なくドリンクを受け取り、ライブハウスの後ろの方に下がる。
飲み物が喉を通って初めて自分の喉が渇いていたことに気付く。
ライブハウスで咲笑がいなくなってから、咲笑のことしか頭になかったことに気付いて自分のことを笑ってしまった。
「お前にとって咲笑ってなんだ?」
突然、ノリは言った。
「妹だ」
即答した。
そんな俺をノリは笑ったが、すぐに真面目な顔をして言った。
「じゃあ、もし、咲笑が彼氏を紹介してきたらどうする?」
「そりゃ、反対するに決まってる」
「その男がすごい良い男でもか?」
「あぁ」
と、俺が強くそう言うと、ノリは苦笑いを浮かべ言った。
「俺なら、反対しない。むしろ応援するよ。妹の幸せのためにな」
そのノリの言葉に頭が空っぽになった。
「矛盾。お前にとって咲笑は本当に妹か?」
ノリはそう言ってから黙ってしまった。
実の兄であるノリは、咲笑と他の誰かとの恋を応援すると言った。
俺は、咲笑が他の男との恋を応援できるのか?
答えは決まってる。
応援なんてできない。
なんで?
咲笑の幸せを願ってないわけがない。
咲笑に幸せになって欲しい。
でも、応援できない。
咲笑の隣にいる男に嫉妬してしまう。
この気持ちは何?
俺にとって咲笑は本当に妹か?
どこからか、
「アンコール」
という声があがり、それが波のように広がっていく。
どんどん声が大きくなり、出演者全員のアンコール合唱が始まったのだが、涼の姿がない。
不思議に思いながら、ステージを見ていると、後ろから誰かに抱きつかれた。
驚いて後ろを振り向いてみると、……そこには顔を真っ赤にしている咲笑がいた。
「大輝!ノリ!咲笑頼むな」
と、涼は言って人ごみをかき分けてステージに上がった。
出演者は驚いた顔をしたが、陸が涼にマイクを渡して歌い出したので、そのまま進んでいった。
俺は、鎖骨が軋むような感覚を感じていた。
咲笑が俺に抱きついた時、涼は咲笑の手を握っていたのだ。
咲笑の顔を真っ赤で、何かあったに決まってる。
嫌な予感しかしない。
咲笑はいまだに俺に抱きついたままだ。
「咲笑」
と、俺が呼んでも反応がない。
アンコールが終わり、陸と涼は打ち上げがあるので、3人で車に乗った。
俺が助手席に乗ろうとすると、ノリが「咲笑が寝そうだから後ろに乗って枕になってやれ」と言ったので、咲笑と一緒に後部座席に座る。
案の定、咲笑は俺の肩に頭を預け寝始めてしまった。
寝顔が幼い。
可愛い。
でも、さっき涼と手を繋いでいたのは気に入らない。
咲笑の手を繋いでみる。
出会った頃はもっと小さかった。
「りーくんのばか」
と、咲笑は寝言を言った。
面白くない。
咲笑と手を繋いでいた涼も、これから咲笑が恋をしたり、恋人になったりする男も、気に入らない。
…嫉妬。
「お前にとって咲笑ってなんだ?」
さっき即答した質問を訂正する。
「好きな女…」
車で熟睡した咲笑は、家に着いても起きず俺が、子供だっこして、部屋まで運んだ。
それに対してノリが、
「やっぱり、まだ子供扱いか…」
と言ったので、
「違う」
と言った。
すると、ノリは心底嬉しそうに笑うと、
「そうか。頑張れよ」
と言った。
その後、「大輝が、兄を卒業した日記念」とかなんとか言って、ビールを出した。
ここに来てから、飲むのは久しぶりで、結構なペースで飲んでしまった。
酔っ払ったノリが、
「なぁー大輝ごめん」
といきなり謝ってきた。
「なにが?」
「いやーさー。ライブハウスで言った、もし咲笑に彼氏ができたらって話の時さ、」
「あー、うん」
「俺、咲笑に彼氏できても反対しないって言ったじゃん?」
「おう」
その時、頭が空っぽになったのを思い出す。
「あれ、若干嘘だ」
「は?」
思わず変な声が出てしまう。
「俺、咲笑に彼氏できたら反対するかも。やけ酒もするかも」
「なんだよ、それ」
思わず笑ってしまう。
「やっぱり、悔しいじゃねーか、妹とられるの!寂しいじゃねーか」
と、ノリはビールを思いっきり喉に流し込んで言った。
「でもさ、やっぱり、咲笑には幸せになって欲しいって思うんだよな」
と、また言ってノリは机に突っ伏した。
「俺も、だよ。てか、さっきの嫉妬ってやっぱり、兄としても気持ちも混ざってたよな」
と、俺は、呟いてみる。
でも兄としての気持ちもあったにはあったが、やっぱり、咲笑のことを女として好きだ。
俺にとって咲笑は本当に妹か?
答えは否だ。




