12 お家大好きーって話
私と、大輝にぃはとりあえず座ることにした。
てか、重いよ。
私は大輝にぃに後ろから抱きしめられているというより、捕まっている状態だ。
大輝にぃも兄ほどではないが筋肉があるので結構痛い。
とにかく、解放してほしくて、大輝にぃに声をかけた。
「大輝にぃ」
手をなかなか緩めてくれないので、無理やり手を引き剥がそうとすると、大輝にぃは更に力を加えてくる。
うっ、苦し…い。
「痛い、痛い。分かったから、緩めて」
と、私が言うと力はすぐに弱まった。
それより!兄!!お前はどこに行ってるんだ。
さっきから姿を見かけないし、靴もなかった。
私1人でこの大輝にぃは手に負えないよ。
りーくんでもいいから帰ってきてー。
…
……
………
…………
沈黙。
その間も、私は大輝にぃに後ろから抱きしめられたまま。
「大輝にぃ。今日、何かあったの?」
沈黙がやだったので、とりあえず聞いてみる事にした。
「うん…」
大輝にぃは小さく答えた。
「どうしたの?」
「うん…」としか大輝にぃが答えないので、私は更に聞く。
これでは、大輝にぃというより、大輝おとうとではないか。
なんか違和感。
「今日、仕事で嫌なお客さんに絡まれた」
大輝にぃはぼそっと言った。
うんー、いるよね、どこにでも嫌なお客さんっていうのは。
大輝にぃの話を聞いてみると、そのお客さんはこの前の診察の時、助手の女の人をナンパしていて、それを助けた大輝にぃに、ねちねちと嫌みを言ってきたらしい。
やれ「仕事が遅い」だの、「仕事が雑」だの、それでイライラしていて、家に帰ってイライラを発散しようにも、誰もまだ帰っていなくて、一番最初に帰ってきた私が、大輝にぃのイライラの発散場所になってしまったようだ。
だから、さっきの大輝にぃの目は、「慰めろ」ではなく「発散させろ」だったようだ。
あんなに力強く締め付けられたのも、イライラを発散させてたせいだろう。
「はあー、咲笑に話したら少しスッキリしたわ。ありがとうな」
と、大輝にぃは私から離れてぐいっと伸びをすると笑顔で言った。
まあ、いいっか。
大輝にぃがスッキリしたなら。
「で、咲笑。咲笑は学校どうだったの?」
切り替えの早い大輝にぃ。
「まあまあ、楽しいかな。疲れたけど」
「そうか。何かあったら言えよ」
と、大輝にぃは私の頭を撫でた。
大輝にぃの頭なでなでは気持ちいい。
何かあったらね…先生達がイケメン過ぎて困るしか今の所思いつかないので、何も言わないことにする。
ーガチャ
いきなりリビングのドアが開かれる。
「「ただいま」」
と兄と、りーくんが入ってくる。
大輝にぃと話してたからか、玄関のドアが開く音に気づかなかった。
「「おかえり」」
と、私と大輝にぃも言う。
「てか、兄はどこ行ってたの?」
ちなみに、私は、兄のことを2人きりのときは「おにい」と呼んでいる。
昔、おにいちゃんというのをうまく発音できなくて、おにいになり、今もそのままだ。
しかし、ここではりーくんも、大輝にぃもいるので恥ずかしいから、兄のことを「兄」と呼ぶことにしている。
まんまだけど。
「兄」って呼ぶと兄は、微妙な顔をするけど。
まあ、実際この2人は私が「おにい」と呼んでるのを知ってるんだけど、やっぱり恥ずかしいからね。
私の言葉に対し兄は手に持っていた袋を見せながら言った。
「買い物に行ってたんだよ。でな、駅で知り合いに会って立ち話してたら結構時間経っちまってな」
兄らしいな。
「そっか。夜ご飯なにー?」
袋の中を見ると、鶏肉と卵があったので期待しながら聞く。
兄は、ニヤニヤしているので間違いない。
「オムライスだ」
「いえーい!オムライス!オムライス!
みんな大好き、オムライス!」
心の中で歌ったつもりが声に出てしまった。
大輝にぃと、りーくんは爆笑して、兄は私と一緒に歌う出す。
私はオムライスが大好きです!
晩御飯がオムライスの時の私はいつもこんな感じなので、兄は慣れてるが、りーくんと大輝にぃには始めて知られることだった。
だって、この3人、私が兄の家に行くと大体鍋しながら、お酒飲んでるんだもん。
オムライスの話なんて出なかったんだもん!
兄は、オムライスの歌を歌い終えると、オムライスを作り始めた。
大輝にぃと、りーくんは朝いってたいた通り、歌友の動画投稿の録音を始めた。
もう、イライラは収まったようだ。
歌友の中でも、大輝にぃと、りーくんと、兄の3人は仲良しと有名で、兄の曲を2人で歌って動画を投稿するということは、よくある。
今回も、そのパターンだ。
私は、歌友での友達が少ないので、一緒に歌うのは大輝にぃと、りーくんくらいだ。
何人かは、いるが少ないのは確かだ。
今までは、大輝にぃとも、りーくんとも、毎日会える訳ではなかったので、1人で歌った動画が多い。
兄の曲を歌うことが多い。
2人は防音室で録音していたので、声は聞こえなかったが、なんだかとても楽しそうだったので、2人の歌声が聴きたくなった。
でも、今防音室のドアを開けたら邪魔になりそうなので、兄の手伝いをすることにした。
オムライスが出来上がったくらいで、大輝にぃと、りーくんの録音は終わった。
これから編集とか色々あるが。
それから、みんなでリビングの真ん中にある大きなテーブルに座った。
みんなで手を合わせ、
「いただきます」
と言い、オムライスを食べ始める。
「咲笑が、2人の楽しそうに歌ってる姿を見て、羨ましそうにしてたぜ」
と兄が余計なことを言ったので、殴っといた。
確かに楽しそうだと思ったけど、羨ましいんじゃない!
歌声が聴きたかっただけ!
「そうか、そうか。次は、一緒に歌おうな」
と、大輝にぃ。
「そうなの?じゃあ次は、ノリの歌を4人で歌おうぜ」
と、りーくんが言った。
4人って。兄も込みですか。
「俺もか!いいなそれ!おもしれぇー。なら、新しい曲作るから、それをみんなで歌おうぜ!」
と兄はノリノリで言った。
「うん!羨ましかった訳じゃないけど、それ面白そう」
と、私も言う。
ちょっと楽しみになってきた。
ちなみに、兄はギターもうまいけど、歌もうまい。
でも、本人いわく歌うより、ギターを弾く方が好きなのだそうだ。
曲も作る。
オムライスを食べながら、新しい曲は「オムライスの女神様」にしようと、兄が言い、それを面白がって歌詞を考え始めた大輝にぃと、りーくんにより歌の歌詞の2/3くらいは出来上がった。
そして、オムライスを食べ終わるくらいに、兄が思い出したように言った。
「そういやー、今日会った知り合いにさ、下宿始めたから、一緒に住まねー?って誘ってみたんだよ」
兄の話は突然だった。
部屋がまだ余ってるので、誰かまた来るのかな?とは思っていたが…。
「それで、妹と、友達2人と住んでるって言ったら、「妹、俺が住んでも大丈夫なの?」って、言ってきて」
兄はそう言って私を見た。
つまり、兄の知り合いは私に気を使ってくれたみたいだ。
それで、兄は私に意見を求めているのか。
「咲笑、これから聞くことに、嘘はなしな。この家は嫌いか?新しい住人が来るのは嫌か?」
久しぶりに、兄の真面目な声を聞いた気がする。
「まさか!私、この家大好きだもん。新しい住人が来るのは、どんな人が来るのか分かんないから何とも言えないけど、別に嫌じゃないよ」
「そうか、良かった」
と兄はそう言ってから、私の前髪をくしゃくしゃにした。
「この家が好き?」
私がさっき言ったことを聞き返すように、りーくんは言った。
「うん。好き」
「このオレンジのソファー好き?」
「うん。好き」
「じゃあ、俺のこと、好き?」
「うん。好き」
流された。
でも、うん。
りーくんも、大輝にぃも、兄も、この家も、みんな好き。
「涼!」
後ろから大輝にぃのちょっと大きい声が聞こえてきた。
「なに?大輝?」
「なに?じゃなねぇーよ。咲笑になに言わせてるんだよ!」
「言わせたんじゃないよ。ミミが自分から言ったんだよ」
「言わせたんだろ!」
大輝にぃは若干イライラしてきているようだ。
そんな、大輝にぃの目が私の方に向かう。
「咲笑。俺のこと好き?」
唐突に大輝にぃは言う。
「うん。好き」
私がそういうと、大輝にぃはにこっと笑った。
「そう。俺も」
大輝にぃは笑顔のまま。
私もつい、笑顔になる。
「咲笑、俺は?」
兄は便乗するように言った。
「うーん。微妙」
兄はあからさまに落ち込んだが、
「ツンデレか…」
とつぶやいて、立ち直った。
微妙なんて言ったけど、本当は兄も大好き。
私は、この場所が大好き。
まだ、ここに来て日が浅いけど、ここが私の居場所な気がする。
この家が嫌いなはずがない。
りーくんも、大輝にぃも、兄も、みんな私の大事な家族だ。
この家に新しい家族が増えるのかなと思うと少しドキドキしてきた。
「今度の日曜日、遊びに来るってよ」
と、さっき兄が言ってた。
日曜日が待ち遠しくなってきた。
早く日曜日にならないかなー?




