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10 ハムスター飼いたいって話

化学の楠木志紀先生視点の09話です。


 俺は目の前にある物達をみて、ため息をついた。

この実験道具を1人で片付けるのか、と…。

まあ、仕方ないと分かっていても、大変なものは大変だ。

さっきまで生徒がたくさん残っていたので、誰かしらには、片付けの手伝いを頼めると思っていたが、時間になったようで一斉に生徒は教室に帰って行ってしまった。

はぁ、気が重い。

もう一度ため息をつく。


「先生」


 ドア付近から声が聞こえてきた。

誰もいないと思って油断していたので、つい驚いてしまう。

ドア付近には女生徒がいた。

女生徒は、髪を耳のあたりで2つに結んでいて、とても可愛らしい顔立ちだ。

守ってあげたくなるような、というのが、しっくりくるかもしれない。


「片付け、手伝いましょうか?」


 と、その女生徒は言った。

その申し出は俺にとって、とても嬉しいものだったが、時間を確認すると、もうホームルームの時間だったし、初日に女生徒と2人というのは、抵抗があったので、


「もうホームルーム始まるでしょ?」


 と言って断ることにした。

あー、勿体ないことをしてる!

この量を1人で片付けるのか…。

やるしかないか…と、諦めて道具に手をかけようとしたところで、


「放課後、来ますよ」


 とその女生徒は言った。

さて、どうしようか。

今まで、女性関係のトラブルにはとても苦労させられたものだ。

この女生徒には多分下心があるのだろう。

自分の顔が女の好きな顔だということに、多少自覚がある。

だから、俺に特別扱いされたいとか、そんなとこだろう。

女生徒は俺の方を見ている。

返事を待っているようだ。

あー、もう断るのも面倒だ。

仕方ないので、その申し出をうけることにした。


「そう。助かるよ」


 と、俺は女生徒に笑顔で言う。

すると女生徒も笑顔になり、


「じゃあ、また放課後に」


 と言った。

やっぱり、女はチョロいな、と思った。





 女生徒が化学室をでてから、明日の授業の予習をして女生徒を待っていたが、ホームルーム終了時間になっても女生徒は来ない。

片付けが面倒くさくなって、帰ってしまったのかもしれない。

とりあえず、先に片付けを始めることにした。

俺がビーカーを洗い始めてしばらくすると、


「すいません、先生。遅くなりました」


 と女生徒が入ってきた。

少し息が上がっている。


「大丈夫ですよ、」


と、その言葉の後に女生徒の名前を呼ぼうとしただが、女生徒の名前を知らないことに気づきそこで言葉が止まってしまう。

すると、女生徒は、


「1年2組の坂田ですよ」


 と、自分から名乗ってくれた。

その後、女生徒ー坂田、とビーカーを洗った。


 彼女の仕事はとても丁寧で、慣れているようだった。

なので、思ったより早く片付けが進んでいく。

坂田を見ていて気付いたこと、彼女には、俺が思っていたような下心は持っていないようだ。

片付けをしている最中も、必要以上に話しかけてこない。

なんとなく、距離がとられてるし、名前も名字しか名乗らなかった。

そして、坂田は片付けもしっかり手伝ってくれたからだ。

そういう下心があるやつは、元々の頼みなどは疎かになりがちだ。


 俺が薬品の処理をしている間にも彼女は行動していた。


「先生!ビーカー準備室に運んでいいですか?」


 と、坂田に聞かれた時は少し驚いた。

準備室に置くこともできるのかと、気付かされたからだ。




 片付け終了後、準備室で休憩していると、化学室のものの少なさを指摘された。

目ざとい生徒だ。

ビーカーの件も、準備室のものの少なさについても、化学室の使い方の説明が適当すぎて、使い方に困っていたからだ。

そして、俺は教師1年目で、教師生活でも分からないことだらけだ。

目ざとい彼女は、それに気づいたようで、


「あの、先生、ビーカーなどは危険な薬品が入っていない限り生徒達に、使ったものを自分達で洗ってもらうのはどうでしょう?」


 と言った。

今までの教師がやってきたことを言っているのだろう。

確かに…と、俺は納得した。

これらのことから、坂田という女生徒は「良くできた生徒」だった。


 片付け終了後に、坂田にお礼の意味を込めてコーヒーを買って行った。

コーヒーはわざとブラックにした。

少しのイタズラ心だ。

それに、どんな反応をするのか見てみたい気持ちもあった。

女子高生で、好んでコーヒーを飲む人は少ないだろう。

しかし、彼女の反応は普通だった。

何か言う訳でもなく、顔をしかめる訳でもない。

最初は、ブラックコーヒーを嫌いじゃなかったんだな、と思ったが、なかなか飲み終わらない彼女を見て、やっぱり苦手なんだ、と心の中で微笑んだ。


「コーヒー、苦手なんですか?」


 わざと聞いてみた。


「ええ、まあちょっと」


 と彼女は曖昧に答えた。

その反応に俺は満足だが、俺は落ち込んだ演技をする。

お礼のつもりがイタズラになってしまったので、何かお礼の代わりになるもの…と考えてから弁当を2つ作ってきたことを思い出した。

今日は、和食も洋食も両方食べたい気分だったので2つ作ったのだ。

もう、昼過ぎなので、お腹がすいているだろうし、ちょうどいいだろうと思い弁当を彼女の前に持っていく。


「お腹すいてませんか?どうです?」


 と、俺は弁当の蓋を開ける。

中はサンドイッチだ。

彼女の目が輝いている。

俺はそのサンドイッチを1つ、つまんで彼女の前に出す。

相当お腹がすいていただろう彼女は、俺が持っていたサンドイッチにそのまま食いついた。

それから、彼女はハッとしたように顔を下に向けてしまった。


 びっくりした。

彼女の行動には驚かされてばかりだが、これが今回一番驚かされた。

なんだか可愛い。

ハムスターをいじめてる時と、同じ感覚だ。

つい、笑顔になってしまう。

そして、1口かじられたサンドイッチをもう一度彼女の前に持っていく。

結局彼女は、そのサンドイッチを1つ、全て俺の手から食べた。

もう1つ勧めると、


「先生の分がなくなっちゃうんじゃ?」


 と言って遠慮していたので、弁当を、2つ持っていることを伝えると、


「そんなの嘘…」


 と彼女が言うので、もう1つのほうの弁当を見せた。

それからまた、彼女の前にサンドイッチを出す。

今度は手でサンドイッチを受け取ろうとしたので、サンドイッチを掴む手の力を強める。


「先生?」


 と彼女は言ったが、


「はい?」


 とだけ返すと、諦めたようで、俺の手からサンドイッチを食べ始めた。

あー、すごい似てる。

ハムスターに。

可愛い、このむしゃむしゃ感!

ハムスター飼いたくなってきた。

それから全てのサンドイッチを食べ終えると彼女は、


「先生、ご馳走様でした!おいしかったー。先生はお料理がお上手なんですね!」


 と言った。


「いえいえ。料理はまあ好きですね。おいしかったなら良かったです。でも…」


 と俺はそこで言葉を切った。


「でも…?」


 彼女が先を促すように言う。


「食べているあなたがとても可愛かったです」


 俺がそういうと、彼女の顔がどんどん赤くなっていく。

本当に可愛いハムスター、じゃない生徒だ。


「可愛いです、坂田さん。下の名前も教えてください」


 可愛いと言った時の彼女の反応が良かったので、もう一度言ってから、下の名前を尋ねた。


「咲笑ですけど、それより先生」


 咲笑っていうのか…。


「はい?咲笑さん」


 早速呼んでみる。


「他の女のこにはそんなこと言っちゃだめですよ?」


 言うわけがない。

可愛いペットにだけの特別だ。

もし本当に、咲笑の目的が俺に特別扱い扱いされることなら、その目的は達成されたことになるが、


「先生、できれば呼び方は坂田でお願いします」


 と咲笑が言ってきたので、彼女は特別扱いを求めていないのだろう。

そんな咲笑に、


「いいえ、咲笑さん」


と断っておく。


「だから!」


 何か言おうとした咲笑の言葉を遮って、


「可愛いあなたにお願いがあります。これからも私の授業の片付けを手伝ってくれませんか?」


 と言い、咲笑の手をとる。

片付けを、押し付けようとかそんかつもりではなく、純粋に咲笑と一緒にいる理由が、欲しかっただけだ。


「すいません、先生。今度のロングホームルームで、委員などを決めるので、その時化学係になった方にお願いしてください」


 と、さりげなく手を解かれながら断られてしまった。


 でも、それだけで、引き下がるわけがない。


「じゃあ、あなたが化学係になってください。お願いします」


 ペットのハムスターが逃げようとするので、少し黒い笑みを浮かべながらそう言う。

そんな俺の言葉で、咲笑は少し悩んでいるようだ。

あと少し…と思い、


「サンドイッチ」


 とつぶやいて、少し寂しげな顔をしてみる。

勿論演技だが。


「分かりました。化学係に立候補してみますが、多分、相当倍率高いのでなれるか分かりません!」


 ヤケクソ気味な咲笑。

面白い。


「ありがとうございます、咲笑さん」


 俺がそう言うと彼女は苦笑いをした。


「坂田です」


「咲笑さん」


 俺は訂正する咲笑を無視して、「咲笑」と呼ぶ。

そんな俺に痺れを切らしたのか、


「坂田だっつーの!先生のばーかばーか!外国人イケメン!」


 と言って、化学室から逃げるように出て行った。

逃げるハムスター…。

「さよなら、失礼しました」と言うあたり、やはり真面目な生徒だ。




 それにしても、外国人イケメンかぁ…。

実際はハーフなのだが…。

確かに俺は海外にいた期間が、長い。


 父の仕事の関係で、生まれはイギリスだ。

父は資産家の家の次男で、宝石店を経営しており、イギリスに行った時、母と出会いそのまま、イギリスに店を立てて、活動拠点を日本からイギリスに移してしまったのだ。

そして、生まれてからの18年間はイギリスで育った。

そこから、日本の大学に進み、今の生活にいたる。

日本に行くことは、何度もあったし、沢山の言語を習わされていたので、日本語に苦労することはなかった。

また、日本には知り合いもいたので苦労することは少なかった。

日本で、教師になったのは、本当になんとなくだったが、咲笑を見つけたのは大きなことだろう。


「面白いーこー。欲しいな」


 思わず笑ってしまう。

とても興味深い生徒。

手に入れたい、懐かせたい、なんて思う。

次会ったら、どうして「外国人イケメンー」なんて言ったのかぜひ聞きたい。


 こんなに自分から欲しいと思ったのは久々だった。

なんか、すごいワクワクする。

早く、遊ぼうね!

ハムスターちゃん。


大変更新が遅くなりすいませんでした!

別視点で同じ話はきつい(笑)

でも、どうしても書きたかった!


先生は、咲笑のことを表では「咲笑さん」と呼び、心の中では「咲笑」と呼んでます。


後、一人称も、表は「僕」で、裏「俺」です。


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