01 同居人の話
「おはよう」
と朝から綺麗な笑顔で挨拶してくれたのは、仲辺涼
今日も、綺麗な黒髪に長い睫毛。優しげな美青年という感じだ。
私の兄の友人である。
「おはよ~」
と私も返して、椅子のないこの部屋の大きなテーブルのある前に座った。 窓側の左側が私の定位置だ。
「咲笑、おはよ」
と言いながら、トーストを並べているのが伊東大輝。髪を少し茶髪に染めていて、こちらも美青年。でも、なんていうか、バスケやってそうな感じだ。実際は球技は苦手らしい。
彼も兄の友達である。
「ほら、咲笑。見てないで、運ぶの手伝え!」
とキッチンから叫んだのが、兄である、坂田紀之だ。
「はいはーい」
と言いながら、キッチンに言ってトーストと牛乳を運ぶと、兄もキッチンから、こちら側に来てみんなで大きなテーブルの前に座る。
「いただきます」
という兄の声に続き、私たちも
「「「いただきます」」」
と言う。
慣れ始めた、朝の風景だ。
どうして私、坂田咲笑が、兄と兄の友人2人と朝ご飯を食べることに慣れ始めたかと言うと…
話は、2週間前に遡る。
私の家は、母、父、兄、私の平凡な四人家族だ。 私と兄は歳が離れていて、兄は私のことをすごく可愛がってくれた。
それはもう、うざいくらいにね…
兄は、私が小学校高学年の頃には家を出て行ってしまった。
現在24歳の兄は、プロレス好きでちょっとマッチョだ。
上腕二頭筋は兄の中で一番好きなとこだ。
そんなこと言ったら殴られるけどね。
そんなプロレス好きがこうじて、大学時代に作ったゲームが大ヒットし、そのまま友達と会社を作って社長をやってるらしい。
人生ってなにが起きるか、分かんないよね。
そんな兄、今、少しだけお金持ち。
そこで、祖母が老人ホームに入るという話が持ち上がる。
しかし、祖母には少し気になることがあった。
家だ。
祖母が老人ホームに入るにあたり、その家をどうするのかという話になった。
そこで、兄が「俺があの家に住んで、管理する!」と言い出した。
その兄のひとことで、祖母は安心したようだった。
その後、兄が、私に一緒に住まないか?と言ってきた。
兄に一緒に住むことを誘われたのは、初めてではなかった。
両親は共働きで、独りで家にいることが多い私を心配してのことだった。
独りで家にいることは嫌いじゃなかったし、兄の一人暮らししている家と実家だったら、実家の方が私の通う高校に近かったからだ。
しかし、祖母の家に兄が、引っ越すというなら、ワケが違う。
なぜなら、祖母の家は私の学校の最寄り駅の近くにあるからだ。
それに、祖母は「咲笑も住んでくれたら、嬉しい」と言ってくれたので、私は、兄と一緒に祖母の家で暮らすことにした。
しかし、祖母の家に引っ越すと、そこには、伊東大輝と、仲辺涼がいたのだ。
そして、兄は言った。
「こんなに部屋があるのに使わないのはもったいないだろ?だから、上の階を貸すことにしたんだよ!」
と。
いやいやいやいや、お兄様。
ワタクシ、思うんですの。
そういうことは、先に言うべきではないのかってね。
まぁ、この二人だったから良かったけど。
そう、この2人とは知り合いなのだ。
伊東大輝こと、大輝にぃは兄と中学時代からの友達で、昔から何かと遊んでもらっていた。
仲辺涼こと、りーくんは、兄の家に遊びに行った時に遊んでもらっていたから、仲良しなのだ。
「てか、2人とも、いきなり引っ越しとか、大丈夫なの?」
と、まず、率直な疑問を。
「実家でて来ただけだからね。大丈夫だよ」
と、大輝にぃ。
大輝にぃは歯科医をしていて、お父さんが、院長さんだから、実家の隣に歯科医院がある。だから、実家にいたほうが職場近いんない?
と思ったので、そのまま言ってみた。
「職場、遠くなるじゃん」
「そんなに変わんないよ」
大輝にぃん家は確かにここから遠くない。
「でもさ、多少違うじゃん」
「いいんだよ。実家出てみたかっただけなんだから」
と笑った大輝にぃはめっちゃかわいいっす。
そして、りーくんの方を見た。
りーくんは高校教師をしていて、わたし学校から三駅くらい離れた共学校で働いている。近すぎると生徒と会うことが多くなるからやだと言っていたのに、ここに引っ越して来てしまったら、前より学校に近くなっちゃうんじゃない?
「俺?」
とりーくんが言ったので、頷く。
「俺は、ちょうどマンションの建て替えになっちゃったから。マンション追い出されたから、仕方ないから、新しい住まい探してたらノリのとこで、格安で部屋貸してくれるなんて、いい話聞いたからそのままラッキーって感じかな」
とりーくんはさらって言ったけど、結構大変だったんだね。
ちなみに、ノリって言うのは、兄の名前の紀之からとった、兄のあだ名だ。
「そっかー。大変だったね。まぁ、いいや、りーくんと大輝にぃと一緒なら楽しくなりそう」
と私は言って笑った。
そんな私の頭を兄は、わしゃわしゃと、撫でて、
「というわけで、よろしくな」
と言った。
こうして、兄と、兄の友人二人との生活が始まった。