フジサン
僕は日本担当の神様だ。雲の上にころころと転がって下界を眺めている。今日はフジサンの上空にいる。フジサンが青くてきれいだ。僕は日本の中ではフジサンが好きだ。とてもシンプルな格好が潔いし、その大きさは勇壮だ。それに“不死の山”という語源を持つ山なんて、僕にぴったりじゃないか。フジサンに雲の冠をかぶせたりして散々遊ぶ。
「神よ」
と、フジサンが喋った。
「うん」
「わたしは痩せたい。腰にくびれがほしい。あなたの力でそうしてほしい」
「できないことはないけど、そりゃ、お断りだよ」
「なぜ? ここ最近、あなたは美しい女性といえば『くびれ』と言う。わたしに登ってくる登山客の女性を見ていれば、それがどんなものかわかる。わたしだって、美しくなりたい。日本の美しさの代名詞であるわたしが、くびれていなくて、どうする」
「確かに最近の人間の女性の美しさは、くびれと言ったよ。でもきみは山だ。そこを勘違いしてはいけない。きみは山として、ちゃんと美しいよ。この国の人々は美しいきみを心から愛してる。夢でも会いたいと思うほどにね! 初夢の話はしただろう?」
フジサンはちょっと拗ねたように黙ってしまった。僕はご機嫌をとろうと、雲の冠をもう一つ作ってかぶせてあげた。
「ほら、もう一つ、美しいきみへのプレゼントだ」
「雲じゃなくて、もっと高価なものがほしい……ダイヤモンドの王冠とかをかぶりたい……」
「あんまりワガママを言うと、相手をしてあげないよ。もう、御嶽山とかにしか話しかけないよ」
「じゃあ、桃色になることで妥協する。わたしは桃色になりたい。登山客の女性の服は、大体、赤とか桃色とか白だから、わたしはその中でも桃色がいいと思った」
まあ、それくらいなら、と僕はフジサンを桃色にしたところ日本中どころか世界中がパニックに陥ったので、先輩の神様にうんと叱られて、アメリカの西海岸に異動になった。それからは日がな一日、ビキニ姿の金髪美女ばかり眺めている。
了