[stage03 NO・JUSTICE]
束縛された犯罪者達の収容所、プリズン。
賞金稼ぎ達に捕まった者達は相応の報酬と引き換えにここに投獄される。
「生死問わず」
自らの私益のために他者を喰らう。その自然の摂理の体現者ともいえる者達を人々は畏怖の念を込めてこう呼んだ。
「MAN EATER」
ゴトッ。真っ赤な髪をした黒コートの男が黒い袋をカウンターに乗せた
「麻薬売人首謀者、ネリー、アシモフ、バジル。三人合わせて八万$。さっさとよこせ」
新米らしき係員がビクビクしながら袋の中身を確認する。気の弱そうな彼は案の定、袋の中身を見て嘔吐した。
チッ、と舌打ちをして黒コートの男はカウンターの奥の年輩の男性を呼んだ。
「マーシュ!手前んとこの新人また吐きやがったぞ!使えねぇから辞めさせろ!」
奥から現れた男性、マーシュが怒鳴り声で返事した。
「うるせぇバカ野郎!どうせお前が賞金首を仏様にしちまったんだろうが!手前のせいで今月既に三人も辞めちまったんだ!可哀相にこの仏さん、涙流してんじゃねぇか」
袋の中身を確認したマーシュは哀れみを込めて三人の首を掃除人に明け渡した。
「レオン、お前さんは賞金稼ぎとしての腕は一流だ。手前と対等にやり合えるのはそうそういやしねぇ。ただ・・・」
説教はうんざりといった顔でレオンは言葉をふんだくった。
「人としての情けが足りねぇ、か?くだらねぇ。この稼業は殺るか殺られるかだろうが。命も賭けられねぇクセに犯罪に手ぇ染めんなっての」
レオンの言葉にはあからさまな卑屈と憤怒が聞いてとれた。ため息をついてマーシュはレオンを諭した。
「ふぅ、もう何言っても無駄だな。レオン、これは説教じゃねぇ、警告だ。近頃ギルドの連中がお前さんにイエローカードを切った。これ以上派手に殺ると追放どころか手前が追われることになる。それから腕の建つ賞金首共がお前を始末しようと徒党を組み始めた。
このままだといくらお前でも泥の棺桶に足突っ込む事になるぞ。どうだ?ここらで考え改めねぇか?」レオンが面白くないといった表情を浮かべて葉巻を噛んだ。
「誰がはい、そうですかって手引くかよ。俺を狩ろうなんていい度胸じゃねぇか。立ち塞がるようなら全員斬り捨てる。ギルドだろうが餌共だろうが、だ。なんなら悪の帝王にでもなってやるさ。っと、早速勇者様達の登場らしいぜ」
そういって横に目をやった。賞金首共だな、マーシュが声を潜めて囁いた。
「安心しろ。店ん中では暴れねぇよ」
そう言うとレオンは席を立った。それ以上は二人共言葉を交わさなかった。ゆっくりと店を出るレオンに目をくれずにマーシュはひっそりと呟いた。
「正義もへったくれもねぇってか。ああいう類のバカは殺しても死なねぇっつーが。今回はヤバイかもな。結構気にいってたんだがなぁ。何がアイツをあんなにも駆り立てるんだか。・・・死ぬなよ、紅鬼・・・」
「ここらでいいか・・」
通りにでたレオンは背中の大剣に手を掛けた。それに合わすようにして物影から得物を手にした賞金首達が次々と現れた。少なくとも20人はいるであろう。その中から一人、主格であろう口髭の男が口を開いた。
「マンイーター。紅鬼のレオナルド=レウァールだな。お前は危険過ぎる悪いが我らのために死んでもらうぞ」
「上等だ。数ごときじゃ埋まらねぇ力の差ってやつを手前の身体に教えてやるよ」
不敵に笑うレオンに賞金首達が一斉に飛び掛かった。
明らかに不利な立場をものともせず、ただ力任せに襲い掛かる賞金首達を斬って捨てた。一降り。たったの一降りで肉塊が出来上がった。次々と両断されていく仲間に目もくれずに男達はレオンに飛び掛かって行った。
たった数分の出来事でその場に残ったのは幾つもの血の池と数十の肉塊、そして死地に佇む一人の羅刹。
「ふん、話にならねぇな。雑魚が何匹束になってかかってこようが俺の肥やしにしかならねぇってのが何でわからないのかね」
「それはこちらの台詞ですよ。何故あなたは命を奪う事でしか物事を解決しようとしないのですか」
凜とした声の持ち主は少女であった。淡い桃色の長髪の少女でその手には身の丈ほどもあろう大鎌が握られていた。