覚醒、異世界にて (下)
俺たち転生者はよくある転生物のようなチート能力は与えられていない。こればっかりは様式美というものを愛する俺的にはちょっと納得がいかないのだけれども、これには理由がある。
そもそも、今回の件は、突然変異体の魔王から生じるマナ増殖が、新米女神の世界を破裂されることが原因にある。その世界にチート能力なんていうマナの劇薬が存在してしまったらどうなるか。それは世界の破滅である。
現代風にいうなら、抗生物質付けで何とか命を取り留めていた患者から抗生物質が効かないウィルスが誕生してしまったが、これを殺す薬品を投与したら患者の命がないというとろだろうか。
よって、俺たちはチート能力とは呼べないわずかな強化を受けてこちらに転生することになったのである。
――アニスが調べた俺のステータスは以下の通りである。
・ジャン
筋力 F 耐久 F
敏捷 F 魔力 F
保有スキル 【使い魔作成】
ステータスについて説明するとRPGのように、筋力、頑丈、敏捷、魔力の4つのステータスが存在している。 ステータスは数値ではなくアルファベット(こちらの世界の人間にはこちらの文字で見える)で表示され、最高値はA、最低値はFである。
保有スキルは、個人の特殊な才能、技能、祝福などを示しており、先天的に持っているものもあれば、後天的に取得できるものもある。
なお、ステータスを成長させる方法は、格上の能力を有するモンスターや人間を倒すことである。 マナが物質化したものであるモンスターを倒した時、そのモンスターが有していたマナを吸収することができる。 その時、吸収したマナを有していたモンスターが倒した者より優れたステータスをもっていた時、倒した者は魂の霊格を上げ成長することになる。
例えば、筋力E、頑丈E、敏捷E、魔力Eの人間が筋力F、頑丈F、敏捷D、魔力Fのモンスターを倒し続けた場合、いずれ俊敏はDにあがるだろうが、他のステータスは一切上がらない。ようするに、スライムをいくら倒してもLVUPしないのだ。
濃度50%の溶液に濃度60%の溶液を注ぎ続けたらいずれ濃度60%になるようなものだ。勇者というよりは仙人ぽいと感じたね。仙人の場合は霊地、霊木などの気を体内にとり入れるわけだが。
なお、論理上人間の限界はB+だそうな、Aランクのステータスを持っているのが、魔王と、世界を創造したときに生まれた小神しかいないので、まずAに上がることはないだろうとのこと。
まあ、逆にいうと、Aランクまで達した奴は神と同等ということになり、モータル(死すべき者)から、イモータル (不死者) になるということだが、まあ、これは考えなくてもいいだろう。
そして、転生者が有している特権は5つ――
1つ、成長倍化。 これは元々、上位世界の人間が下位世界よりも霊格が高くなる素養を持つために起こる現象である。ステータス上昇速度が通常の倍。
2つ、スキル保有。 個人の素養、適正に応じて1つだけスキルを取得できる。まあ、流石に弩ノーマルじゃやばいと思ったんだろな。
3つ、病気無効化。 中世における衛生状況、医療技術を考えるに、疫病で転生者が全滅する可能性を考慮し与えられた能力。なお、これをつけなければ、もう50人は送り込めたらしい。
4つ、未来不定。 この新米女神の世界はようするに若葉マークの初心者用の世界である。よって、この世界の人間は運命というプロテクトを持ち、新米の手に負えない展開にならないよう中世に固定してある。(今回の魔王はイレギュラー)だが、俺たち上位世界の人間にはそんなものは付いていないので自由に動ける。
そして、最後の5つ目の特権が、同化能力。 同じ転生者殺害時における高効率のマナ吸収(特例で格下が相手でも幾らか上昇する)と相手のもつ前提条件のない所持スキルの奪取である。
「……やっぱり、鍛えなきゃ駄目だろうな。
ファンタジー世界だということもあるけど、
他の転生者に見つかった場合のことを考えると
最低限生き残れるだけの力が欲しい。」
正直、これがなかったら適当に後は他の奴らに任せて田舎で隠居でもいいんだが。
「絶対、ドSだろ、あの神さん……。必要あるのか同化能力って。」
「まぁ、ちゃんと働いてもらわないと困りますからね。
引き篭もられたら困るのですよ。」
――ちぃっ! 見抜かれてやがる!
「それに、モンスターを倒すのは不純化したマナの回収という意味もありますからね。
つまり、回収すればするだけ、破滅への制限時間が延びるのです。」
そして、抱え落ちして死なれたら、またばら撒かれてしまうから、どうせなら一箇所に集めて能力UPに使ってしまえということらしい。
……まったく、なんでこんなことに、と思わざる得ない。
……だがしかし、同時に恵まれているとも言えなくもない。ステータスだけだが、常人よりも倍の速さで成長でき、一部の人間しか本来は持っていない先天性のスキルを持ち、病に掛かる事はないのだ。しかも、成人するまでは目に見える守護霊ならぬ守護妖精付きである。
上を見ればきりがない。そもそも、第二の人生などがあること自体、存外の幸運なのだ。ならば、一度終わった人生、悔いが残らぬよう、また、前世での悔いを清算するべく行動すべきではないだろうか。
だがしかし、これだけは言わせて欲しい。
「……妖精が見えると吹聴してしまっているこの村にいたら、
他の転生者に見つかるよな。」
絶対、こうなることは折込済みだろうな。
まったく、農奴が他の土地に移るって、どれだけ大変だと思ってるんだ。どうやら、できるだけ早く、農奴の身から脱出せねばならないらしい。この現実に溜息をつきたくなる。
「記憶が戻ったの無しにしていい?」
「戦わないと現実となのです♪」
……。
……うん、あまり深く考えないようにしよう。
これにて、今年最後の投稿になります。
来年も本作品をどうぞよろしくお願いいたします。
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