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誰か勝手に魔王、倒してくんないかな  作者: 山彦
第二幕 商人時代編
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これから、成り上がり作戦会議を始める!?

 うん、大体判った。なんとか判った。やっぱりこういうのは口だけで説明されても理解しにくいよね。図で書いてもらわないと。


「それにしても、よくこんな物の作り方を知ってたな。普通一般人はこんなもん作れんぞ」


 俺も大概に薀蓄バカだが基本的に口だけ、知識だけって感じで実際に作れるかは別物よ?


「いや、案外この蜂の巣箱って日曜大工レベルで作れる物なんですよ。プロの養蜂家も趣味で養蜂している一般の人の中にも購入せずに自分で巣箱を作っている人はいるんですよ。まあ普通は一から全部手作りじゃなくて一部の部品は日本に居た時は購入して組み込んでいたりしてたんですが、そこは省くか、似せて作るかと試行錯誤でなんとか」

「あ、前世で作った事あるんだ」

「ええ、実は私の前世の実家って養蜂家だったんですよ。もっとも私は家を継ぐのが嫌だったので就職しようとしていたんですけどね。でも就職難で仕方ないので家を継ぐかと、一念発起して真面目に家業を覚えようとしていた矢先にちょっと交通事故で」


 あ、本職の方でしたか。いや本職見習いかな。どっちにしろ、俺の薀蓄よりも、よほど信頼性があるってもんだな。何しろ実際に体験して実行して培った知識だし。


 ではでは次は俺の(薀蓄)ターンか。先のに比べるとちょっとしょぼいけど仕方がないか。


「では俺の番だな。俺も甘みに関する知識だ。俺はこれから水飴を作って売っていく予定です」


 人間の甘味に対する情熱はいつの時代でも熱いといわざる得ない。甘味を求める富豪層様々である。この世界でも砂糖、蜂蜜は高値で取引されている。それに乗っかっていけば儲けられるんじゃね、と言う安易な予想を俺は立てているのだ。


「史実なら俺等の世界の西洋ではテンサイから砂糖を精製することを発見して砂糖を安値で手に入れるようになったことは俺も知ってる。だから俺もテンサイを家で栽培して大儲けできねーかなー、と色々と村近くで聞き込みをしたんだが名前も知らなきゃ、形状も知らない(※1)とあっては探すのは無理ってもんでしょ」


 テンサイから砂糖が精製できる事は知識としては知っていて「ヒャッハー、テンサイで大儲けだー!」と無双しては見たいのだがテンサイが身近で栽培されているとは限らんとです。後、止めにテンサイから砂糖を精製する方法など知らん。

 ……無理だろこれ。要するに知識だけでは何もできない、物を探すのにも手間はかかるということなのですよ!?


 というかぶっちゃけ日本人のほとんど、農家の人以外はテンサイの姿形なんぞほとんど知らんとですよ。それが判別できるのは前世で農家やってた転生者だけだろ。まあ砂糖大根なんて言われるくらいなんだから多分大根に似てるんだろなーという程度が俺の認識です。


 だってテンサイなんて直に見たことないし、見たことがあってもネットの画像とかで見た程度だし、その程度の知識で何処かの農家に生えてる大根を見て「これがテンサイだ!」と断言できる自信はない。俺も忘れがちだけどぶっちゃけ現代とおさらばしてもう十年以上経ってるから特に。他の転生者ならできるのかも知れんが俺には無理です。というか中世ヨーロッパならまだしも異世界じゃ、そもそも存在しているかすら不明だし。


「と、いうわけで砂糖から一歩離れてテンサイ砂糖よりも難易度の低い水飴の作成に走ることにしました。これなら作り方知っているからな」


 水飴とは芋や穀物などのでんぷんから作った片栗粉に麦芽か大根をまぜ鍋で熱するといった家庭でも調理できる程度の過程と材料で作ることができる。これが何を示すかというと、


「即ち! 水飴の生産に対する障害はほぼ存在しない! 作り方さえ知っていれば誰でも何処でも作ることができる!」

「ほお」


「さらに素晴らしい事は、この辺りで水飴の存在が知られていない事だ。この地方での甘味というと蜂蜜と東方から輸入した砂糖以外存在しないのだ。なので他の連中から水飴の製法が漏れたりしなければ、すげぇ儲けれる可能性があるんじゃねと思う!」


 なお、水飴はアジアでは紀元前から存在していたらしいが前世世界でも西洋では伝来しなかった。今でも水飴は西洋世界では凄くマイナーな存在であるらしい。動画やアニメなどで水飴が出てきたら西洋人は「あ、なんか変なもん食ってる」って感じになるそうな。

 なにせ、向こうの飴といったらキャンディで、その原材料はほぼ砂糖、後は蜂蜜や香料などを混ぜる程度なわけで水飴など縁のない存在なのだ。


 水飴は英語園ではアルファベットでは「MIZUAME」と書かれるそうなので、たぶん、醤油や味噌などと同じく日本から存在が知らされるまでは、あまり知られていない存在であったのかも知れないね。

 話は逸れるが、このようなアジア文化の単語が日本から流入されるケースはよくある話なのだが、珍しい事に、何故か飴の方の読みに関しては「Yeot」という韓国語が広まってるんだよな。いったいどういう経緯でそうなったのかちょっと興味あるね。追加で豆知識を披露すると中国ではキャンディーは「糖」、水飴は「飴」と書くらしい。別物あつかいらしいです。


 それにしても古代の人すごくね。製法が伝わったアジアでは西洋人が高い金だして蜂蜜と砂糖を買っている横で安価な甘味を生産してたんだから。誰かは知らないがすごい発明だ。


「しかし、なんでヨーロッパの人は広まらなかったのかね、水飴」

「必要がなきゃ広まらない。気づかなきゃ判らない。そんなもんでしょ。アジアの人だってメーブルシロップを作ってないじゃないか。樹液を煮詰めればできるのに。まあカエデの樹液といっても種類によって違うのかもしれないけど」

「まあ、そんなもんなのかもね。だけど一つ間違えてるぞ。樹液を煮詰めてメープルを作る事を発見したのは西洋人じゃなくてアメリカ先住民な」

「あ、これは失敬。でもよく水飴の作り方なんて知っていましたね。それもネットや本で知ったので?」

「いや、これは子供のころにお世話になっていた老夫妻が芋から水飴を作ってくれて、それを台所でよく見ていたからだよ。ああいうのって子供心をくすぐるというか、見てるだけでワクワクしてきたりするんだよなぁ……」


 芋で作った水飴、芋飴は俺が引き取られた老夫婦の家でよく作っていただき、オヤツとして美味しく味わった思い出の品だ。水飴の多くは芋ではなくもち米を使って作られているそうだが、別にもち米でないと作れないというわけではないらしい。


 これは独り立ちしてしばらく後から知ったことだが東京のアメ横の名前の由来は一説によると、芋などのでんぷんから作った芋アメを売る業者が沢山いて繁盛していたから『アメ屋横丁』と言われるようになったという説があるらしい。


 まあ少なくとも砂糖が貴重になった戦時中、庶民にとっての貴重な甘味料として使われたことは間違いないようだ。砂糖ももち米も手に入らなかった戦時中は他の物で代用しなければならなかったのだろう。もしかしたら老夫妻が水飴を作り方を知っていたのはその名残なのかもしれない。


「実家で何度か食料に余裕がある時に稀に作ったことがあるので、こっちも実地試験済みだ。まあ、実際に作り始めたのはこっちの世界に来てからなんだけどな」


 弟、妹達に芋飴を振る舞いながら、俺も老夫婦はその頃の思い出に浸るように芋飴を何度か作って食べたもんである。素朴な味だけどなんか心が暖かくなる味なんだよな。思い出補正なのやもしれないけど、なんというか俺の中の団欒の味なのだ。


「なるほど。でも水飴なんて新しい食べ物、そう簡単に広まるんですか? 基本人間って結構保守的だと思うんですけど。また仮に広まっても正直、作り方を秘匿するのは難しいというか、強制的に権力や暴力で吐かされそうな気が……」

「ああ、問題ない。蜂蜜として売るから」

「え……」

「正確には水飴入り蜂蜜、いや蜂蜜入り水飴かな」

「あ、コップが空になってますよー、そら一気っ! 一気っ!」


 猫の手で器用な……。奴も俺のステータスが上がって能力上昇しとる。まあ、それはとりあえず置いといてっと、ぐびぐび。ぷっはー。え~、何だっけ?


 ああ、水飴、水飴の件! それなら水飴に蜂蜜で風味付けした蜂蜜風水飴を蜂蜜として売り出す予定ですよ? 中身はほぼ水飴で、蜂蜜は風味付けのみを目的で使う所存。


「あああぁぁーーーッ! 養蜂家の敵だぁーーっ!」


 あ、なんか前世での養蜂家としてのアイデンティティがクリスに抗議を醸し出してる。さもあろう、この手法は前世でのお隣の国がよく使っている手法だそうだからのう。最近まで悪質な業者が蜂蜜に水飴を加えるのは伝統的な手法だったらしい。何故近年は廃れて来たかと言うと科学技術の進歩で判別が容易になった為らしい。


 蜂蜜偽装って世の東西を問わずやってるんだよね。なお、西洋では水飴の変わりに砂糖を混ぜて誤魔化していたそうな。古代ローマなんかではブドウジュースを混ぜたりもしたそうで。この世界ではというかこの辺りでは少なくとも砂糖は蜂蜜並みに高い(テンサイ砂糖栽培前なので)のでまず混ざってはいないだろうけれどもな。


 因みに砂糖入りの蜂蜜かどうかを見破る方法は蜂蜜を蛇の鱗に垂らすという方法があるらしい。純粋な蜂蜜は蛇の鱗を溶かすんだけど砂糖入りの蜂蜜は溶けないんだそうだ。


 ……あれ、ひょっとして水飴でもそうなのか? 気をつけないとね。


「悪貨は良貨を駆逐するんだぞ! そんなズルする奴がいるから真面目にやってる奴が損をするんだ。うちの実家の苦労を思い知れ!!」

「あはははっ、まあまあ、水飴蜂蜜なんてまだましだってお隣なんて硫酸ハチミツなんてもんまで売ってんだぞ。硫酸だぞ、硫酸」


 因みに何故蜂蜜に硫酸を入れるのかと言うと、砂糖に水と硫酸を加えると単糖に分解されるという科学反応が起こるから。ハチミツも作られ方は花の蜜をミツバチが酵素で単糖に分解したもだから同じだよねってことらしい。


 ……いや、食べ物に硫酸混ぜたらいかんでしょ。教訓、お隣で安物の蜂蜜を買って帰ってはいけません。もう、俺は行けないけど。


「いいじゃない、やったもん勝ちですよ。最下級蜂蜜をそれよりさらに低値で作った水飴を混ぜて売る。最下級ならどうやったって儲けられよう」

「つまり、「いくら卸売業者に足元見られたって、その額より仕入れ値が安ければ問題なかろうなのだあぁぁぁーっ!」ですね、わかりますなのです。「そんな安値で買い取られたら生活が! 酷い、鬼、悪魔!」と罵りながら、でも心の中ではシメシメ、ニヤリィと邪悪顔なのです」


 まあ、個人レベルでやり取りする程度だからできることなんだけどな。流石に大々的にこれをやったら消費者におかしいと思われかねん。


「まあ、そんなわけで色々、協力できると思うのだよ、ちみぃ~。君が安値で蜂蜜を作って、俺がさらに安値で価格破壊。共に我等で甘味の王になろうではないか。高級品蜂蜜は土地を確保した後で色々試して作ればいいじゃない」


 たぶん、この世界、同一の花から抽出した蜂蜜とかってまだないよね。レンゲ蜜とかりんご蜜とか。おお、夢が広がるのう。


「か、甘味の王ですと!?」

「うむ! ここまできたらメーブルシロップが取れる樹液も探そう。時間さえかければ使えそうな樹液も見つかるさ。なにも本家本元と同種の木でなくても作れる樹液を出す木は探せばあるだろ。まあちょっとばかり効率は下がるだろうけれども」


 料理だと、日本料理、中華、フランス料理、イタリアンと色々とあり、また確実に異文化で受けると確証を持てないけれども、古今東西、酒、カフェイン、甘味に関してはどんな異文化だろうと、宗教上禁止とかされていなければ外れることはございません。


 売るぜ、売るぜ。売りながら商売のやり方を覚えていくぜ。最初は失敗するやもしれないが、致命傷さえ避けていけばなんとかなる! たぶんね?


「というわけで、甘味王に俺は、俺達はなるッ!!」

「壮大なのか、せこいのかよく判らない宣言ですけどねー」

「セコくて何が悪い! さあ名乗ろう、我等、甘味三人衆!」


「水飴のジャン!」


「蜂蜜のクリス!」


「メープルのアニス!」


「ただし、メープルはまだ無いから補欠である(ナレータ口調)」

「くぅっ、何で私が補欠なのですかぁ!!」


 なんということだ、誰もツッコミに入らない。大惨事である。


 うーむ、しかし不味いな。ちょっち、ただ酒だからと飲み過ぎた。

 祝い酒+緊張からの開放で頭がハイになっとる。


「ヒヒィーン」

「おおーう、ジャン、何やら木に括り付けた荷馬さんも混ざりたいと泣いてますよー」


 後ろを見る。そこには荷馬車が一台、止まっていた。

 荷台の周りは空になった積荷の一部であったワイン瓶が散乱している。


「あははっはははは、お前も飲むかー」

「あの場で死んだ前ご主人の分もこれから働くとですよー、うま馬~」

「でも本当に持ち主、死んでたんですかね。確かに一台だけ残っていた荷馬車だったわけですが」


 問題ない、問題ない。例え違っても全ての罪はあの盗賊たちがとってくれるさ。

 盗賊に取られるぐらいならと火事場泥棒した、何処か悪い! (全面的に悪い)


 そんな感じで急遽開かれた、飲めや歌えの乱痴気騒ぎはまだまだ続くのであった。


 ……あれ、作戦会議は何処行った?

(※1)

 分り易さを重視し元世界と同じ名称で作物等を呼称しておりますが、実際は国や地域毎で現代日本とは名称が異なります。

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