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誰か勝手に魔王、倒してくんないかな  作者: 山彦
第零幕 神世、そして前世
3/38

始まりは理不尽に (下)

 現れたのは銀髪銀目、それだけを聞くと何やら神秘的な人物のように思うかもしれない。だがその風貌は野生動物のような凄みがあり、仮にハリウッドスターであるならば、主役も主人公の宿敵の敵役もこなせそうな華があった。

 神様なら顎鬚を生やした爺様だと思っていたんだがな。なんというか思ったより若い美形さんである。ただし口を開くまではと追加しとかねばなるまい。口を開いたとたん、例えるなら、古きよき江戸っ子の兄ちゃんとでも表現するしかない印象ブレイクが発生している。

 なんというかなー、あの神さん絶対笑い方は「ガハハハハハ」だろ。もうちょっと威厳ってものを持っていただきたいね。


 まあ、それはともかく以下、神さんの隣の執事っぽい男と周りの皆さんの応答である。(ダイジェストでお送りいたします)




 ――謝罪と賠償を要求するニダ!


「えー、言っときますけど 

 ①死神が誤って殺してしまった

 ② 神様が土下座してた

 ③ チート能力を貰って別世界へ

 という流れじゃありませんよ?

 というか、誤りも何も、貴方たちの世界の位階ぐらいになると、

 そこに暮らす魂を縛り付ける運命の糸というのはありませんから」




 ――お前らは罪のない一般死人を拉致した、やはり謝罪と(ry

 

「死人には人権も弁護士を呼ぶ権利もありません(キリッ)」




 ――ふざけんな! このやろう!!


「静粛におねがいします」




 ――喧々囂々 わいなわいな――


「うるせぃ!! 黙れっていってんだろ!!」 



 ――ギャース!



 --只今、暴徒鎮圧中--



 

 うわぁ、俺のとこまで届かすんじゃねえ。というか、指から雷はチートだと思います。


 会場(?)が死屍累々となっちまったじゃないか。まったく、俺ら全員死人なわけだから、死屍累々という言葉をこれ以上ないくらい体現しちまってるぜ。まあ屍はないけどな、体ないし。そして隣の執事さん、もっと早めに止めてください。


 俺らは、執事さんの説明を真面目に話を聞くべく、中国デモ・モードから頭を切り替え、腰を据える。話を聞く体勢になったと感じ取ったのか、執事さんも、俺らに続きの話を切り出した。



 まあ、続きの話を説明すると、神さん、つまり俺たちが生まれた世界の神様の娘の世界に魔王が生まれたので、俺らでどうにかしろということらしい。そして、この魔王というのは神さんの娘みたいな新米神様の作るような下位世界だと、よく生まれてくるもんらしい。


 何でかって言うと、まず下位世界について説明しなければならないが、この下位世界っていうのはようするに、御伽噺みたいな世界のことを言うんだと。世界が球体じゃなくて平たくて、その世界の周りを太陽が回っていて、魔法が使えるような奴な。  


 こういう世界は俺たちの世界みたいに引力とか、相対性理論とかそういうルールで世界を構築するんではなく、足りない部分は魔法の力である”マナ”で世界を支えているんだと。当然、無理やりだから世界の寿命も短いらしい。

 そして、その充満したマナが沈殿して活性化してしまったのが魔物であり、その最悪のものが魔王というわけだ。ファンタジー世界で魔王が生まれるのは必然ですね。


 そして、あちらの世界で発生した魔王、これが変種らしく、世界に充満するマナを増殖させる力を持っているらしく、それが一定量を超えてしまうと世界が破裂してしもうと……。 


 正直、興味ないとしかいえないな。どっかの二次創作みたいに何か力でもくれるのかね。なんか、やる気がありそうなのは若い奴(何か動作が若々しい)に多そうだ。俺? 新しい生? まあ多少の魅力は感じないでもないよ。だけど生きるってのは娯楽じゃない。

 現代では人生とは喜びみたいな意見が出回っているけどさ、それは先進国である日本に生まれ出たから言えることだろ。もしも、飢餓に満ち溢れているところや、紛争地帯で生まれ育った人間だったら、はたして二つ返事で答えるばかりではないんではないだろうか。

 もちろん、俺はそこまで酷い苦労など味わっていない。だが平均的な若者よりは苦労してきたと言い切れるし、またあんな殺され方をされて来世に希望を持っているなんて思えない。


 ――だがしかし、驚いたことに、この世界に来世など存在しないらしい。



「は? お前ら、俺がわざわざ、天国とか地獄とか作ってると思うのか? 

 当然、転生なんてないぞ。

 ――うっせいな。だぁーー、煩さい、とりあえず黙れ!


  ――おう、よく聞け。

 そもそも、輪廻転生なんてありえんだろ。数百、数千年前に比べて、明らかに現代の人間の数が増えすぎて吊り合ってないだろ。

  ――あ? 虫や動物がいる? だったら生き物が生まれる前はどうなんだよ。因みに人間と他の生き物の魂は別モンだぞ。 そもそも、何で俺らが、わざわざ世界を作ってると思ってんだ。俺らにとって魂っていうのは、お前らで言う作物と同じだ。 神にとって日々の糧であり、次の段階へ進む手段であり、暇つぶしのための娯楽なんだよ。


 ――――まあ、そういうわけで、お前らの道は二つだ。素直にあっちの世界に行くか、



 ――悠然と開かれた口の奥は何人も見通すことができない、

          そこはただ広い広い虚無しか見えず、それは冷酷に宣言する――

 



   ――俺の『腹』の中かだ」



 ◆◆◆



 ――何もない。


 目の前の”虚無”の奥には何もない。 


 ――意識が沈んでいく。


 ”死”はあんなにも無価値なのに 

         ――”死ぬ”という事には、価値がないという価値がある。


 ”死”はあんなにも孤独なのに

         ――”死ぬ”という事には、孤独を感じる余地がある。



 ――ああ、たかが”死ぬ”という事をしった程度で何を勘違いしていたんだろう。



 ”死ぬ”という目にあうことと、”死”を理解することは別物だ。皆一応に理解しただろう。口に出さなくとも、何を思ったのかは分かる、分からざる終えない。何故なら他の感情など発せようはずがない。


 

 ――イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ――


 ――キエタクナイ、キエタクナイ、キエタクナイ、キエタクナイ、キエタクナイ―― 


 あの虚無の中に入って消えるのは”死”んでも嫌だと、皆、思っている。

 例え、”死ぬ”ような目に何度あったとしても消えたくない、無になりたくないと――


 その後もいくらか、むこうはこちらに説明をしてきた。その後は、特に野次も何もない。皆、覚悟を決めたのだろう。そして俺たちは、別の間に連れて行かれた。

 

 日の光などないはずのその空間には、真っ白な光に満たされていた。 光源を探して見上げたが、そこは天井などなく果てのない白い空間が広がっていた。白一面なので、距離感が掴み難く、軽く目眩がした。


 一体全体、どこから光がきているのかは分からなかったが、直視することが難しいほどの明るさだった。それは、あえていうなら太陽の見えない真っ白な空。



「――――来てくれてありがとうございます」



 まるで、ステージホールから発せられたような反響したような声だった。


 広大な空間の中央に目を向けると、そこに複数の人影が見えた。そこには十五歳前後の将来有望そうなかわいらしい、女の子と幾人かの付き人が見える。彼女が神の娘だろう。因みに、傍らに立つ執事風の人は前の部屋で説明していた人とそっくりだ。


 体型どころか、容姿も同じ者たちに少しだけ驚いたが、俺は、それを敢えて問おうとは思わなかった。たぶんコピーか何かなのだろう。


 俺達ははそちらに向けて歩き始めた。



「必要なことは聞きましたでしょうか?」


 その問いに、問題ないと答える神さん。皆、正直、まだまだ質問したいことがあるのだろうが、再三絶え間ない質問をしてもきりがないのもまた事実だ。それに、しばらくチュートリアルみたいなものが付くというしね。



 ――では、”道”を開こう。


 

 部屋の中心に水の入った盆のような物が光の粒子と共に現れる。盆の中にはどんなミニチュアよりも精巧に作られいる大地があった。まったく、こんなもの後、2世紀は経たないと人には作れないだろ。大地だけでも厳しいというのに、大気や太陽まで再現している。いや再現しているんじゃない、これはこの中での本物の大気や太陽なのだろう。



<――――来たれ! ここに来たれ! 新たな御霊をこの地に卸そう!

                  新たな未来をこの地に卸そう!――――>



 盆を中心として光が溢れる。あふれ出した光は、次の言葉とともに、形をなした。   



<――― 道よ、開け! ―――>

 


 ――光が扉を形作り、異世界への道が生まれた。



 ◆◆◆



「で、お前が最後だけれど、行かないのか?」


 最後に残った俺を見て、おいおい、食っちまうぞとばかりに俺を威嚇する神さん。いや、俺は日本人的本能に従って大多数の後ろについてきていただけなのですが……。 


「行きませんよ。まあ、正直にいえばかなりビビってますけどね」


 正直、あの虚無の中に飲まれるのは怖い。本能の部分が人の迷惑を考えないレベルで警鐘を鳴らすし、もうないはずの胃がキュとなる。だが、俺は他の人ら違って、そこに救いも見出していた。 


「あそこには救いはない。ええ分かっていますよ。でも絶望だってないでしょう?」


 喰われるって表現がなんか嫌だが、要するに仏教で言う『解脱』へと至れるわけだろ?


 仏教における至上目的がこんな簡単な方法で達せられるというのに、皆が皆、転生に向かったというのは理解に苦しむな。流石は日本、それだけ現世で幸せな生活をしてきたということか。言うなれば、俺は仏教思想で、彼らは道教思想だったということだろうな。仏教と道教はどちらも輪廻思想だが最終的な目的は違う。


 道教は輪廻する限り、生の苦しみがつきまとうので、不老不死である仙人になることを目的としている。ようするに死んでたまるかということだ。対して、仏教は「生きていることが苦」として輪廻の輪から逃れることを目的としている。簡単に言うと、転生したら負けかと思っているという事だ。


 仏教は世界三大宗教なんだから、それなりに理解される概念だと思うのだけどね。ようするに一言でいうと


 ――もう疲れた。


 殺すのも殺されるのも御免被る。永遠の安息を俺にくれ。



「ですから、俺は 『却下』へっ? 」

「いや、お前、不味そうだし。

 俺だってどうせ食べるならもっと、清々しい奴がいい」 


 おいいいいいいいいいいいいいいいっ。ちょっと待て、さっきまで長々と恥ずかしい独白していた俺の立場は!?


「ちょっと待てよ!! あっち行かないなら腹の中だっていったじゃねえか!!」

「うっせいな……、ともかく、お前みたいな辛気臭いのは腹にいれたくねえんだよ」 

「なんでじゃー!! 辛気臭くて悪かったな!

 だったら、もうちょっとましな世界作れ!!」

「俺だって神の中じゃ、それほどレベル高くねぇんだよ!!

 精一杯やってこれなんだよ! 悪かったな!!」


 その後、口と、肉体による言語を使った ”NA・NO・HA” 式の ”話し合い” が行われたわけだが、神さん曰く、神さんだって嫌な奴や、辛気臭い奴は食いたくないので、神さんなりに ”いい世界” を作ろうと頑張ってんだと。


 そして、目の前で、世界中の不幸を一心に背負ったような面を俺がしたので腹がたったそうな。難儀なことを……。



 ……。



 ああ、ああ、わかってるさ……。



 なんだかんだいって、日本に生まれた俺は、地球に暮らす大多数よりも、不幸でなかったことは、分かっている……。



 地球では、もっと無残な死を迎えていまった者がいることも知っているとも……。



 なんだかんだで、あのヤクザも、わざわざ苦しまないよう薬を討ってくれたしな……。



 「そもそも、第二の人生なんてのができるだけ恵まれてるんだぜ」



 分かっているさ。



 「全てを捨てて、新たな人生を歩める。新たな家族もできる」


   

 家族か……。まともに家族と暮らせなかった俺でやっていけるんだろうか。



 「と、いうわけで行ってこい。」



 そうか……。それなら行くしか……って何だと!? ちょ、蹴るな、吸い込まれ……、お、おちぃぃぃるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?



 「あっちに行ったあと、精一杯生きて生涯全うしたら、もう一回会ってや。」



 と、勝手なことをほざきやがる神さん。ちょ!?

 しがみついている指を一本、一本外すな!

 やめてえええええええええええええええええええ!



 「というわけで、第二の人生を楽しんでこい」



  何をいい笑顔しながらいってやがりますか!!

  こんにゃろう、絶対次会ったら、ぶち殺してやるからな、

  首洗って待ってろ!!!!!!!!!

  




 ――俺のあらんかぎりの罵声を涼しい顔で受け流す神を見ながら俺は、

               光の濁流の中に飲まれて、異世界へと旅立っていった。


 

2011/02/09 加筆修正しました。以前のバージョンを読んでいただいた方にはもうしわけございません。

それにしても、内容の厨二的な感じで作者にダメージが……。

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