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誰か勝手に魔王、倒してくんないかな  作者: 山彦
第一幕 少年時代編
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少年時代の終わり 続々

 俺は村長宅の前に父さんと一緒にいた。


 今、会おうとしている村長は我が家にとっての怨敵であり、排他的な村社会の首魁であり、この小さな村の王様である。貴族じゃなくても世襲で受け継がれる権力っていうのはまったくもってエグイもんだ。それは衣食住、つまりは奴等の着ている衣服、肉付き、住んでいる住居を見ただけでも一目瞭然なんですよ、そこに存在する純然たる貧富の差がね。


 現代の一般的なイメージだと農村に住んでいる者は全員同じような農奴だけかのように大雑把に思われがちだが実際には、土地を所有できている、豪農や比較的裕福な農民から、自分の土地を持たない為に大きな土地を持つ地主の元で働く小作人、そして地主に買われてきた奴隷とかがいるわけだ。


 そして、そのような全ての村民の上に村長が立ち、全ての村民から領主の税の名目で利益を吸い上げるというわけだ。しかもその地位は世襲制の為に無駄に権力を持っており村での裁判権まで持っていのだ。この小さな村においては、まさに王様と言って違いないだろう。


 まあ、管轄が違うアシルん家みたいな例外も存在するがな。粉引きは領主の権力の下にあるから羨ましいことに村長の権力の管轄外である。もっともその分、何か問題が起こったり、領主との関係がこじれたら暴走した村民から危害をくらう可能性もありますが。


 もっとも、この村では粉引きの一家よりも前に俺らが槍玉に挙げられる可能性が高いから現状は安泰だろうね。ぶっちゃけアシルの家がうち等に良くしてくれるのは明日は我が身という打算もあるんだよね。まあ、それを除いても良い人達には違いないんだがね。



 話は逸れたが判り易く不等式で書くと


 村長>>権力の壁>>土地持ち農>>小作人>>>人権の壁>>奴隷



 といった感じだ。因みにうちは一応は土地持ちに分類される。もっとも小作人を多数雇えるような大きな土地を持つような豪農ではなく家族の食い扶持を何とか満たせる程度の土地しか持っていないので地主ってわけではない。まあ、俺や父さんが森に狩りに出れるので、これでも村の中ではそこそこは生活は良いがね。


 だがそれは、余計に他の村民には気に障ることになっているわけでもあるようなんだがね。なにせ、村の異分子が家によっては自分達より良い暮らしをしているのだから。そして、その不満を村長達は煽り、自分達への不満を俺達への敵意にすり替えるわけだ。前世での対日批判と同じ仕組みというわけだ。


 これは今の村長が諸悪の根源ではあるが、今更奴を更迭しても事態は変わらないだろう。前世でお隣の国のトップをすげ替えたとしても対日感情が変わらないように。


 結局、俺達のような異分子を村は受け入れる器がないってことだ。村社会は自分逹の理解できない他所者の存在を許さない、村の掟や価値観から外れるものを認めない。その排他的な連帯感はとても陰湿だ。今は社会的に弱いだけだが、父さんという物理的な強さが失なわれた時には……、いや考えるのは辞めよう、そうならないように俺がなんとすればいいのだ。



 さて、回想はそろそろ止め仕事に戻らねば。さっさと村長の家を訪ねよう。思えば、村長宅は以前にカシミロに接触しようと探りを入れに訪れてから日も間もない。村の中心部の広場沿いに建てられたその家は村の中ではもっとも立派な建物だ。屋敷の傍では村長の家に買われた奴隷が忙しそうに仕事をしている。


「ごめんください」


 大きな木の扉をノックして父さんが用件を告げる。


「急ぎ、村長殿にお会いしたい」


 扉の向こう側からはこちらへの返事の声はなかなか戻ってこなかった。その為、再び父さんが扉をノックするべく拳を振り上げる動作に移ろうとした。だがその時、やっと家の奥から返事が返ってきた。そして、扉の向こうからカンヌキを外す音が聞こえてくる。扉が開き、少し開いた扉から辛気臭そうな顔をした中年の女の顔が出てきた。村長の息子の嫁だ。


「なんだい、何かようなのかい?」

「村長殿にお知らせしたい件があるのだが、おられるか?」


 嫁は胡散臭げな顔をしながら父さんの顔を見た後、続いて俺の顔を見た。その後、やや逡巡していたが結局、「ちょっと待ってな」と言い、改めてカンヌキを入れ扉を閉めた。扉の奥からドタドタと女が家の奥に走っていく音が聞こえてくる。そうしてしばらく待った後、扉が再び開き、中に入るよう言われた。


「何じゃ、藪から棒に。お前らが何を言いに家まで来た」

「奥の村がオークに襲撃されたことは知っているか?」

「知っとるぞ。何処でそれを知ったのかはしらんが、それがどうした。

 オーク共がこちらに攻めてくるとでもいうのか!」


 唾を飛ばしながら怒鳴り散らす村長を前に父さんはさも深刻そうな顔をしながら次の言葉を放った。


「オーク共が村よりさほど遠くない位置に巣くっているのを見つけた。

 もしかしたら村に襲撃してくるかもしれない」

「な、なんじゃと!?」


 「村に襲撃」という言葉に鼻白ろんだ村長だったが直ぐに元の調子を取り戻し、偏屈そうな顔を此方に向けた。もっとも禿げた頭には脂汗が滲み出てきており、それは窓から入ってくる日差しを反射させて俺達の目を刺していた。


「おまえらのせいじゃ! ワシャ知らんぞ!」


 その後、森に出ている者の注意が足りなかったからこんな事になったという分けの判らない持論を展開する村長。うちらや狩人連中に責任を押し付けられてもな。そもそも、そんなこと言っている場合じゃないだろうに。別にそちらに責任を求めているわけじゃないんだからさ、何か対策を考えるべきじゃないのかね。


 嫁の方はそんな村長を見て溜め息をついている。たぶん想像するに日頃からこの爺はこんな感じなのだろう。厄介な舅で大変そうですね、同情するよ。あまりに村長が煩いの家の奥から村長の息子も顔を出してきた。このまま騒がれると俺達が村長の家を出た時、出入り口の前にずらりと野次馬が集まっていることになりそうだ。さて、これをなんとかしないと。


 まずは、父さんは努めて冷静な口調で、この年季の入った頑固者を説得しようと試みる。


「お願いだ、どうか村の男衆を召集して共にオーク退治へと参加するよう呼びかけてもらえないだろうか。あいつらが、こちらに襲い掛かってくるかは判らない。ただ、もしもあいつ等の襲撃を許したら村の者達、それも女子供が犠牲になる公算が高い。こちらから攻めたほうが不意に襲い掛かられるよりはるかに安全だと保証する」


 父さんが長い台詞を喋った! 頑張ってる、汗を滲ませながら凄い頑張ってるよ!!


 そして、実際、地味に俺達がオークを襲撃して数を減らそうとしているけど、この行為によってやつらが必ず逃げてくれるとは限らないからね。最悪、逆上してこちらに攻めて来る可能性もある。第一、奴等には以前に人間を襲ったという前科があるからなおさらだ。


「やつ等の巣の詳細な位置は判っているので村が総出でかかれば何とかなる。後は村長殿のご下知を頂ければ、即、奴等を掃討してご覧に入れよう。そうなれば村民は皆、村長殿のご英断を称え、貴方の名は永劫と村を救った指導者として村の歴史に残るだろう」


 これぞ何度もシュミレーションして考えた村長の自尊心をくすぐる戦法だ。こういった業突く張りにはこの手のゴマすりが有効だろうと考えたんですよ。名付けて”『ブタ』もおだてりゃ木に登る”作戦である!


 しかし、俺達は次の村長の言葉でこの爺の欲深さをなめていたことを知る事となる。


「知らん! オーク共が突然来たというなら、ふらっと居なくなることもあるかもしれんじゃないか。第一、これはワシがやる仕事ではない。領主様の仕事じゃ!!」


「その領主が頼りにならないから、奥の村は襲われて今ここにオークが来たんじゃないか。高貴なお方は俺らのことなんか家畜程度にしか思ってないぞ」

「五月蝿い、だったら貴様らが行け。村を捨てて異人を連れ込んだ戯け者が村に戻ることを許してやったんじゃ、それぐらい仕事するがいい!」


 ……この畜生がとっととおっ死ね。俺達がお前等の、いやお前の無理難題にどれだけ被害にあってきたことか……。まだだ、まだこの感情を爆発させるときではない。さて、どうするか。


「残念だね、父さん。村長さんはオーク達が出ていく事に期待するらしいよ」


 村長は、そんな俺の言葉を嫌味だと思ったのか「ふんっ!」と不機嫌そうにそっぽを向く。俺はそんな村長にかまわず父さんへと語りかけた。


「それじゃあ、他所から援軍を頼むってのはどうかな?」

「他所から援軍といっても支払いはどうするんだ。ない袖は振れんぞ」

「そこは逆転の発想だよ。オーク達が巣に溜め込んでいる物を報酬とすればいいんだよ」


「!?」


「前情報として既に村一つを略奪しているんだから穀物や金目の物をそれなりに溜め込んでいるはずだよ。他にもオーク達が秘蔵している宝物とかもあるかもしれないよ。それを報酬として提示するんだよ。穀物は嵩張るから、それに関してはうちらの村で買い取ると確約したらどうかな。そして俺らはそれを後で行商人に売れば実質、支払いはほぼ無しで済むよ」


「なるほど、必要経費、滞在費はこちら持ちぐらいは付けなければならないかもしれないが、それなら来る奴もいるかもしれんな。だが、その前に領主に話を持ちかけた後の話だ。そうじゃなければいちゃもんをつけてくるかもしれ「ちょっと待て」」

 

 眉間にしわを寄せた村長が俺達に顔を近づけてきた。その目は見るからに欲に濁りランランとしている。いや、欲に濁った目ってどんな目だとは自分でも思うが。まあようするに興奮状態とかテンション上がりまくりなのを勝手にそう評しているだけである。


「そんな山賊だか盗賊団だかと大差ない無法者共を村に呼ぶなど許さん。仕方がないので、村の男衆に声を掛けてオーク退治をするとしよう。お忙しい領主様に報告してお手を煩わせることはない。我が村だけで対処しきるのだ」

 

 釣れたーー!!

 きっと他人にどう思われようと気にしない生活をずっとしてきたせいだろう、この強欲爺、露骨なまでに判り易い反応を返してきやがった。まあ都合が良くていいけどね。明らかにオークの溜め込んだ物資を村長の強権で横領しようとしているのが丸判りだ。既に領主への税もいくらかピンハネ(勿論、他の村民の税は増えます)しておいてまだやりやがるか。


「お前らは、村の者と一緒に戦え」

「了解した。村長殿は村で朗報を待っていてくれ」

「いや、ワシも共に行こう。

 いいか、ワシのとこにオーク共が来ないよう最前列でお前は戦うのだ」


 オークのお宝を他の村民が自分より前に勝手にネコババしないように見張ろうというのですね、わかります。


「ああ、私は前線でそちらにオーク共が行かないように奮戦しよう。だから村長殿は後方で安全に顛末をご確認してくれればいいだろう」


 そう、後方に居ればいいと思うよ。まあそれで”本当に”危険がないかは知らんがね。

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