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誰か勝手に魔王、倒してくんないかな  作者: 山彦
第一幕 少年時代編
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明日への下準備 続

 村の中で丘と言える場所は我が家の近くにある母さんが眠っている丘しかない。

 俺は、その丘に生えている切り株の上に座りながら行商人を待っていた。この位置ならば村長の家を始めとした村の家々を見通すことができる。


 そして、目当ての行商人がやってきた。 訪れた行商人は近くで見ると、かなり大柄な人物だった。長年、遍歴の商売による道程で鍛えられたためか、その体躯はがっしりとしており、その背は村一番の体躯を持つ、父さんよりも背が高い。


「なんだ、誰が呼んだのかと思ったらガキじゃないか」

「いやいや、そう邪険にしないでくださいよ。カシミロさんでよかったですよね?」

「カシミロで合ってるぞ。で、俺を呼び出したってことは何か俺の得になるような話があるってことだろうな?」 


 行商人は、カシミロは俺に向けて探るような目を向ける。まあ、謎の呼び出しに答えてやってくれば居たのが子供だったとあれば当然の反応だろう。それなりの危険も覚悟しただろうしね。

 こんな辺境の村々へやってくる行商人は貴重だが、対抗馬がまったくいないわけではない。村と結託した商売敵がカシミロを嵌めようとしている可能性もゼロではなかったのだ。


 まあ、取り逃がした場合、村の悪行が広まってしまうし、その場合、今後、他の商人との取引において村の立場は圧倒的に低くなってしまうので、よっほどの馬鹿でもない限りは、そんな事はしないだろう。だが、世の中では悲しい事に必ずしも理性的な人物ばかりではないのです。


「いえいえ、村を通さずにちょっとお売りしたものがございまして。家で炭とか作ってんですが買いません? それと毛皮とか干し肉なんかもありますけど」

「素直に村を通せばいいだろう?

どうしてもと言うならば買い取ってやらんわけでもないが受け渡しは誰にも見つからないところで、こっそりとやらせてもらうし、それなりに値引かせてもらうぞ」


 そうして、カシミロは探るような視線を俺に向けた。


「後、品物見せてもらわないとな。とりあえず品をここまで持ってきてもらおうか」 


 ですよねー。

 見通しの悪い所に移動させられるのは危険ですし、それと、村を通さずに取引してることがばれたら今後、この村との取引に支障がでるかもしれないからね。まあ、それなりに値引くのは致し方ないと理解してますよ。ですが、それを差し引いても村側を通した場合のピンハネの割合が大きそうなのですよ。まあ、実際に試したわけじゃないけど前科がありすぎるからな。


 だがしかし、ここで素直に我が家と村側との軋轢をばらしてしまってはお話にならない。交渉は弱みを見せたほうが負けなのだ。

 交渉とは、一つのパイをどれだけ確保するかを競う争奪戦。とりあえず、炭とか毛皮とかをここまで運んで、これからチキンレースをおっぱじめよう!!


「こんなんですけど、どうです? この辺りに生えている竹を炭に変えたものなんですけど効果は木の炭とさほど変わりませんよ」


 ほれ見てみろとばかりに俺は持ってきた竹炭に火を付けデモンストレーションしてみる。


「たしかに本当に炭のようだな」

「でしょ! でしょ!」

「だがしかし、ちょっとばかり炭火が木の炭と比べて小さくないか? それと、ほとんどの炭に、ひび割れや縦割れが出来ているようだな。これは少々、値を下げざるをえないな。で、幾らぐらいで売れると思ってんだ?」


 むむむ、そうきたか。だがしかし、ここで素直に希望価格を言ってしまっては交渉人失格である。希望価格を言うって事は、例えるなら自分から奪うパイの割合を言った分量以上に増やす権利を無くすに等しい。ここで俺がパイの四割は欲しいと言ったなら向こうは絶対にこちらに四割以上渡そうとしないだろう。その場合、次の展開はこちらが四割よりも低い割合でパイを分割させるように諦めさせるよう交渉させられるという劣勢にたたされてしまう。


 そうは問屋が卸さないってもんだぜ。こちとら、前世じゃ数年とはいえ社会人やってたんだ。向こうでは、この程度はそこらの本屋で扱われている営業本に記載されまくっている交渉の基本中の基本である。元現代人なめんな!!


「麦袋に入るだけの炭、一袋に付きロンド金貨一枚ってとこですね」


 麦袋一袋とは大体、人間一人は一年暮らせる麦が入る大きさだ。日本で言う米俵一俵に該当するサイズだ。なお日本の一俵は大体六十㎏である。


「ふざけんな暴利にもほどがある。

それくらいの量の炭でその値段はありえんだろ。ペニング銀貨五枚程度がせいぜいだな」

 

 当然、抗議するカシミロ氏。だがここからが交渉の始まりだ。


「いえいえいえ、それに炭のひび割れや縦割れは使用に関してそれほど問題にはならないでしょう。炭火が小さいというのも、まさか調理用に炭を使うわけありませんし。でもたしかに少し暴利かもしれませんのでペニング銀貨十七枚ではどうでしょうか?」


 炭なんざ、ここでは金持ちが煙が出ない事を重宝がって家の中で暖房用使うか、鉄の精錬に使うぐらいなのである。現代じゃあるまいし、見かけやらは気にせんだろう。……鉄の精錬はどうなるかは知らんがそれはここでは言わないお約束である。


 まあ、ひび割れや縦割れのない竹炭を作れたらよかったんだが、どうも竹炭って木炭よりも難易度高いようなんだよね、初回は一発で一応成功したけど。色々試したが、ひび割れや縦割れなどが出ないように作れたのはごく僅かである。畑に撒く用にはむしろ助かったがな。


 因みに、通貨の単位は、1ロンド=20ペニング=240ペリー=960(フォーシンク)ってとこだ。ロンド金貨一枚はペニング銀貨20枚に相当し、ペニング銀貨一枚はベリー銅貨十二枚に相当、ベリー銅貨一枚はフォーシンク銅貨四枚に相当する。ベリー銅貨とフォーシンク銅貨はどちらも銅貨だが、フォーシンク銅貨の方がサイズが二周りほど小さく銅の含有量も低いので、このような価値となっている。


 なお、さっきの説明で気づいたと思うが、フォーシンク銅貨にはG,s、dみたいな単位はついていない。フォーシンク銅貨は庶民が使う小銭だからな、公式な書類に書くほどの規模じゃないから仕方がないのだ。もしも書き入れるとしてもそれは、1/4dみたいな書き方になる。

 

 通貨の価値は大体、一般的な家庭なら1Gあれば一月なんとか暮らせる額である。それと同時に一般的な農家の月収でもある。因みに、うちはそこそこ農家としては裕福な方なんだよね、”普通”にやっていればな。

 さて、現在の売値交渉はというと、ようするに数十キロの竹炭は今、一月分の生活費と一週間分の生活費の間を行き来しているということだ!!


「ペニング銀貨七枚とベリー銅貨六枚」

「ペニング銀貨十六枚」

「ペニング銀貨七枚とベリー銅貨十一枚」

「ペニング銀貨十五枚って、何だかせこくないですか?

 銅貨じゃなくて銀貨を上げてくださいよ」


 俺がそう言うと、突然カシミロは俺に指を突き出し、目を吊り上げた。そして「あぁぁッ!!」と唸りをあげると、俺に対して威嚇してきた。だがしかし、しばらく続けても俺が怯まないと判ると不機嫌そうな顔をしながら背を向け、頭を掻いた。


「ちっ、糞ガキが。俺は別にここで買わずに村に言いつけてもいいんだぜ?」

「それは困りますね。でもその場合、いくらか村側に渡した後で別の商人が来たとき渡せばいいことですよ。何よりここで儲け話を逃すのは損だと思いますよ。こちらとしても、村を通さないという無理をきいてもらっているので多少の融通はしてもいいと思っていますし」

「……一袋に付き銀貨十枚、毛皮等は村での取引の4/5なら引き受ける。それ以上は取引無しだ」

「……もう一声駄目ですかね」

「あー、俺的にも村を通さずに取引寸のはリスクあるしなー」


 くっ、わざとらしい台詞を! これ以上は危険か。


「……それでいいです」 

「まいどあり」


 カシミロが上機嫌に答える。もう少しいけたのだろうか?

 だがまあ、こんなもんかね。あまり欲張っても後々駄目になる可能性も有るし。

 俺はデモンストレーションにと付けた炭火を消すと、ついでにと傍に置いておいて焼いておいた芋をその辺の枝で刺して取り上げた。


「食べます?」

「もちろん遠慮なく」


 焼けた芋は予想以上の熱さだったので、あちぃちっと言いながらお互い芋をお張っている。「ああ、あふぉふあふい!」(ああ、すっごく熱い!)


「しかし、どうしてこんな時期にこの村に着たんです?

 まだ、麦の刈り入れ前ですよ」

「まあ、そうだな。お前さんに言っても特に不都合はなさそうだから答えるか。これは俺がたまたま領主に救援にきた村人と話せたことで手に入れた情報なのだが、ここより奥の村がオークの群れに襲われたそうでな。家が焼かれたり、食料を持ってかれたりしたそうだ」


 ああ、なるほど、その村に食料品とか生活品とか売りつけにいくのね。弱り目になっている村に高い値段をふっかけるのか、それとも恩を売って村の取引に割り込もうとしているのかしらんが流石は商人、たくましい事だね。しかし、向こうの村ということは森を挟んで向かいじゃないか。運が悪かったらこっちに来たやもしれんな。


「あれ? でも特に最近、この辺りに騎士様が来られたという話は聞きませんけど?」

「それがな、領主の奴、特に兵を出す気はないようなんだわ。オーク共も森の奥に帰っちまったし、どの道その村は今年は税を徴収できる状態じゃない。なら、見つかるかどうか判らない森の中に兵を出すのはくたびれ儲けになる公算が高いから嫌ってわけさ」


 今年の貢納を勘弁してやるから面倒かけるんじゃねえってことですか……。哀れすぎて、うちの村でなくてよかったとしか言えんな。しかし、他の村が襲われたらどうする気なのだろう。自分で冒険者とか兵隊雇って退治しろということだろうか。


 そして、彼もそんな村によく行く気になったものだ。途中で村を襲ったオークに出くわすとか思わんのかね。前世でもごく偶に戦争地帯でも弾丸掻い潜って商売し続けるやつらがいたそうだが、こっちの世界ではこれがスタンダードなんだろうか?


 麻痺しちまってんのかね、そこらじゅうにモンスターやら山賊やらだ出る世界だと。逞しく生きてるよな、こちらの人達は。俺も見習わないと。

 貨幣の値や名称は昔のイギリスの通貨の値を変更又はそのまま流用しています。

本場では、

1£(ポンド)=20シリング=240ペニー=960(ファージング)です。

なお、1971年2月15日から十進法が制定され、

1ポンドは100ニューペンス(1 £ = 100 p)になりました。


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